2話

 京都駅に着くと、先に着いていた刑事の向井と斎藤が待っていた。

 刑事二人がロケバスのような車に乗ると、五人も続けて乗り込んだ。

 向かう先は京都府警だ。


 ロケバス内に大きな荷物を置いて、京都府警の中に入って行く。

 向井と斎藤に案内されながら、場違い感もありつつ進む。

「ここが捜査本部だ」

「百人一首殺人事件」と書かれた看板のある部屋に入っていく。

「百人一首殺人事件?」

 事件の概要が書かれたホワイトボードを見つつ、向井が説明する。

「被害者は浜野マサキ。雨が降った次の日の夕暮れ時、ヒノキの木の下で首を絞められ殺されていたのを発見された。彼の死体の側には百人一首の『村雨の 露もまだひぬ 真木の葉に 霧立ちのぼる 秋の夕暮れ』という札が添えられていた。だから今回の事件は百人一首殺人事件という」

「見立て殺人ですね」

「見立て殺人?」

 川端が聞き返す。

「童謡や詩、伝説や物語になぞらえて殺人をすることです。殺害現場に装飾を施したりすることもあります」

 そうか、と川端は頷く。何となく分かったようだ。

「第一発見者も連れて来てる。入って下さい」

 そう言われてドアを開けたのは高校の制服を着て、ヘッドフォンを首にかけていた。

「冷泉奏帆です」

「奏帆ちゃん! 百人一首のクイーンの⁉」

「そうなのか?」

 向井は芸能・文化関係には疎かった。

「何で知らないのよ? 有名でしょ? 美少女かるたクイーンって」

 和泉は恐らく美少女というところが琴線に触れたのだろう。

「被害者の浜野マサキも冷泉さんと同じ百人一首かるた会に所属していた」

 斎藤が事件の概要を続けて説明する。

「そのカルタ会での会合中に事件は起きたんだ」

「浜野さんがタバコ休憩に出ていて、いつまで経っても戻って来なかったので探しに行ったら、木の下で死んでた……」

「容疑者は、かるた会に参加していた者、または外部犯も考えられる」

「殺害動機も未だ不明だ」

「現場に残された百人一首になぞらえた理由も気になりますね」

「とりあえず、かるた会参加メンバーから事情聴取、近隣の人々から不審な人物がいなかったかの聞き込みを行う」

「えっと」

 奏帆が口を挟む。

「かるた会メンバー全員が容疑者ということ?」

「そうなる」

「うんうん。不安よね、奏帆ちゃん」

「その彼女も容疑者ってことになるだろ」

 潤が口を挟む。

「こんな若くて可愛い子が殺しなんてするはずないじゃない」

「それはまだ分からんだろ」


 その日は5名の事情聴取が行われた。


渡辺智彦(56)教授 百人一首の研究者

「かるた会は基本、私の家を使って行われています。私は浜野君が殺害された時刻は、所用で大学の方へいました。一人で自分の研究室にいましたから証明できる人はいませんが」


杉山航(21)大学生

「俺は渡辺教授の家でかるたをやっていたよ。小西と対戦してたし、一度トイレに行ったけど、数分のことで浜野さんを殺して戻ってくるなんて無理だと思うよ」


小西恵介(18)高校生

「僕は杉山さんと対戦をしていました。ずっと広間にいたことは美山さんが証明してくれると思います」


美山愛子(21)大学生

「はい。小西君と私は、ずっと広間にいました。血相を変えて広間に戻ってきた奏帆ちゃんに連れられて初めて浜野さんが死んでいるのを発見しました。私は浜野さんとは何もないし、何かあるとしたら、さゆりちゃんですよ」


藤井さゆり(20)専門学生

「えぐ、ぐす……、すみません……、まだ浜野さんが死んだことが受け入れられなくて……。はい、私は浜野さんが好きでした。気持ちも伝えられないまま死んでしまうなんて……」


「動機がありそうなのは浜野さんのことが好きだった藤井さんですが」

「フラれた腹いせとかか」

「あの涙は本物っぽかったけど」

 憂は心理学担当らしく自分の分析結果を言う。

「凶器のロープの解析は済んでいますか、向井君」

「ああ、指紋は検出されなかった」

「犯人は指紋を残さないように手袋等をして犯行に臨んだのでしょう」

「場当たり的な犯行ではなく用意周到に準備したってわけね」

「後は浜野さんのスマホ解析を待つことにしましょうか」


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