8話 恋ばなと修学旅行8

「てめえ田中、お前の言った通りやったら、結果最悪じゃねぇか!!」「何があいつ最近、聖女様と仲良くて生意気だから、からかってやろうぜだよ」


「くっつけてどうすんだよ!!」


「いや流石に、聖女様が、あいつの事をスキいや、気になっているとは思わねぇじゃねぇか!!」「田中まだ、認めてねぇのか?さっきの聖女様見たか?天野夜空の為に、おにぎりまで……」「あぁ、俺の聖女様がぁー」


「もう、性女様になっちゃってるかもよー?」


「アーーー!!俺の聖女様ー!!」


「あれ?近藤さん、どこ行ってたんですか?」


 姿が見えないと思っていたら、僕達の席おバカップル席(遠藤さん命名)に近藤さんがやけにニコニコして戻って来た。にしてもおバカップル席って…。


「ん?男子達からかって来たー」


 近藤さん、傷口に塩を塗るような事を…南無。


 田中君が皆にボコられ、いや教育的指導?受けている所を尻目に、少し重くなってしまった朝食を食べた僕達は、食堂を出ていこうとする。田中?あいつは星になったんだよ…。


 僕らが出ていこうとした時、目の前に毬栗頭もとい星になったはずの田中が俺達の前に顔を出した。少しボコられた後があって痛々しい。


「おい天野夜空!!てめぇなんで、こんな事になってんだよ!!」


「何でって言われても……」


「夜空っちは、ちゃんと立派に……」

 遠藤さんが口を挟もうとすると、


「黙れよ遠藤!!お前に聞いちゃいねぇ!!」


「あ?」田中の一言に遠藤さんの顔から笑顔が消えて、怒りの圧力が感じられる。

 やっぱり、遠藤さん怒らせると怖そうだな。

 田中が、少し後ずさった。

「なっ、何だよ!!」 

 一瞬で食堂の空気が変わった気がする……でも、


「あのさ遠藤さん、ここは僕に話をさせてくれないか?」


「夜空っち、あのねぇ」

 僕は遠藤さんに向かって、ニッコリ笑い、


「負けないから、絶対負けないから」と呟く。

 しばらく僕の方をじっと眺めていた遠藤さんは、ため息一つ「じゃあ私の分も頼むわ」そう言い残して日向さんの方に戻った。


「夜空君!!」入れ替わりに日向さんが、僕の方へ近づこうとした所を、遠藤さんがそれを止めようとする。


「いくら千早でも、これは聞けないです!!」

 遠藤さんの手を振り切って、日向さんが僕の方へ走ってくる。「あぁ、もう」と言う遠藤さんの声が聞こえてきた。


「くっ、何で天野夜空ばっかり」田中が歯ぎしりをしながら僕と日向さんを睨みつけて来た。


「日向さん、あの……」申し訳無いけど、ここは僕一人でやりたかった。


 ゴメン後で、いくらでも謝るから。


「えっ?」


「夜空君!!良く解らないけど頑張って下さい!!」僕の両手を掴んで日向さんがブンブン振って応援してくれる。


 そうだった日向さんはこういう人だった。真剣な顔だ、君の為にも頑張らなきゃ……。


「解ったよ日向さん、頑張る、あれ?」日向さんの柔らかい小さな手に決意を新たにしようとした時、急に手をひかれてバランスを崩した。


「えっ?」何があったのか解らずに不意を突かれて焦っていると頬に温かな感触がした。


「はっ?」「ひ?」「ふぁ?」「へ?」「……言わないよ!!」


 食堂中がどよめき、小さなうめき、キャーと言う歓声が響いた。


「えっえー!!」頬に残った日向さんの唇の感触にあたふたしていると。


「ひっ日向さんが、あの野郎の頬に……うっ嘘だーー!!」


 毬栗頭がその場にへたりこんでしまった。


「ねぇーちーちゃん、これ勝負終わってねー?」近藤さんが、遠藤さんの腕をつついている。


 谷本が近づいて、田中の様子を見ている。

 しばらく眺め、ため息をついて首を振った。


「田中戦闘不能、勝者天野……夫妻?」

 食堂中に歓声と罵声と黄色い声と笑い声が響き、僕ら?勝者を讃える。


 天野夫妻と言われて少し嬉しかったけど、静かな怒りに任せて谷本を捕まえて、軽く関節技を笑顔で決めた。


 僕の覚悟っていったい何だったんだろう。


 出ていく時に遠藤さんが男子達に。


「今回の事で、これ以上、夜空っちに何かあったら……女子達全員から総スカンだから、解るね?」


「イエス マム!!!」


「後、私達の班に、夜空っち貰うから。代わりに、班長は田中!よろしくね!」


「何で俺が!?」

「お前は、黙っとけ!!」

 隣の男子にどつかれ黙る田中君(強制)


「解った!?」


「イエス マム!!!」他の男子達の声が揃った。確か男性はサーで女性はマムだったな?そんなどうでも良い事を思い出した。


 凄いな遠藤さん、あまりの迫力に少し圧倒されてしまった。


「日向さん、遠藤さんって、格好良いね」


 少しの尊敬と呆れ混じりで日向さんを見る。


「はいっ!!千早は、私のヒーローなんです!!」


 日向さんが、ドヤ顔で胸をはる。

 うん、目がある所に、行ったよ。

 そりゃこれでも男だもん、しょうがない。

 好きな子の胸に興味が無い訳がない。

 さりげなく、見なかった事にする。

 谷本君情報が頭をよぎったが見なかった事にする。


「うん、何となく解るよ」


「あっ、でも夜空君もヒーローで、私にとって大事な人で、千早も大事なんですけど、少し違って……」


「その、千早の事格好良いと思いますか?……」

 言いたい事が纏まらないのだろう。


「どうしたの?ゆっくりで良いよ」


「良く解らないんです」


「千早は親友で、とっても格好良くて、いつも優しくて、昨日の夜だって、私の話をずっと聞いてくれて」


「親友を誉められて嬉しいはずなのに、大好きな人が大好きな友達を誉めてくれたのに何故か、胸の奥がモヤモヤするんです」


 日向さんは、うつ向いて僕の左手のジャージの袖を掴み引っ張る。


「私は、嫌な娘になってしまったのでしょうか?」


 不安げな表情も可愛くて、愛おしくて、


「大丈夫、大丈夫だよ」


 僕は、彼女をぎゅっとして、背中を軽くポンポン叩く。


「心配しなくて、良いからね」


 あぁ、この娘は優しすぎる。

 悪意というものに慣れていなさすぎる。

 嫉妬と言う名の悪意に、戸惑っているのだ。

 聖女様という愛称は、本人が望まないとしても、やっぱり良く合っているのだろうな。


「僕は、君のそばにいるでしょ?遠藤さんも君のそばにいるでしょ?何も心配する事は無い。君の胸のモヤモヤは、君が君でいるって事なんだよ」


「皆で仲良くしていこ?その胸のモヤモヤともね」


「ねぇ夜空君……、私何故か急に甘えん坊になったみたいです」


 僕は、もう一度背中をポンポンと軽く叩く。


「日向さん、別に彼氏にだったら、甘えても良いのでは?」


「はいっ!!」


 日向さんの今日一の笑顔に、僕も微笑み返した。


 そして、気付く現状、遠藤さん、近藤さんを筆頭に、生温かいやら、呆れるやら、殺意やら、きっと視線をつるぎに出きるなら、当たり一面の剣の山、アンリミテッド・ブレードなんちゃらーな感じ。


「いやー、そのー、見なかった事には出来ませんか?」


 やらかした空気感に、二人して、弁明しようとする。


「あのね、別に好きあってる二人が何をしようと構わないけどさ」


 遠藤さん渋い顔をする。


「ナニをおっぱじめようとねー!!痛ぁ!!」つまらない事を言った近藤さんが遠藤さんにはたかれる。


「少しは、自重して」


 その言葉は、近藤さんに言ったのか僕達に言ったのか解らなかったので、二人で少しアワアワしていると、


「三人ともだよ」


「すみません」「ごめんね千早」「本当少しは、落ち着いてよねー。はい、私もですよねー」やっぱり近藤さんは、懲りない人だ。


「夜空っちとひな!!そういう事は二人きりで!!」お恥ずかしい限りです。


「はぁ、凄いもの、見たわね」「本当、人前で抱き合うなんて……」「えっ、そこなの?」「そこじゃないの?」「夜空ぽんぽんマスターの美技の前では、そんな事些細な事よ」「ぽんぽんマスターだと!?」「しっているの雷電!?」「誰が雷電よ!!」「駄目よ、そこは、そう言えば聞いた事があるよ!!」「で雷電って誰よ!?」「知らなーいパパが言ってた」「ねぇ、ぽんぽんマスターって、何よ?」


 色々と無視しながら、僕らは、出かける準備をする事にした。


 修学旅行の2日目なのに、濃すぎるよな。







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