第七十話:ルークの王波②

『俺のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!』


 炎神えんじん:手札2枚→3枚


 炎神は勢いよくドローしたカードを確認すると、ニヤリと笑みを浮かべた。


『来てくれたか! メインフェイズ。俺も相棒を呼ぶぜ!』


 炎神は1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。

 紅蓮に燃える魔法陣が、炎神の場に出現する。

 

『燃える炎で勝利をつかむぜ! 熱く弾けろ俺の相棒! 〈【勝利竜しょうりりゅう】ブイドラ〉を召喚だぁ!』


 魔法陣が弾け、中から赤い身体の小さなドラゴンが召喚される。

 お馴染み炎神の相棒、ブイドラだ。


〈【勝利竜】ブイドラ〉P5000 ヒット2


『ブイブイー! オイラの出番ブイ!』

『頼むぜ相棒!』


 やっぱりあのブイドラ喋ってるよな?

 というかルークが少し驚いた表情をしている。

 アイツもブイドラの声が聞こえているのか?


『そうか……炎神、君もなんだね』

『どうする、ルーク?』

『何も変わらない。僕達は勝ちにいくだけだ』


 あの、今シルドラも喋ってませんでしたか?

 あれ? モンスター・サモナーにそんな設定あったっけ?


『へぇ、お前のモンスターも喋るんだな』

『なんの事かな。ターンを続けてくれ』

『そうだな。話はファイトが終わってからだ! 俺は魔法カード〈ビクトリードロー〉を発動!』


 また出たなインチキドローカード!


『デッキの1番上のカードをオープン。それが系統:〈勝利〉を持つカードなら手札に加える』


 オープンされたカードは……ブイドッグか。


『よし。俺は〈ブイドッグ〉を手札に加える。更に【Vギア】を発動! デッキからカードを2枚ドローするぜ!』


 炎神:手札2枚→4枚


 一気に手札を強化してきたな。さぁて炎神はどう出る?


『俺は今手札に加えた〈ブイドッグ〉を召喚だ!』


 炎神の場に炎を背負った大型犬が召喚される。

 ライフ5以下の状態なら、あれも中々便利なカードだ。


〈ブイドッグ〉P3000→P8000 ヒット1


『パワーが上昇した?』

『〈ブイドッグ〉の【Vギア】だ。俺のライフが5以下なら〈ブイドッグ〉はパワー+5000される』


 これだけでも便利カードなのだけど、ブイドッグの能力はまだある。


『更に〈ブイドッグ〉の召喚時効果発動! 自身よりパワーの低い相手モンスターを1体選んで破壊する! 俺は〈バレルナイト〉を破壊!』


 能力を発動したブイドッグが、バレルナイトに噛みつく。

 そのまま凄まじい炎に飲み込まれたバレルナイトは、あっけなく爆散、破壊されてしまった。

 だけどまだルークの場にはモンスターが2体いる。

 いずれも今の炎神の場にいるモンスターでは破壊できない。

 炎神には何か策がありそうだけど……どうする?


『俺はライフを1点払って、このカードを使うぜ!』


 炎神:ライフ2→1


 更にライフを削った炎神は、1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。

 炎神の場に深紅の魔法陣が出現する。


『こい、アームドカード! 〈ビクトリーセイバー〉顕現!』


 深紅の魔法陣を突き破り、紅い刀身の剣が顕現した。

 なるほど、あのカードが炎神の入手したアームドカードなんだな。

 いやアニメで知ってたんだけどね。


『いくぞ相棒! 俺は〈ビクトリーセイバー〉を〈【勝利竜】ブイドラ〉に武装アームド!』


 ビクトリーセイバーは輝きを放つと、ブイドラが持てるサイズに変化した。

 そのビクトリーセイバーをブイドラは手に取る。


『更に俺は〈ブイバード〉を召喚! 〈ブイバード〉の能力によって、俺の場のモンスターはパワー+3000される!』


〈【勝利竜】ブイドラ〉P5000→P8000

〈ブイドッグ〉P8000→P11000

〈ブイバード〉P4000→P7000


『一気にパワーを上げてきたか』

『このままアタックフェイズに入るぜ! いっけー〈ブイドラ〉! 〈シルドラ〉に指定アタックだ!』


 ビクトリーセイバーを構えて、ブイドラはシルドラへと突撃する。


『くっ雑種め! 王子に歯向かうのか!』

『王子様なんて、オイラの知ったことじゃないブイねー!』


 お互いの剣でつばぜり合いを行う、シルドラとブイドラ。

 うーん、やっぱり喋ってるよな。


『〈シルドラ〉のパワーは9000。君の〈ブイドラ〉ではパワーが足りないようだ』

『へへっ、それはどうかな?』

『なに?』

『攻撃した事で〈ビクトリーセイバー〉の武装時効果発動! 攻撃中、武装している〈ブイドラ〉のパワーは+10000される!』

『10000ものパワー上昇だと!?』


 そう、これがビクトリーセイバーの本領。

 パワー+1万という破格のバフを受けれる、協力なアームドカードだ。

 流石にルークも少し動揺しているな。


『ブイブイブーイ!』


〈【勝利竜】ブイドラ〉P8000→P18000


『これなら勝てるブイ!』

『なんだと!?』

『ぶった斬ってやるブイ!』


 ブイドラはビクトリーセイバーをシルドラに振り下ろそうとする。

 しかし……


『〈フレイムナイト〉の効果を発動。輝士よ〈シルドラ〉を守れ!』


 ルークの指示を受けたフレイムナイトは、突然シルドラの前に割って入った。

 そのままビクトリーセイバーに両断されるフレイムナイト。

 シルドラの代わりに破壊されてしまった。


『な、なにが起きたんだ?』

『〈フレイムナイト〉は、自分の場の系統:〈王竜〉を持つモンスターが破壊さる場合、身代わりになる事ができる』


 フレイムナイトが犠牲となり、シルドラは戦闘破壊を逃れた。

 これは……あのカードの条件が揃ったな。


『でももう〈シルドラ〉を守るナイトはいない! いけッ〈ブイドラ〉! 2回攻撃だ』

『今度こそ倒すブイ!』


 再びブイドラはビクトリーセイバーを構えて、シルドラに突進する。


『魔法カード〈キングダムウォール!〉を発動。僕の場に系統:〈王竜〉を持つモンスターだけが存在するなら、アタックフェイズを強制終了させる』


 巨大な半透明の防壁が出現し、ブイドラの攻撃を阻んでしまった。

 弾き返されてしまうブイドラ。

 炎神のアタックフェイズもここで終了だ。


『くっそー、防がれたか。ターンエンド』


 炎神:ライフ1 手札1枚

 場:〈ブイドッグ〉〈ブイバード〉〈【勝利竜】ブイドラ(ビクトリーセイバー武装状態)〉


 ターンを終える炎神。だけど状況はかなり不味いな。

 ルーク相手に残りライフは僅か1。風前の灯火とはまさにこの事だ。


『僕のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ』


 ルーク:手札1枚→2枚


『メインフェイズ。少しは楽しめたけど、流石にそろそろ終わらせよう』

『また最終ターン宣言か?』

『そうだね。僕は魔法カード〈輝士生還きしせいかん〉を発動。墓地から系統:〈輝士〉を持つモンスターカード〈フレイムナイト〉を手札に戻す』


 まずは便利カードを手札に回収してきたか。


『ライフを1点払い、〈フレイムナイト〉を再召喚』


 再びフレイムナイトがルークの場に出てくる。

 当然効果でパワーも上昇した。


 ルーク;ライフ9→8

〈フレイムナイト〉P7000→10000 ヒット3

〈【王子竜おうじりゅう】シルドラ〉P6000→P9000


 これでまたルークは身代わり効果を使える。

 その上シルドラには【王波おうは】もある。


『アタックフェイズ。〈シルドラ〉で〈ブイドラ〉に指定アタック!』


 キングダムセイバーを構えて、シルドラはブイドラに突撃する。


『そして〈シルドラ〉の攻撃時効果【王波】を発動。〈ブイバード〉を破壊!』


 シルドラが口から衝撃弾を出す。

 衝撃弾はブイバードの身体を貫き、破壊した。

 そしてシルドラとブイドラは、再びつばぜり合いを始める。


『先ほどのお返しをしようじゃないか。雑種!』

『雑種じゃねー! オイラにゃブイドラって名前があるブイ!』


 つばぜり合いが続くが、現在のパワーはシルドラの方が上。

 このままではブイドラが破壊されてしまう。


『相棒は俺が守る! 魔法カード〈ビクトリーウォール!〉を発動! アタックフェイズを強制終了させるぜ!』


 炎神はカードを仮想モニターに投げ込み、魔法を発動しようとする。

 しかし……その魔法カードは突如粉々に砕けてしまった。


『なに!?』

『ライフを2点払い、魔法カード〈ディスペルスラッシュ!〉を発動した』


 ルーク:ライフ8→6


『このカードは僕の場に系統:〈輝士〉が存在する場合に、相手が発動した魔法カードを無効化する事ができる』

『なん、だって』

『これで邪魔なカードは無くなった。やれ〈シルドラ〉』


 シルドラはキングダムセイバーを大きく振りかぶる。


『終わりだ、雑種!』


 そしてシルドラは、キングダムセイバーを振り下ろし、ブイドラを両断した。


『ぐわぁぁぁ!』

『相棒ー!』


 ブイドラは爆散、破壊される。その場には武装していたビクトリーセイバーだけが残っていた。

 アームドカードは単体ではアタックもブロックもできない。


『モンスターを2体破壊した事で〈シルドラ〉は回復する。そのまま〈シルドラ〉で〈ブイドッグ〉を指定アタックだ!』


 キングダムセイバーを振りかざし、ブイドッグを両断するシルドラ。

 というかルークもやることがえげつない。

 普通にシルドラの【王波】でブイドッグを破壊すれば勝てるというのに。

 多分アイツは、完璧な勝利を炎神に見せつけたいんだろうな。


 実際、ブイドッグを破壊された炎神の場はブロッカー0体。

 手札も0枚。

 もう防御する手段は残っていなかった。


『これで終わりだ……〈フレイムナイト〉で攻撃!』


 炎の剣を構えて、フレイムナイトは炎神に近づく。

 その光景を目にした俺は思わず食堂のモニターに向かって「炎神!」と叫んでしまった。


『……ライフで受ける!』


 次の瞬間。

 フレイムナイトの剣が、容赦なく炎神の身体を切り裂いた。


『うわぁぁぁ!』


 炎神:ライフ1→0

 ルーク:WIN


 ファイト終了のブザーが鳴り響き、立体映像が消滅していく。

 同時に、食堂のモニターに映っていた中継も終了した。

 モニター前のギャラリーは「やっぱりか」「予想通り」といった反応だけ残して散り散りになっていった。

 俺はモニター前で静かに立ちすくむ。


「武井くん、負けちゃいましたね」

「そうだな」

「六帝の人強かったですね」

「そうだな」


 だけど……


「いつか勝たなきゃいけない相手なんだ」


 正直このファイトが炎神の負けで終わる事自体は覚悟していた。

 何故ならアニメでもそうだったからだ。

 だけど……それでも何かが変わればとも思っていたけど、そう簡単にはいかないらしい。


 俺はソラに手を引かれて、モニター前から去るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る