4話
次の日。
また、かるた会のメンバーが呼ばれ、事情聴取を受けていた。
「藤井さんまで殺されてしまうなんて……」
渡辺を始め、かるた会のメンバーは意気消沈していた。
「次は俺かもしれない……。助けてくれよ!」
小西が泣きながら警察に保護を求めている。
「早く犯人を見つけるに越したことはありません。やはり共通点は百人一首の札ですか」
「三つ目の札は何だったんです?」
渡辺が紫子に聞く。
「めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬまに 雲がくれにし 夜半の月かな、ですよ。この三つの札の共通点、何か分かりますか?」
「ええと……」
「むすめふさほせ」
考え込んだ渡辺をよそに奏帆は即答した。
「何です、それは?」
「競技かるたの決まり手」
そう言われても百人一首に疎い面々は、はてなを浮かべるばかりだ。
「ええっとですね、百人一首の札を取る際に最初の一文字が詠まれた段階で札が取れるものです。例えば、『む』で始まる句は『むらさめの~』しかありませんので、『む』が詠まれた時点で札を取ることが出来るのですな」
渡辺が捕捉説明をする。
「む、す、め、ふ、さ、ほ、せ。七文字ですね」
「七人殺されるってことか」
「七人も殺される前に犯行を食い止めなければなりません」
京都府警の会議室にはgiftの面々と向井だけになった。
心理学担当の憂だけは事情聴取に付き合っている。
「どうするんだ、こうしてる間にも犯人は次の犯行の準備をしてるかもな」
潤が脅すようなことを言う。
「次が分かっているなら、どんな犯行になるか予想できないものだろうか」
川端が提案してみる。
「次は『吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を 嵐といふらむ』」
いつの間にか奏帆が会議室の中に入って来ていた。
「奏帆ちゃん!」
「おい、こいつは容疑者だろう。ここに入れるな」
「どうしたのですか、冷泉さん」
「ヒマだったから来た」
確かに他の人の事情聴取中はヒマだっただろう。
「では、冷泉さん、『吹くからに』の歌の意味は分かりますか?」
「吹くとすぐに秋の草木がしおれてしまう。だから山から吹く風を嵐というのだなあ」
ホワイトボードに「山」と「風」を書いて足すと「嵐」だと教えてくれる。
「何かダジャレみたいね」
「そう。作者の文屋康秀は面白い歌が多い」
「で、どうやって殺すんだ。犯人が嵐でも起こしてみせるってのか、馬鹿馬鹿しい」
「殺し方は一人目と三人目と同じ首絞めでしょう。それで台風の日に発見させるとか」
「そういえば台風、近々来るそうだな」
川端が天気予報を見ながら言う。
「何だと⁉ そんな丁度よく……」
「だから秋を選んだのでしょう。台風の多い秋を」
「次の『寂しさに 宿を立ち出でて ながむれば いづこも同じ 秋の夕暮れ』も秋の歌。でも次の『ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば ただ有明の 月ぞ残れる』は夏の歌」
「秋まで五人殺した後は夏まで待つのかよ」
「録音したほととぎすの鳴き声を聞かせながら殺したり、とか」
「ちなみに最後は?」
「『瀬を早み 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ』恋の歌」
「きっと滝川に落として殺すのでしょう」
「まだ起きてもない殺人を一々考えるのは止めだ! もう起きている殺人から何か見落としがないか考えよう」
向井が尤もらしいことを言った。
「では第一の殺人から。殺害場所は、かるた会が行われる渡辺教授の家。冷泉さんが首を絞められた浜野さんを発見するまで、犯行が出来た可能性のある人物は渡辺教授、冷泉さん、藤井さん」
「私は、やってない」
「そうよね。奏帆ちゃんは違うわよね」
潤が奏帆を庇う和泉に何か言おうとしたが、紫子が続ける。
「第二の殺人。こちらは被害者の美山愛子さんを大阪の住の江海岸まで運ぶ必要があります。どうやって運んだかを、まずは考えましょう」
「被害者を呼び出したとか」
「今、鑑識で美山愛子のスマホの解析もやってる。そんなメッセージが残ってたらビンゴだな」
「あとは車とか」
「車を持ってるのは渡辺教授と杉山さん」
「怪しいのは、この二人ね」
「第三の殺人。磔にされた藤井さゆりさんを一度、僕達に見せてから雲隠れさせた。実際には磔を倒しただけですが」
「磔を作るのも労力がかかりそうだな」
「恐らく先に藤井さんを殺してから磔にしたのだと思いますが」
「それはそうだろうな」
「首を絞めて藤井さんを殺害、磔にする、僕達に見せる、磔を倒す……」
「どうした、紫子?」
「あのビルで僕達は犯人とニアミスしたかもしれません」
「え?」
「僕達がエレベーターに乗るのを確認した犯人は階段から降りたのです」
「エレベーターが向かってきたらランプが光るもんな」
そこへ事情聴取を終えた憂が帰ってきた。
「どうでしたか?」
「小西さんは酷く怯えていた。あれは犯人じゃない。渡辺教授と杉山さんは落ち着いていた。二人とも藤井さんが殺された時刻のアリバイは無し」
「そうですか」
「見立て殺人をする犯人の心理状態だけど、犯人は百人一首に固執してる。強い執念があるように感じる。自分は殺しを許されている、そんな風に自分を正当化してる」
「となると、こいつも怪しいだろ。百人一首のクイーンにもなったんだから」
潤が奏帆を指差して言う。
「奏帆ちゃんが殺しなんてする訳ないじゃない!」
「そういう思い込みを利用して殺しをするかもしれんだろうが」
言い争いが始まったところで会議室のドアが開いて、斎藤が顔を出した。
「鑑識の結果が出たぞ」
「どうでしたか?」
「浜野のスマホにも美山のスマホにも誰かから呼び出された履歴は残っていなかった」
「そうなると、犯人は本人に直接呼びかけた可能性が高いですね」
「そうだ! 車だ! 車を調べろよ。犯人は車を使った可能性が高いんだ」
潤の言葉に斎藤は「分かった」と言って、会議室を出て行った。
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