第10話 恋ばなと修学旅行10
奈良から京都まで、しばらく時間がかかるらしい。
バスは奈良の市街地を走っていく。
日向さんと談笑をした後の事だった。
「少し、休んだら?」
酔い止めの薬のせいか、うつらうつらし始めた日向さん。あまりにも眠そう。
彼女は、薬が効きやすい体質だそうだ。
「やです」
「でも、辛くない?」
「今眠ったら、きっとこれは夢になっちゃうんです」
会話が支離滅裂になって来ている。
相当、眠いんだろうな。
「目が覚めたら昨日の夜で、みんなで色んな話をして、もちろん恋ばなも……」
そっか、昨日恋ばなをしたって言ってたな。
「全部、夢みたいなんです」
「何かフワフワしてて、昨日の私は、意気地無しで弱虫で、でも、誰かに話を聞いて欲しくて話始めたら止まらなくなって」
「きゃわ」「聖女様きゃわ」「でも、重い」「うん、激重だよね」
小さく、周りの女子からの声が聞こえる。
まぁ、確かに可愛い。
そんでもって、確かにちょっとだけ重い。
「昨日のひなを夜空っちにも見せてやりたかったよ」
隣の席から遠藤さんが笑う。
「ニヒヒ、多分悶絶して、その辺で転がってそうな気がするけどー」近藤さん、からかってくるなー。
「かもね、それでも見せてやりたかったよ」少し、色っぽく言う遠藤さんに、少しドキッとする。この人、本当に同い年だよな?
ドキッとした僕の顔に日向さんが、僕の腕にしがみついたまま、ちょっとムッとしてる。僕は、少し苦笑いをして、彼女の頭にすっと手をおき、優しく撫でた。
とたんに目をとろんと潤ませ、エヘヘと笑う彼女に、微笑みかける。
「大丈夫だから」
そう一言だけ言った僕に、彼女は。
「はい」
恥ずかしそうに笑った。
「あれ!あれだ!」「あれで、落としたんだね、聖女様を!!」「エロい!!天野君の顔がエロい!!」「(ひそっと小声)あれ?天野君て、陰キャガリ勉メガネ君の立ち位置じゃなかったっけ?」「(ひそっと)イケメンムーヴしてるよね?」「良いなぁ、頭をポン」「(隣の女の子に頭をポンとされて)あんたじゃないわよ!!」「ナチュラルたらしかぁー実在したんだ」「ぽんぽんマスター」「あぁ、聖女様が恋する女の子の顔に」「聖女様が性女っイタッ!!」「言わせないよ!!」女の子が怖いです……。
「んっ、まぁ夜空っちも、大概だよね」
「ごめん」
苦笑いする遠藤さんに、苦笑いをして軽く謝る。
今日は彼女には、迷惑かけっばなしだな。
「ひなからいっぱい聞いたよ。2年の文化祭の事、クリスマスに誘おうとして出来なかった事、バレンタインに誤魔化すために沢山のチョコを作ってきて夜空っちの分だけ特別なチョコを作った事」
驚く僕に、日向さんが恥ずかしそうに僕の腕に顔を埋めてる。
「その話は、言っちゃ駄目だって、言ったじゃ無いですか」
ニヒヒと笑う遠藤さん。
「この子も色々溜まって…いや、話したい事あったんだろうね。他にも、最近、軽々しく告白されて困るとか、罰ゲームで告白されて迷惑しているとか」
日向さんが、ムッとした顔をする。
ころころ表情が変わって、可愛いなぁ。
「そうなんだ」
「そっ、あなた達少し噂になってたじゃない?その話をしたら、この子急に恥ずかしがってね」
「だって、しょうがないじゃ無いですか」
「さっきまで、一緒に話してて、楽しいなって思ってて、良いなって思ってて」
「胸の中に何か溜まってる感じで、誰かに話したくて、話せなくて」
日向さんはそっと目を瞑り自分の胸にゆっくりと手を当てる。
「何となく、頭の中に夜空君の言葉がいくつも響いて…その、切なくなってて…来て」
「ありがと、思ってくれて」
僕は、この愛しい人の頭をゆっくりと撫でる。
「すっご、天野夜空すっご!!」「見て、あの聖女様のデレた顔!!」「ぽんぽんマスターだ!!」「ゴッドハンド夜空だ!!」「私も、撫でられたーい!!」「あんたが言うとエロいのよ。」「非処女なめんなや」「ぐぉ、マウント取られたー」「それくらいよね、あんたが誇れるのー」「ぐぉ、いじめです!!いじめがありました!!」
「シーッ!!」
「私は、今が、本当に……夢……みたいで」
日向さんは、寝そうだ。
「あらあら、うちのお姫様……ううん夜空っちのお姫様はおねむの時間みたいね」
遠藤さんが苦笑いをする。
「まぁ、昨日、夜空っちの事話してくれてね。もう、可愛くて可愛くて。それで、恋するひなの背中を押してあげたくて、皆で」
「あはは、どうも」
それで聖女様の恋ばなね。
「さぁ、どうしようって思ってたら、さっきの田中の話があったからね」
「まぁ結局、背中押す必要はあんまり必要無かったけどね」
「上手く行かないとは思わなかったのか?」
遠藤さんは、目を細めて僕の顔を見つめ言う。
「あんた、この子に言い寄られて、断る勇気ある?」
遠藤さんの言葉に、日向さんのウトウトした可愛らしい顔を見て。
「あはは、あまり無いです」
「あまり?」
「いや、無理かな?」
「だよね、まぁ半分は冗談として、この子だったら、背中押しちゃえば、後は何とかなるんじゃ無いかなって」
「もちろん、夜空っち、あなたの事、ちゃんと知る必要はあったけどね」
遠藤さんがふふっと笑う。
「僕は、どうだったのかな?」
少しドキドキする。
「隣の子を見れば、解るでしょ?」
僕の肩をポンと叩き。
「今まで、そんな幸せそうな顔のこの子見た事なかったわよ」
幸せそうに眠る、日向さんを見て、僕らは起こさないよう小さく笑った。
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