第八話 新しい仲間は、ケツの青いガキ!?
それからしばらく、
と言っても、ここでできることはパーティーの結成だけではない。
色んな冒険者の情報が集まっているのだ。たとえパーティーの募集をしていなくても、誰が強いとか把握しておくのは大事だろう。
……早い話、冒険者の実力は依頼を受けられる可能性に直結しているのだ。
ここは東洋の冒険者組合のように忙しいわけではない。毎日すべての冒険者が依頼を受けられるとは限らないのだ。
だからこそ、実力のある冒険者を指名して依頼する場合周囲の冒険者はそれを見ていることしかできない。
仕事のない者は、修練場で新人の指導をすることで生活費を稼いでいる。
もちろんそれも大切な仕事だが、やはり冒険者としては依頼をこなし高い賃金を得るのが理想的だろう。
そう考えると、実力者や名のある冒険者の情報を仕入れておいて損はない。
……というか、それ以外にやることがない。
「ほとんどの情報は見尽くしたが、目ぼしいパーティーはなさそうだな。それに、紙に書いてある情報だけじゃわからんことが多すぎる。実際この目で見てみないと」
そう、阮は自分が入るべきパーティーを決めかねていたのだ。
そもそもランクDが入れるパーティーはこの時期に募集などかけない。相当緊急の用でもなければ、ランクDの手など借りる必要もないからだ。
(くっそ。こうなったら、フェンリルロアのブルーノに言われた通り単独でランク上げをする方が良いか? 少なくともランクCに上がれば、加入できるパーティーは増える)
ランクCからは難易度の高い依頼が増える。一日で終わらない場合もあるし、出張だってある。当然人数が必要なはずだ。
だからこそ、ランクC以上のパーティー募集は多い。
もちろんギルドの規定ではランクDでもランクCパーティーに加入することはできる。
しかし中堅というのは傲慢なもので、パーティー加入条件にランクC以上としているところが多いのだ。
つまるところ、ランクCに上がらないことには何もできない。
残る手立ては、新人たちが訓練期間を終了し冒険者としてスタートする時期まで待つ……。
(いいやダメだ。訓練期間が終わるまであと3か月はあるそうだし、そんなに待ってはいられん。俺だって生活費を稼がねば)
変な時期に冒険者登録をしたのが悪かった。もっと早い方法もあっただろう。しかしタイミングというのは、計りようのないものなのだ。
「仕方ない。とりあえず今日の宿代でも……」
「あの……!」
と、依頼用の掲示板へつま先を向けた阮に対し話しかける声が聞こえた。
振り向いてみると、そこにいたのは小さな少女である。手には何やら張り紙を持っていた。
「もしかして、パーティーメンバーを探していますか……?」
恐る恐る。そんな様子で少女は話しかけてくる。しかし様子がおかしい。
蛟龍をあっさり打倒した阮だ。話しかけてくる者は、先ほどのフェンリルロアといった上級冒険者やギルドの職員のみ。
それ以外の者は、彼を警戒し遠巻きに眺めているだけ。
だというのに、この少女は恐れつつも真剣な態度で話しかけてきた。素晴らしい胆力である。
「その通りだ。俺の名は百鬼阮。その張り紙、もしかして……パーティーの募集要項か?」
「は、はい! 私の名前はカミラです。まだお決まりでなかったら、私たちのパーティーはどうですか!」
阮が問いかけると、カミラと名乗った少女は満面の笑みで答えてくれた。
夕日色の艶やかな髪に同色の瞳。小柄な体格と、恐らくは魔導師と思われる深い暖色の衣装。
とても愛らしさを感じられる、そんな少女だ。
言いながらカミラは懐から冒険者カードを取り出し、そのランクを見せてくれる。
幸いにも、彼女のランクはD。阮と同じだった。
「わかった。君のパーティーに案内してくれないか? 決めるのはそれからだ」
正直、阮自身も決めかねていたのだ。実際にこの目で見てみなければ、相手のことなどわかりはしない。紙の上でならばいくらでも嘘を吐ける。
であれば、この出会いは僥倖だった。
早速彼女が案内し、四人掛けの小さなテーブルへとたどり着く。
恐らくは食事用ではなく談笑用。もしくは話し合いのためのテーブルか。豪華な食事を並べるには少し狭い。
「グエンさん、紹介します。こちら私のパーティーメンバーで、左が戦士のアドラー。右がレンジャー兼遠距離攻撃のオーサ。そして私が、攻撃魔術師兼回復魔術師のカミラです!」
「基本なんでもできる、百鬼阮だ。よろしく」
バランスのいいパーティーだ。率直に、阮はそう感じ取った。
戦士のアドラーは、恐らく20代前半だろう。人間種の男性だ。
身長は阮よりも少し低い程度。一般に長身と言われるくらいの体格はある。
カミラと同じ夕日色の髪をしているが、血縁はないだろう。顔が全然似ていない。
筋肉量は少ないが、全身鎧を装備できる点を見ると身体能力強化の魔法が得意らしい。
獲物はブルーノと同じ大剣と、脚にショートソードを備えている。盾は持っていないが、鎧の防御力を考えれば必要ないだろう。
レンジャーのオーサは、見た目からは年齢がわからない。エルフの女性だ。人間で言うと10代の後半くらいだろか。
黄金色の髪と翡翠色の瞳が美しい。まだまだ幼さのある顔立ちだが、ひとつひとつの動作に品性が感じられる。
獲物は弓とナイフ、それから携帯用の杖。刃物で近距離、魔法で中距離、弓で遠距離と、幅広くこなせるタイプだろう。
装備は身軽さを重視しているのか、革製のものが主体になっている。
(胸が大きいのも非常にナイスだ)
俗物感満載のセクハラを頭に浮かべつつ、再びカミラを見てみる。
一般的な魔導師という格好。深い暖色のローブと夕日色の髪がマッチしていて素晴らしい。
杖はオーサのものよりも大きく、本格的な魔法主体の戦いをするのだろうことがわかる。
攻撃も回復もできるということで、彼女の重要性は非常に高い。
……それと、先ほどは幼い人間種かと思ったが、どうやら小人族のようだ。
改めて魔力の流れに注目してみると、どうにも人間とは異なる流動を感じる。
適性は恐らく火と念動。回復系統に関してはあまり適正とは言えない。訓練して身に着けたものか。
(総じて、非常にバランスのいいパーティーだ。各メンバーの得意分野を生かしつつも、足りない部分を補おうという努力が感じられる。若いのに偉いじゃないか。ただ……)
「このパーティーの問題点をひとつ挙げるなら、人数だな」
「ぐっ」
「あははー」
「おっしゃる通りです」
痛いところを突かれたのか、三人ともそれぞれの反応を見せている。
「ギルドからは高い評価を受けた構成なんですが、やっぱり人数の問題は努力では補いきれないものです……」
恐らくはこのパーティーのリーダーなのだろう。カミラが代表してそう告げると、恥じ入るように顔を伏せた。
「そうだな。この人数だと日を跨ぐ依頼は受けられない。危険だ。それに、迷宮や妖怪の巣に踏み入れば多勢に無勢で圧殺される。優秀な攻撃手が居てもそれは変わらない」
惜しい。潜在的な力は凄まじいパーティーだ。環境要因が揃えば、数年以内にフェンリルロアと並ぶだろう。しかしこのままでは……。
「そ、それで! さっきシーラさんに相談しに行ったら、ちょうどすごい新人が入ったから声掛けたら良いよって教えてもらったんです。早いもん勝ちだーって」
シーラはどうやら変なことを吹き込んでくれたらしい。
確かに、Dランクのパーティーが阮のような実力者を仲間にできるチャンスは二度とないだろう。
しかし早い者勝ちとは。言い方というモノがある。
(ん? 待てよ)
「お前たちまさか、さっきの修練場にいなかったのか? 俺のことを知らないで声をかけてきた……ってことか!?」
「ふぇ?」
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