第三十三話 共闘
妖の気配を辿り、繁華街へとやって来る。既に狭間が展開され、そこから門前町への干渉をしているのが窺えた。今のところ、狭間の中に人の気配はない。どうやら門前町への干渉に集中しているようだ。
「心の準備はいい?」
「そんなもん、ウォーデッドになった瞬間から出来てるよ」
五人で狭間へと侵入する。するとそこにいたのは大よそ人型を保っているだけの異形。既に全身が変異し、残っているのは人型のシルエットだけだ。
二つの瞳がこちらを捉える。
「何だ、ウォーデッドは二人だけか。もっと大勢で歓迎してくれた方が面白いのにな」
妖――白斗は残念そうにため息をついた。
その余裕そうな面が気に入らない。確かに相手は天魔級に格付けされている妖だ。しかし、こちらだってそれなりに修羅場を潜ってきた身である。こうして舐められるのは癪に障るというものだ。
「早く転身しろよ。それまでは待っててやる」
あくまで上から目線を崩さない白斗。それでも十六夜達は冷静に指示を出した。
「颯、開放許可」
「神楽、開放許可」
「「御意!」」
二人で刀を眼前に掲げる。
「「解!」」
それぞれの鞘についたレリーフが中央から裂け、中から禍々しい瞳が覗く。足元から立ち上った黒い炎が二人を包み、やがてそれは黒い鎧へと変化した。
「颯――」
「神楽――」
「「参る!」」
颯と神楽は一斉に白斗に斬りかかる。颯は右から、神楽は左から、それぞれ渾身の斬撃を放った。しかし。
「温い温い」
白斗を断ち斬るはずだった斬撃は、それぞれ交差した左右の手で受け止められてしまう。力んでいる様子はない。刃を優しく摘むようにそっと、だが確実に受け止めている。
だがこれで終わりではない。颯はもう一方の刀で、神楽は呪術でそれぞれ攻撃を仕掛ける。今度は確実に相手を捕らえた。颯の斬撃は妖の右肩を
一端白斗から距離を取る二人。ダメージは与えたはずだが、これで終わりとは思えない。次の攻撃に備え構え直したその時、神楽の目の前にそれはいた。
「この程度の炎で俺を焼けると思ったか?」
颯が抉ったはずの右肩が既に修復されている。まずい。神楽がそう思った時には既に遅かった。白斗が振るった右腕を何とか刀で防いだものの、衝撃で狭間の
「ぐはっ!?」
神楽の口から血が吹き出す。それだけ強い衝撃だった。だがこの程度で済んだのは雫が咄嗟に白斗の運気を吸ったからだ。もし雫の支援がなければ、神楽はこの場で命を落としていただろう。
一方颯は、神楽に攻撃するためこちらに背を向けている妖に再度斬りかかる。相手は天魔級。背後からの攻撃が卑怯だとは言ってられない。
颯は右の刀で白斗の背を斬り付ける。白斗の背に斜めに線が入り、血が噴き出した。しかしそれでも颯は攻撃をやめない。今度は左の刀で十字に傷を付ける。白斗は更に血を流した。
浅い。颯は斬った手応えからそう感じていた。確かに斬っている感触はあるが、大したダメージにはなっていないように思う。踏み込みもタイミングも完璧のはずなのに、妙に手応えがないのだ。
颯が次の斬撃を仕掛けようとした瞬間。いつの間に振り返ったのか、白斗の顔が目の前にあった。
「――っ!?」
刀の間合いの更に内側。これでは近過ぎて刀で攻撃できない。そう思ったのも
「おいおい。こんなもんか? お前の力は」
相手の動きを目で追えなかった。以前戦った認識阻害を持つ妖とは違う。これは単純な速さだ。速過ぎて目で追えなかったのである。
颯は戦慄した。この速度は尋常じゃない。こんな奴を相手に、自分達は三人だけで挑もうとしていたのか。だが、戦いを始めてしまった以上そこに情けも容赦もない。颯の頭が地面にめり込む。頭をつかまれたまま地面に叩きつけられたのだ。そのままアスファルトを砕きながら引きずられ、最後に放り投げられる。颯の身体はまるでボールのように宙を舞った。
一瞬の衝撃。その後ゴロゴロと転がる颯。しばらくしてようやく回転が止まるが、すぐに立ち上がることが出来なかった。それほどにダメージが大きい。
神楽の方も体勢を立て直すのに時間がかかっていた。直接の攻撃は防いだというのにこのダメージである。なるほど、これが天魔級かと舌を巻くが、今更引く訳にも行かない。何とか立ち上がり、颯に声をかける。
「颯、生きてる?」
「……何とかな」
刀を杖代わりにし、颯は立ち上がった。頭部からの出血はあるが、この程度で立ち止まっている場合ではない。自分達が負ければ、被害はもっと拡大する可能性があるのだ。
二人は再びタイミングを合わせ、白斗に踊りかかった。勝利とは常に限界を超えた先にある。相手が格上ならば尚のこと。より速く、より鋭い攻撃を求められる。故に狙うのは先の先。相手より速く攻撃をしかけ、仕留めるしかない。
颯が狙うのは滅殺――無双滅界。それに合わせて神楽が放とうとしているのは滅殺――
突如繁華街の真ん中で爆煙が上がったことに人々は恐怖し、逃げ惑った。幸い爆風に巻き込まれた者はいなかったが、それでも現場はパニック状態である。人々は四方六方に走り、乱れ、統率の取れていない人の動きが更なる混乱を招く。その様は宛ら地獄絵図だった。
しばらくすると爆煙も収まり、その中心部が露わになる。そこに浮き出した
颯は思わず舌打ちをする。二つの滅殺を受けてまさかの無傷。いや、正確には斬った感触はあった。しかし驚くべきことに白斗はその傷を瞬時に回復してしまったのだ。
滅殺で
それでも尚、颯と神楽は刀を構えた。ダメージは入る。ならば回復が追いつかないくらいに攻撃を繰り返せばいいだけだ。
「まだやれる? 颯」
「当然だ」
颯は空間断絶結界を張る。無論人間を巻き込まないためだ。
「いいね~。まだやる気なのか。滅殺も効かなかったってのに」
初めて白斗が構える。
「嫌いじゃないぜ、そういうの」
直後。凄まじい速度で白斗が颯に迫った。今度こそ見逃すまいと目を見張っていたからか、今度は白斗の動きを捉えられる。胸部への掌打。それさえわかれば対処は出来る。それに今は雫の支援もあるのだ。ある程度の攻撃なら、彼女が無力化してくれるだろう。
颯は素早く左の刀を閃かせ、突き出された白斗の腕を斬り落とした。次いで相手の背後に回りこみ再び無双滅界を放つ。そこに透かさず飛び込んできた神楽が
もちろんこれで終わりではない。颯は体勢を立て直し、すぐさま三発目の無双滅界を放つ。
本来であれば、滅殺はそう何度も放てる技ではない。霊力の消費が激しいからだ。だが、今は霊力の消費がどうのと騒いでいる場合ではない。今出来ることは今やるべきだ。今こそ限界を超える時である。
神楽も颯に倣い、滅殺を連発した。何度も、何度も、相手が倒れるまで。斬り上げ、斬り下ろし、横に薙いだ。
それでも白斗は回復し続ける。こうも斬った傍から回復されては、いくら霊力があっても足りない。
流石に滅殺の連発が厳しくなってきた頃に、それは起こった。
何者かが空間断絶結界を破り、中に入って来たのである。
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