第18話 【幕間4】原点の新たなる門出


九重 空牙······通称バイトヒーローとの戦闘から数週間······私、オリジンは······


非常に暇を持て余していた!!!!


落ち着け私よ······確かあの日我が主は“戦力の温存”の名目で私をげーむに誘われた······それからずっとげーむをしている······でもそれはA地点を奪りに行く事で解決·······違う! ああもう考えが纏まりません!


「このままではいけませんっ!」


「うおっ!······オリジン急におっきい声出さないでよ······そうだねー確かにコードCオブOダーティーDも飽きちゃったもんね·····次は何するー? あ、そうそうさっき手に入れたばっかりの新作も――――」


「そうではありません! 主よ! 私は少し外に出てきます! いくらお休みとはいえ篭もり切りは体に良くありません! さあ主も! 気分転換に外に出ましょう!」


ここまで捲し立てたタイミングでふと主の顔を覗いていると、凄く、それはもう凄く嫌そうな顔をしていた。


「オリジンさぁ······君が一人で行く分には僕全然構わないと思うよ? でも僕自身はやっぱり出たくないの。めんどくさいし······という事で一人で行ってきてね! あ! 騒ぎ起こしちゃダメだよ? なんてったってお休み期間なんだからね!」


これ以上私が何かを言っても私が消されるだけですね······でもお土産くらいは買ってきましょうかね。


「承知致しました。では行って参ります」


私はそう言い残し常夜の世界を抜け出し、時の流れる世界へと向かった。



◇◇◇◇


「!!!! 眩しい!」


こちらの世界は曇りの無い空がいっぱいに広がっており、今まで薄暗い部屋に居た私には目が開けられない程に全てが輝いている。


「しかしこっちへ来たは良いものの······特にやる事がありませんね······」


しばらく街を歩いてみて、この前きた時よりも娯楽らしい物が少ないように感じる。


そうか今日は“平日”という日なのだ。確か昔こちらで働いていた時仕事のある日と無い日があったような気がする。きっと今日はある日なのだ。だから街中で子供に向けたイベントなどをしている所が見当たらないのだろう。決してそれを楽しみに出てきた訳では無いですけどね!


現在の時刻はお昼時。あちこちからとても良い匂いが流れてくる。


「何か食べたいですね······」


Xエクスの体は食事を必要としない。だが私は食事の楽しみを知ってしまった! アレには人間の全てが詰まっている! 敵ながら褒め称えてしまう事もある程に私は食という物に心を奪われてしまったのです!


問題は何を食べるかですね······量のある、かつ安い物が良いですね······


私は周囲の会話を聞き逃さない為に耳をひたすら凝らす。


『今日あそこで食べね? あのデカ盛りの!』


『えぇーいいよ······あそこ絶対食べ切れるように調整されてないって』


『やっぱりそうだよなぁ······冷静になってみれば30kgのラーメンを15分はどう考えても無理だわ······』


『あーあ! もし食べれたら学校の有名人なんだけどな〜!』


――――これです! 今日の食事はこれにしましょう!


私の足取りは自然と軽くなる。高揚が抑えきれない!



◇◇◇◇


「ここですね······たくさん食べる事のできるラーメン屋さん······」


どこにその店があるのかを聞けてなかったので一瞬不安になったが、かなりデカ盛り主張の激しい看板のお店だったのですぐにわかった。


「兄ちゃん、注文は?」


席に着くとハチマキ、スキンヘッド、ちょび髭のおじさんがすぐに注文を聞いてきた。


「この······『超弩級! 最強無敗チャレンジラーメンLv10』を一つ······」


「なっ! なにぃぃぃ!?」


途端、空気の硬直する店内。夏場のラーメン屋だと言うのに驚きの涼しさですね。


「兄ちゃん······失礼かもしれんが本当に大丈夫か? 今まで食べ切れたやつが一人もいない、宣伝用の商品だぞ?」


「構いません」


そう伝えた事で、おじさんは先程までの心配そうな顔から、不敵な笑みを浮かべ後ろに向かって叫んだ。


「無敗ラーメン一丁! お前ら! 気合い入れて作れよ!」


「「応!!!!」」


店内に漢達の怒号が響いた。


――――30分ほど待つと、カウンターから3人がかりで巨大な器が運ばれてきた。その器がテーブルに置かれると、ズシン! という基本的に料理からはしないような振動がテーブル越しに私の身を震わせた。


「――――兄ちゃん、ルールの説明をするぞ。制限時間は15分。スープまで飲み干して完食の判定だ。もし食べきれなかった場合は代金2万9800円払ってもらうぜ、勿論? 完食出来た場合は無料だぜ······それじゃあ······開始っ!」


開戦が叫ばれると同時、ひとまずスープを一口飲んでみる······美味いっ! 豚骨ベースの醤油ラーメンに大量の背脂が濃厚です! 具材の方は······なるほど、申し訳程度にもやしと白髪ネギが乗っかっていますがそれ以外はチャーシューと煮卵のみ! 更に麺は極太麺······このラーメン、人に完食させる気がありませんね······ひたすらに胃にのしかかる、重い要素のみを掛け合わせ構成されている······だが私の敵ではありませんっ!



―――


―――――


「ご馳走様でした。とても美味しかったです」


あら、気付いたら無くなってしまっていました。中盤麺の中にチャーシューブロックを入れる小細工もありましたが、私の敵ではありませんでしたね。


「な·······13分4秒だと······完敗だぜ兄ちゃん······お前はこの街のヒーローだぜ!」


ヒーロー······私が······?


「いえ、私はお腹を空かせたただのですよ。ヒーローの称号は誰か他の人にあげてください。それでは、また来ます」


店を出た時おじさんが頬を赤くしていたような気がするが、多分気のせいでしょう。




◇◇◇◇


ラーメン屋さんを出てしばらく街を歩いていて、気付いたら【オービアス】の前に来てしまいました······そうですね······若干の冷やかしも込めて、お邪魔するとしましょう。


もし殺されそうになったら、お金だけ置いて逃げれば良いですしね。


「――――どうも······」


中にはお客さんは一人もおらず、空牙さんではない、白衣の男がカウンターに立っていた。あの男が主の言う“店長”でしょうか。······ってよく見たら! 私が工場で戦闘したあの男では無いですか!? 来るタイミング間違えましたかね······


「あっ! いらっしゃいませ!······お好きな席へどうぞ!」


取り敢えず店長に促されるまま、前回と同じカウンターの席に腰掛け、コーヒーを注文した。


「お待たせ致しました! 店長オリジナルブレンドのブラックコーヒーです!」


これですよこれ。オシャレな金の装飾が施されたカップにコーヒーが注がれている。


「············」


「どうですか? やっぱり美味しくないですか?」


一口飲んだら、店長が「やっぱりまずいですよね?」と言わんばかりの質問を投げかけてくる。


「いえ······普通に美味しいと思いますけど······」


これは決して店長に気を使った訳ではなく、本当に普通に美味しいのだ。確かに前回空牙さんから頂いたコーヒーはそれはそれは美味でしたしそれよりは劣ると思いますが、まずいことが当然かと聞かれるとそうでは無い、味に深みを感じるのです。


「あの······つかぬ事をお聞きしますが、この前お店に来た時コーヒーを入れてくれた空······店員さんは今日お休みなのでしょうか?」


「やっぱり彼の淹れたコーヒーの方が美味しいですよね······彼はさっきまでいたんですけど、何やら『好きだった女優さんが電撃引退を発表した』とかでショックで寝込んでしまいまして······」


おしが電撃で引退······感電死でしょうか。まあなんにせよ私には無い感情ですね······


「変な事を聞いてしまいすみませんでした。ごちそうさまです······また来ますね」


「あっ! ちょっと待ってください!」


代金を置いて立ち上がった時、店長が私のことを引き止め、自身は厨房の奥へと下がって行った。


「空牙君の料理が食べたそうだったんで、今急いで詰めて来ました! 僕たちのお昼で申し訳ないですけど、サンドイッチです!」


店長は簡素な入れ物を抱えて戻ってきた。中には色とりどりのサンドイッチが8個入っている。


「そんな······申し訳ないですよ······」


「そんなぁ〜是非食べてくださいよ〜


こいつ·······っ!! 最初から気付いて!?


私は店長と一瞬で距離を取り、帰る準備を整える。


「オリジン君······ちゃんとこれは持って帰って――――」


「なんのつもりですか······いくらでも攻撃の隙はあったはず······! 何故こんな回りくどい手段を!」


「酷いなぁ〜。普段はまだしも今は純粋な好意ですよ?」


「そんなもの信じられるか! これは罠――――」


ここまで言いかけた瞬間、店長が後ろにいる事に気付く。顔を横に近づけ、そっと耳打ちをされた。


「しつこいですね······純粋な好意だって言ってるでしょ? 今はんですよ······理解出来たらこれ持って帰ってください」


紫に染まる目を見た。その後どうやって帰ったのかは覚えていない。目を開けたらもう既に夜の中に浮かんでいた。



◇◇◇◇


「ただいま戻りました······」


夜の中には一つだけドアがある。そこを開く我が主は一人いる。だが今日はもう1人いた。


「はっ!!!! オリジンよ! 我らの主を一人置いて消えるとは······随分不自然なものだな!」


この神経に響く声は······薄暗くて姿形はよく見えないがアイツしかいない。


「あ! おかえりオリジン! さっき言ってたゲームのチェンソー男ワンパンなんだよ〜! 一緒にやろうよ!」


「私は遠慮しておきます······それより何故コイツが······ナチュラルがいるのですか!?」


「はっ!!!! 我が主はオリジン! 貴様より私がお傍に居る事を自然と考えられたのだよ! 残念だったなオリジンッ!!!!」


見えないがウザい決めポーズをしているのはよく分かりました。


「違うよー? 君達が集まるって事はね、僕達のおやすみはもう終わり! リアルで最っ高のゲームを再開しよう! 第一弾はナチュラル! 君に決めた!」


「はっ!!!! このナチュラル! 自然にして鷹揚に参りますッ!!!!」


「あ! ナチュラルちょっと出発ストップ! 言い忘れてた!」


ナチュラルが窓に手を掛け飛び出そうとした時、主が慌てて止めた。勢い余って顔面をぶつけたみたいですが、大丈夫でしょう。


「言い忘れてたんだけどね······なんか人間達チーム組んでるじゃん? アレ羨ましいなって思って」


「つまり·····?」


「オリジンをリーダーにしてこっちも組織を組もうと思いまーす! 名前はそうだな······八頭衆オロチにしよう! 僕が直接力を与えたXはあと6体いるからそれで8体! じゃあみんな頑張ってね! それじゃあ解散!」


「「おまかせを! 我が主!」」


私の名はオリジン······八頭衆【頭領】オリジン······我が主の為にすべてを原点へ還す者

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