第17話 【幕間3】店長の新型英雄兵器


 喫茶オービアスは平和かつ穏やかな昼下がりを迎えている。相変わらずお客さんは来ないけど。


「あれ、店長? メイさん今日はいないんですか?」


万丈がいないのはいつもの事なので全く気にしていないが、メイさんが一人どこかへ行くというのは俺の中では初めての経験だった。


「あぁ、メイちゃんは朝からに行ってるよ。何のお勉強かまでは知らないけど!」


成程。どうりで朝から姿が見えない訳だ。店長大好きのメイさんの事だから、何かしら店長のタメになるような勉強をしているのだろう。すごく、ものすごく尊敬できる人だ。


「それで、店長は何してるんですか? 裁縫?」


店長はカウンター席に座って何やら縫い物をしていた。そんなイメージ無いけど、縫っているのは······俺の戦闘服だった。


「空牙君、これはね······君の戦闘服をまたまた改良しているんだよ! 名付けて! 『真・戦闘服・改』ッ!」


「店長、だんだん名前がゴテゴテになってきてます。俺シンプルな方が好きです······てか手縫いで改造してるんですかぁっ!?」


なんかもうちょっとこう······研究室的な所でバチバチーとかやって改造してるもんだと思ってたのに······まさかの手縫いっ! コーヒーを啜りお菓子を食べながら服を縫う様はほぼおばあちゃんっ!!


「やっぱり手縫いの方が何か落ち着くんですよ。細かく調整出来ますし――――」


俺の戦闘服は宇宙服なのだろうか······そのうち深海も宇宙も大丈夫的なバイオレンススーツにならない事を願おう。そんな極限環境で戦いたくないし。


「所で空牙君! 次君の戦闘服に付ける新機能についてなんですけど! もっとヒーローらしく戦いたいと思わないかい?」


「遠慮しておきます。俺としてはお金貰えればそれでいいんで」


「な······即答ですか······ヒーローらしくなりたく···え······まあ良いでしょう! そんな空牙君もこれを見て同じ事が言えますかね!?」


店長はそう言うと縫い終わったであろうスーツを俺の前にバサッと見せ付けてきた。今までと特段変わった所は無いように見えるけど······


「どこも変わってないように見えるんですけど······」


「ふっふっふ······まずは試験運用です! このドアから、少し広い所まで行きましょう!」


店長はそう言ってカウンターの中からピンクのドアを出してきた。なんかどこにでも行けそうな見た目のドアだ。ドアの向こうには無限に続きそうな草原が広がって······え広がってる!?


「店長それ······どこで――――」


「もードアの話は良いの! さっ! 入って入って! アッチは空気が澄んでて気持ち良さそうだよ!」


俺は店長に促されるまま、ドアの先へ足を踏み入れた。確かにここは草の、土の感覚が足に伝わる。さっきのフローリングじゃない、ホンモノの大地だ。


「ここは絶対に人が来ないからねー! 安心して検証が出来るよ〜。さ! 空牙君! ほら『真・戦闘服改』着て着て!」


店長に言われるままスーツ着たけど······うん、着心地も動いた感じもそこまで変わったようには感じないな。


「これどこが今までと違うんですか?」


「それはね······名乗り口上を言ってみれば分かるよ!」


名乗り口上? ってあれだろ。特撮の戦隊ヒーローがやるみたいな、「ナントカの勇者! ナントカレッド!」みたいなアレだろ?


「店長俺そんなのないです。言ったことないです」


「しぃーらばっくれても無駄ですよぉー! 空牙君に名乗りがある事は、既に戦闘記録に残っているのです! さぁ!! 言っちゃってください!」


まじで思い出せない······そんな恥ずかしい事やった事あるか? 俺が?


何も言わない俺に対して、店長は「嘘やん······」とでも言いたげな顔をしながらタブレットを俺に見せてきた。


「よく見てください······これは『変態』と『ダブル』の時の戦闘記録です」


『俺は······バイトのヒーローだ。よく覚えてから死ね···変態』


『どーも。親の愛に泣く男 バイトヒーローです』


た······確かに言っている······【バイトヒーロー】って···自分で······


「ぐぁぁぁぁはずかしぃぃぃぃ!!!!!! フラッシュバックがァァァァっ!!!!」


「空牙君!?!? そんな勢いでタブレットに頭叩きつけないでください!? タブレットも空牙君の脳細胞も壊れてしまいますから!!!!」


今度名乗る時はもうちょっと······もうちょっとだけマシな名乗り考えておこう······


「た······確かに名乗ってましたね······これ、やればいいんですね? 今ここで······」


「検証の為なんです! 早くお願いします!」


てかそもそもなんで検証に名乗りが必要なんだよ


「じゃあ行きますよ――――」


「――――約束に命を懸ける男 バイトヒーローです」


ドゴォォォン!


俺が名乗った次の瞬間、俺の後頭部を掠める形で爆煙が巻き上がった。ただの煙じゃない、赤く着色されている。······これ······特撮戦隊みたいなってそう言う······


唖然とする俺、目を光輝かせ満面の笑みを浮かべる店長。赤く染まった俺の後ろ半分。


「やったぁぁぁ! 成功ですよ空牙君! いやぁ〜やっぱり名乗りを上げた時に爆発した方がヒーローらしくて良いかなって思ってたんですよ〜!」


「あの店長成功してないです······俺の後ろ半分が真っ赤になりました······」


「なるほど······爆発の位置に若干改善の余地あり······と! さ!次の検証に移りましょうか!」


まだあるのか······帰りたいんだけど······


「それで······次は何すればいいんですか?」


「よくぞ聞いてくれました! 空牙君! なんかいちいちスーツ着るのめんどくさいな〜いつでも一瞬で着れたらな〜。って思った事ありませんか?」


あるある。実際それで死にかけてるし、今のスーツは奇襲に弱い所が弱点らしい弱点だよな······


「それを解決ってまさか!?」


「そのまさかです! さぁ空牙君! 勢いよく! ハッキリと! カッコよく『変身!』と叫んじゃって下さい!」


おおおおお! さっきの名乗りは恥ずかしかったけどこれは男のロマンと言うもの! カッコつけなくてどうするよ!


俺は左腕を前に突き出し、刀を地面に突き立て高らかに叫ぶ!


「変身!!!!」


その瞬間、辺りを暗雲が垂れ篭め、紫の雷が降り注ぎ、爆炎の竜巻が俺の周りを覆い天へと昇った。


「うぉぉぉぉすげぇぇぇぇ!」


あまりの迫力にテンションが天元突破したのも束の間、左右と上空から3枚の光板が現れ、雷と竜巻を俺の身体に収束させる様に包み込んだ後砕け散った。


これはそう! 男の変身! この変身エフェクトでスーツを着れる! かっこいい! 後で万丈と不破に自慢しよう!


「凄いです店長! このエフェクトでスーツを着れるなんて······感謝しかありません!」


「あ、空牙君は何か勘違いしてるかもしれないですけど、これエフェクトが出るだけですね。気分ですよ気分」


「いらなっっっ!」


「ま〜とにかく! 検証も終わった事だし、帰りましょうか!」


「めっっっちゃくちゃ疲れた······」


店長が何やらドアノブをガチャガチャしている······開かないのか?······え?開かない?


「空牙君······お疲れのところ悪いのですけど······歩いて帰りましょう!」


「ん゛ッッッッ!」


その後、大体3日くらい歩き続けてようやく帰ることができた。どんな道のりだったかはよく覚えていない。




◇◇◇◇


これは帰ってから聞いた話なのだが、例のドアが帰りに開かなかった理由を店長から教えてもらった。


俺達が変身エフェクトだなんだと騒いでいる最中に、メイさんが帰ってきたらしい······


『マスター。ただいま戻りました······おや、マスターはお出かけでしょうか?』


そこで突っ立っているドアをメイさんが発見。


『これは······確か別世界へ行く事ができるるとマスターが仰っていた危険なドア······。』


『万が一お客様がた場合に誤って入ってしまったら危険ですね。マスターは私に処分しろ。との意図で出しておいたのでしょう。流石です。』


何を思ったのかそこでメイさんはドアを破壊したらしい。


これでもうどこへでも行けるドアは使えなくなってしまったと······


意味の無い爆発、壊れたどこへでも行けるドアロストテクノロジーの誕生、意味の無い変身エフェクト······


「あれ今回マジで無駄な事しかしてなくね俺!?」

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