第六十九話:ルークの王波①

 モニターの向こうで、炎神えんじんとルークが言葉を交わしている。


『やっとファイトする気になったか』

『勘違いしないでくれ。僕はしつこい君を黙らせたいだけだ』

『最後に黙るのはどっちなのか、早くファイトで決めようぜ!』

「全く、暑苦しい新人だ』


 どうやらルークは炎神を力で黙らせたいらしい。

 コンピューターが先攻後攻を決める。

 モニターに表示された先攻はルークだ。


『僕のターン。スタートフェイズ』


 六帝のファイトという事もあってか、食堂のモニター前にはどんどん人が増えてきた。

 まぁ俺もその観衆の一人なわけだけど。


『メインフェイズ。僕は〈ビッグディフェンドナイト〉を召喚する』


 ルークの場に召喚されたのは巨大な盾を構えた騎士。

 いや、輝士きしと表現した方が正しいかもしれない。


〈ビッグディフェンドナイト〉P8000 ヒット2


 まずはルークが防御を固めてきたか。

 アニメ通り、堅実なファイトをする奴だ。


『ターンエンド。君の番だ』


 ルーク:ライフ10 手札4枚

 場:〈ビッグディフェンドナイト〉


 まずは静かな始まりなんだけど、このファイトの後攻は炎神だ。

 アイツは開幕から攻撃を仕掛けてくるぞ。


『壁モンスターが1体だけか。そんなんぶち抜いてやる! 俺のターン!』


 炎神のターンが始まる。


『スタートフェイズ。ドローフェイズ!』


 炎神:手札5枚→6枚


『メインフェイズ! まずはコイツだ! 俺はライフを1点払って〈ブイモンキー〉を召喚!」


 炎神の場に、炎を纏った巨大な猿が召喚される。

 あれは入試ファイトでも使っていたモンスターだな。


 炎神:ライフ10→9

〈ブイモンキー〉P5000 ヒット3


『次はコイツだ! ライフを1点払って、来い! 〈ブイゴールドベアー〉』


 続けて召喚されたのは、金色の大熊。斧も装備している。

 アレは多分初登場だな。結構優秀なモンスターだぞ。


 炎神:ライフ9→8

〈ブイゴールドベアー〉P7000 ヒット2


 パワー5000と7000のモンスター。しかも両方効果持ち。

 ブイモンキーは魔法効果で選ばれず、ブイゴールドベアーは追加ダメージ効果と除去を持っている。

 一見優秀な盤面に見えるけど、問題がある。


『そのモンスター達では僕の〈ビッグディフェンドナイト〉は破壊できないけど』

『慌てんなって竜帝さんよ。サモンには魔法カードがあるから楽しいんだ!』


 そう言うと炎神は、1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。


『魔法カード〈ブイファイアー!〉を発動!』

『除去カードか』

『このカードは、自分の場に系統:〈勝利〉を持つモンスターが存在するなら、ヒット2以下の相手モンスターを1体選んで破壊する! これで〈ビッグディフェンドナイト〉を破壊だ!』


 炎神の魔法から放たれた火球が、ビッグディフェンドナイトを焼き尽くす。

 消し炭になり破壊されたビッグディフェンドナイト。

 だが炎神の魔法効果はまだ続く。


『〈ブイファイアー!〉の追加効果! 破壊したモンスターのヒット数分のダメージを、自分か相手に与える』

『まずは僕のライフを削る作戦か』

『いいや違う。ダメージを受けるのは俺だ! 来い!』


 炎神の声に合わせて、もう一つの火球が炎神に襲い掛かる。


 炎神:ライフ8→6


 突然の自爆ダメージ。食堂のギャラリーはもちろんの事、対戦しているルークも驚いていた。


「武井くん、なんで自分にダメージを?」


 おっと、いつの間にかソラが隣にいた。

 解説しなくては。


「【Vギア】を発動させるためだ」

「【Vギア】って、武井ぶいくんのデッキが持ってる専用能力ですよね?」

「そうだ。【Vギア】は自分のライフが5以下でないと発動しない。逆に言えば、ライフが6以上あると炎神のデッキは本領を発揮できないんだ」

「つまり自爆ダメージも、能力の発動を早めるためなんですね」

「ソラ大正解」


 納得してくれたようで安心した。

 ちなみに炎神に自爆ダメージテクニックを教えたのは、俺だったりする。

 主人公よ、強くなってくれ。


『アタックフェイズ! 〈ブイゴールドベアー〉で攻撃だー!』


 斧を構えて、ルークに突撃するブイゴールドベアー。

 あのカードは相手モンスターを破壊する、または相手にダメージを与えると、自分か相手に1点のダメージを与える。

 炎神はこの能力を使って【Vギア】を達成するつもりだ。


『いっけぇー!』


 ブイゴールドベアーが斧を振り下ろす。

 しかし……


『魔法カード〈ダイレクトウォール〉を発動。アタックフェイズを強制終了させる』


 ルークの前にバリアが展開され、ブイゴールドベアーの攻撃が無効化される。

 それだけではない、炎神のアタックフェイズも強制終了させられてしまった。

 というか忘れてたわ。

 そもそも俺が〈ダイレクトウォール〉を知ったきっかけって、アニメでルークが使ってたからだ。


『くっそー。ターンエンドだ』


 炎神:ライフ6 手札3枚

 場:〈ブイモンキー〉〈ブイゴールドベアー〉


 うーん、ちと不味いな。

 このターン炎神はルークにダメージを与えられず、自爆ダメージを受けただけだ。

 これは危ないぞ。というかルークのライフは10点満タンだ。


『僕のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ』


 落ち着いた雰囲気で、ルークがターンを開始する。


 ルーク:手札3枚→4枚


 ドローしたカードを確認しても、ルークは顔色一つ変えていないな。

 クールなもんだ。


『メインフェイズ……このターンで終わらせよう』


 最終ターン宣言。

 それが出た瞬間、食堂のギャラリーも騒めきだした。

 当然ながら、炎神も驚いている。

 だが同時に、炎神はこの状況さえ楽しんでいる様子であった。


『コストとしてライフを1点払い〈フレイムナイト〉を召喚』


 ルークの場に炎の剣を手にした騎士が召喚される。

 あれまたレアなカードを使うもんだ。


 ルーク:ライフ10→9

〈フレイムナイト〉P7000 ヒット3


 ステータスは高めのレアカード。

 多分この世界の一般人なら、あれだけでエースカードになるだろう。

 だけどフレイムナイトの効果はまだ発揮できない。今はただのバニラだ。

 そんなバニラ同然の状態で、仮にも【竜帝りゅうてい】を名乗るファイターが立てるとは思えない。

 となれば恐らく……持っているな?


 ルークは手札から1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。

 ルークの場に白銀の魔法陣が展開される。


『王の名の下、白銀しろがねの風を起こせ。僕の半身! 〈【王子竜おうじりゅう】シルドラ〉召喚!』

『ハァァァ!』


 魔法陣の中から、1体の小さなドラゴンが召喚される。

 その身体は銀色。気品あふれる輝きすら感じられる。


〈【王子竜】シルドラ〉P6000 ヒット2


 九頭竜くずりゅうルークの相棒、シルドラが現れた。

 あのカードが場に出れば、ルークのデッキは真の力を発揮する。


『系統:〈王竜おうりゅう〉を持つモンスター〈シルドラ〉が場に出た事で、〈フレイムナイト〉の【ロードストライク】を発動!』

『【ロードストライク】?』

『【ロードストライク】は系統:〈輝士きし〉だけが持つ専用能力。系統:〈王竜〉のモンスターがいれば、追加能力を発揮する』


 これが九頭竜ルークの【王竜/輝士】デッキ。

 上手く回れば強力なデッキだ。


『〈フレイムナイト〉の【ロードストライク】によって、僕の場のモンスターは全てパワー+3000となる』


〈フレイムナイト〉P7000→P10000

〈【王子竜】シルドラ〉P6000→P9000


 一気に強化されたルークのモンスター。

 特にシルドラの強化が怖いな。


『魔法カード〈キングダムドロー〉を発動』


 で、出たー! クソインチキスペック魔法カード!

 前の世界でも普通にガチカードですよ!

 周りのギャラリーは理解してなさそうだけど。


『このカードは、自分のデッキを上から3枚オープンする。その中に系統:〈王竜〉または〈輝士〉を持つカードがあれば、全て手札に加える』


 このあたりで理解できた奴は、あのカードのヤバさを理解していた。


「あの、ツルギくん……あのカードって」

「ご想像通り、強いカードだ」


 だって専用デッキに入れたらノーコスト3ドローですよ!?

 弱いわけがないでしょ!

 このインチキ効果!


 ちなみにオープンされたカードは次の通り。

〈キングダムウォール!〉〈ディスペルスラッシュ!〉〈キングダムセイバー〉

 うん知ってた。

 流石はアニメキャラ、全部系統:〈王竜〉か〈輝士〉のカードじゃん。


『3枚のカードを手札に加える』

『なぁ、そのドロー強すぎないか?』

『知ったことではない』


 文句を言う炎神。だけどな炎神、お前にそれを言う資格は無い。

 いや、問題はそこじゃない。

 さっきルークが手札に加えたカードの中には……アレがあった。


『コストとしてデッキを上から5枚除外する』


 ルークの場に銀色の魔法陣が出現する。

 このコストは……来るぞ!


『アームドカード〈キングダムセイバー〉を顕現!』


 魔法陣を突き破り、ルークの場に一振りの剣が出現した。

 アームドカードという最新のカード。その登場に、ギャラリーは一気に沸き上がった。

 もちろん、対戦している炎神も同様だ。


『すっげー! アームドカードだー!』


 子供のようにはしゃぐ炎神を、ルークはクールにスルーする。


『〈キングダムセイバー〉を〈【王子竜】シルドラ〉に武装アームド!』


 キングダムセイバーは強い輝きを放った後、シルドラが手に持てるサイズへと変貌した。

 それをシルドラが手に持ち、武装する。


『〈バレルナイト〉を召喚』


 武装によって空いたモンスターゾーンに、二丁拳銃を手にした騎士が召喚された。


〈バレルナイト〉P3000 ヒット1


 これで場にモンスターは揃った。攻撃が始まるぞ。


『アタックフェイズ。〈キングダムセイバー〉の武装時効果によって〈シルドラ〉は【指定アタック】を得ている。僕は〈ブイゴールドベアー〉に指定アタック!」


 白銀の剣を構えて、シルドラはブイゴールドベアーに攻撃を仕掛ける。

 パワーは9000で勝っている。シルドラによってブイゴールドベアーが破壊される……だけでは終わらない。


『〈シルドラ〉の攻撃時効果【王波おうは】を発動』

『おうは?』

『〈シルドラ〉の【王波】によって、〈シルドラ〉よりもパワーの低いモンスター〈ブイモンキー〉を破壊する!』


 シルドラは口から衝撃波をブイモンキーに撃ち込む。

 衝撃波を受けたブイモンキーは一瞬にして爆散してしまった。

 あれが系統:〈王竜〉が持つ専用能力【王波】。

 何が厄介って、【王波】による破壊はあらゆる耐性を貫通してくるんだよ。防御不可の一撃なんだ。


 ブイモンキーを破壊したシルドラは、そのままキングダムセイバーでブイゴールドベアーを切り裂く。

 ゴールドベアーも爆散してしまった。


『〈ブイモンキー〉! 〈ブイゴールドベアー〉!』

『これだけでは終わらない。この瞬間〈バレルナイト〉の【ロードストライク】を発動! 相手モンスターが破壊される度に、相手に2点のダメージを与える』


 破壊されたモンスターは2体。

 バレルナイトは二丁の拳銃の銃口を炎神に向けて、発砲した。


『うわぁ!』


 炎神:ライフ6→4→2


 大ダメージを受ける炎神。

 不味いな、残りライフ2点。ブロッカーもいない。

 フレイムナイトの攻撃を受けたら負けるぞ。


『これで終わりだ。〈フレイムナイト〉で攻撃』


 炎の剣を手にして、フレイムナイトが炎神に襲いかかる。

 ギャラリーは完全に炎神の敗北を確信して、食堂のモニター前から去ろうとしていた。

 だが俺は知っているぞ。炎神はここで終わるタイプじゃない事をな!


『魔法カード〈ビクトリーウォール!〉を発動!』

『なに!?』

『自分のライフが5以下なら、相手のアタックフェイズを強制終了させる!』


 炎の壁に攻撃を阻まれたフレイムナイト。

 そのままルークのアタックフェイズは強制終了させられてしまった。

 ルークの最終ターン宣言を回避した炎神。

 その予想外な展開に、再び食堂ではモニター前に人が集まり始めた。


『どーだ! 最終ターンなんかにゃならかったぜ!』

『……なるほど。少しは面白そうなファイターなんだな』

『絶対勝ってやるからなー!』

『それはない』


 ばっさり切り捨てられた炎神は、その場でずっこけた。


『エンドフェイズ。このターンに僕はモンスターを2体破壊した。よって〈シルドラ〉は自身の効果で回復する』


 シルドラは相手モンスターを2体倒したターンであれば、好きなタイミングで1度だけ回復できる。

 これでブロッカーもできたというわけだ。


『ターンエンド』


 ルーク:ライフ9 手札2枚

 場:〈フレイムナイト〉〈バレルナイト〉〈【王子竜】シルドラ(キングダムセイバー武装状態)〉


 ターンを終えるルーク。

 するとルークは炎神を静かに見据えた。


『君、名前なんだっけ?』

『覚えてないのかよ、まぁいいや。俺は炎神! 武井炎神だ!』

『炎神、覚えた。だけど僕がファイトに勝つという結果には変わりない』

『それは俺のターンを耐えきってから言ってくれよな!』


 既にライフは5以下。炎神の本領も発揮できる状態だ。


『俺のエンジン! ブイブイいってきたぜー!』


 気合を入れて、炎神はターンを開始した。

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