第七十二話:今後の計画でも

 凄まじきキッチンを掃除し終えた俺。

 気づけばもう昼過ぎになっていた。

 流石に腹も空いてきたので、アイに許可を取ってから何か料理を作ることにした。

 えっ、何故俺が作るのかって?

 決まってるだろ。アイの料理スキルを色々察したからだよ!


 取りあえず冷蔵庫には……腐った野菜があったので、後で捨てよう。

 まずは無事な食料から確認だ。

 えーっと何々。賞味期限が間近のベーコンと卵、牛乳もあるな。

 おっ、早ゆでのパスタが沢山出てきた。4分タイプとは、中々分かってるじゃないか。

 ふむふむ。保存がきく物は色々あるな……よし。


「アイ、少し待ってろ」

「あら、料理なら私が」

「作れるのか?」

「……レトルトなら」

「俺がやる。いいな?」


 フライパンと鍋を出して、調理を始める。

 嬉しい事に黒コショウとバター。粉チーズもあった。

 なら作るメニューはただ一つ!


 というわけで、十数分後。

 俺は渾身の一皿こと、カルボナーラを完成させていた。


「ボナペティ」

「なんでフランス語なの? まぁいいわ。いただきます」


 ちゃんと二人分作ったから、俺も食べる。

 うん。いい出来だ。

 アイも気に入ってくれると嬉しい……


「いやなんで泣いてるんだよ!?」

「女子として、負けた気がしたのよ」

「えっ、女子力?」

「仮にも元アイドルなのに、同い年の男子に、女子力で負けた」

「どちらかとい言うと生活力だけどな」


 多分女子力以前の問題だと思う。

 何度でも言おう、女子力以前の問題だと思う!


「しかもパスタ、すごく美味しい」

「ありがとよ。これでも料理は一通りできるんだ」

「ツルギって、万能過ぎないかしら?」

「そうか?」


 ただの母子家庭カードゲーマーだぞ。

 生活力は環境が育ててくれました。


「ソラから聞いてはいたけど、確かに好きな女子はいそうね」

「あー、もしかして中学の時の話をしてるのか? アレはどっちかというとサモンの成績に釣られたミーハーさんばかりだぞ」

「それもあるでしょうね。でも随分と女子からアプローチがあったらしいじゃない。何人泣かせてきたのかしら?」

「それは聞かないでくれ。俺としても後味悪かったんだから」

「あらごめんなさいね。でも、そう答えるだけでもツルギは良い男よ」

「そうか? 俺はただのサモン馬鹿だぞ」

「それだけで留まってないでしょ。でなきゃA組になんてならないわ」


 そういうもんかね?

 俺はパスタを食べながら、そんな事を考える。

 うん、黒コショウが良い感じに効いてるな。


「そういえば、彼は大丈夫なのかしら」

「ん? 炎神えんじんの事か?」

「えぇ。この前酷い負け方してたでしょ」

「あれなぁ……結局炎神はライフ1点も削れずだったからな」

「あの能天気な性格でも、相当ダメージ受けてるんじゃないかしら?」

「多分正解。あれから全然連絡が来ないし、外でも見かけてない」

「それは……想像以上に重症ね」

「まぁ、アイツにも色々あるんだろ」


 だからこそ今は、待ちの時間だ。

 炎神のメンタルがある程度回復するのを待つ時間。


「炎神が回復してきたら、俺はアイツの武者修行に付き合うつもりだ」

「あら、もう約束したの?」

「別にしてない。けどアイツの行動パターンは予想できる」

「それは……そうね。武井ぶいはその、単純だから」

「そういうこと。それにもうすぐ、修行にはもってこいのイベントもあるだろ」

「あぁ……アレね」


 アイが少し渋い顔をする。

 まぁ無理もない。これから先、聖徳寺学園での生活はどんどん過酷になっていく予定だ。

 退学処分なんてそう簡単にはならないだろうけど、心が折れて辞める生徒は毎年結構いるらしい。

 その最初の試練とも呼ばれているのが、一年生の五月合宿だ。


 名前の通り五月のゴールデンウイーク明けに始まる強化合宿。

 たしかアニメでは山の中にある専用施設で修行だったかな?

 後は寺にも行ってたはず。


「恐ろしいのは、心折れて脱落するのは、何も下のクラスだけではないという事」

「去年はA組でさえ十人くらい減ったんだっけ?」

「そう聞くわね」


 アニメでは全部描写されてなかったけど、本当に恐ろしい合宿だな。

 でもまぁ、そのくらいの方が修行にはなるか。


「ツルギ? 今変な事考えてないかしら?」

「そんなことはないぞ」

「怪しいわね。まぁいいわ。合宿は過酷だって聞くし、ゴールデンウイーク中にデッキを完璧に仕上げておかないとね」

「そうだな。特に今後はアームドを使うファイターも増えてくるだろうし、今までの定石が通じない場面も増えるだろうな」

「それが憂鬱ね。アームドの力は武井達のファイトを見てよーくわかったわ」


 まぁアームドもなんだけど、モンスターも進化させないといけないよな。

 俺はとりあえず強化プランの構想はできてるけど、問題は他の奴ら。

 色々と便利カードを紹介しないといけないな。

 あとは炎神。アイツは主人公だから特に強化の必要がある。

 いざとなればカードを無理にでも渡すし、プレイングももっと鍛えてもらおう。


 と、ここまで考えて一つ思い出した事がある。

 そういえば五月合宿って……炎神の強化イベントがあったな。

 たしかあれは、お寺の住職から何も描いてないブランクカードを貰うイベントだっけ?

 アレだけでも結構な強化にはなるんだけど……個人的にはまだ心もとないな。


「合宿で鍛えて、夏のランキング戦がメインイベントかな」

「ツルギ?」

「合宿を頑張ろうって言ったんだ。どうせ生き残っても、この先はランキング戦も待っている」

「そうね。やっぱり全員そこを目指すでしょうね」

「とりあえず俺は六帝りくていを目指したいな。派手にやり合いたいし」

「ツルギはメンタルが強いわね。普通はあのファイトを観たら心が折れるわよ」

「悪いな。俺は心を折る側だ」

「それもそうね」


 そこは笑い飛ばして欲しかったな。

 俺は一応、自称一般人なんだぞ。


「じゃあゴールデンウイークはゼラニウムのメンバーでデッキ調整でもするか」

「そうね。あと武井も呼んでおくのかしら?」

「もちろん。全員で準備しよう」


 それが終われば、五月合宿を待つだけだ。

 俺とアイはその場でゴールデンウイークの計画を立てるべく、グループメッセージを送った。

 ……なんかソラには滅茶苦茶怪しまれたけど、まぁいいか。


 目指すは夏のランキング戦。

 その前に五月合宿で修行だ。


 こうして計画を立て終えた俺は、アイの下宿先を後にするのだった。


 翌日、アイから「ゴミ捨て場がわからない」というメッセージを貰ったのは別の話。

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