第16話 【幕間2】六納 玲子はストレスが溜まっている
――――私、
日々現場で戦っている
「しかし······緑馬の奴どこ行ったんだ······?」
膨大な書類整理も現在六徹目に突入。4日目の昼に緑馬は発狂してどこかへ行ってしまった。そんなクソ忙しい時にオリジンの襲来でまた仕事が増える始末······最後に温かいご飯を食べたのは何時だろうか、もう記憶の片隅にも無い。
「あ、あの······六納氏? さすがにずっとエナジードリンクだけじゃ身体壊しますよ······今コンビニ行ったついでにおにぎり買って来ました·····わ、私が代わりに書類整理やるのでゆっくり休んでくださいっ!」
七羅輝が大量のおにぎりを抱えて帰って来た。彼女の優しさが心に染み渡る。仕事を放棄して逃走した緑馬にも見習って欲しいものだ。
「ありがとう。でも大丈夫だ。その優しさだけでも疲れは取れたよ······あ、おにぎりは貰おうか――――」
ドクン
「ぐあああああああっ!」
これは!? 体が熱い······息が出来ないっ!
「む、六納氏!? 大丈夫ですか!? 六納氏!」
七羅輝が何か叫んでいる······でも自分の拍動に邪魔されて何を言っているのか分からない······そういえば前にもこんな事が······そうだ、思い出した。
「オービアスに······店長に伝えろ······
私の意識は、ここでぷっつりと途絶えた。
◇◇◇◇
「暇っすねメイさん······」
「空牙様、恐らく今日もお客様は来ませんので、
「流石にそういう訳には······そうだ! 万丈! 新しいメニュー考えるから、試食よろしく!」
俺は漫画を読みながら寝落ちしたであろう万丈を厨房に呼ぶ。万丈は食べるのが大好きなので、“メニュー”や“食”という言葉を聞くと飛び起きる。
「おお! 空牙よ! 今日は一体どんな品を作るのだ?」
「今日はちょっぴり大人向けのピリ辛な料理を作ろうと思いまーす!」
「う······我、辛いのはちょっと苦手である······」
「あ、そうなの?······じゃあメイさん! もし辛いの大丈夫なら試食お願いしたいんですけど·······」
「空牙様? 私は食事を必要としませんが······」
そういえば、確かにメイさんが何かを食べてたり飲んだりしている所は見た事無い。やはりアレか、ダイエットと言うやつか。
「困ったな······客観的な意見は欲しいし······どうしたら――――」
「て、店長氏は!? 店長氏はおりますか!?」
勢いよく店のドアが開き、七羅輝さんが息を切らせて入ってくる。小さな子供をおんぶしているようだ。
「七羅輝様、マスターは現在不在です。何か急ぎの用事でしょうか」
「む、六納氏がぁっ! 六納氏が急に倒れて、それで、店長の所に行けって、それで、急いで来る途中に!」
七羅輝さんがおぶっていた子供を椅子に寝かせた。子供が着るには大きすぎる服に包まれている。しかもスーツだし。
「む、六納氏が縮んでしまいましたぁっ!」
「へ? 六納さん? この子が?」
「六納氏をおぶっていたらこの子になっていたので、急に入れ替わらない限り絶対そうです!」
「人がそんな簡単に幼児退行する訳――――」
「確かに、この少女は六納と同じ匂いがするぞ!」
「頭部の骨格から推定……六納様との一致率、99,8%。この少女は、六納様本人とみて間違いないでしょう。」
この二人はなんでこんなに冷静なんだ!? もっと驚こうよ! こんなの最先端医療が泣いちゃうよ!
いやでもまぁ、普段マギアだのXだのと触れ合ってる俺が化学だなんだと騒ぐのは野暮ってもんか······
この間の俺の思考! 僅か0,01秒!
「まぁ······うん、人くらい縮むよなぁ······それで七羅輝さん、六納さんがなんでこんなになったか分かりますか?」
「空牙氏もかなり冷静ですな······それが分かっていたら私が既に治しています······でも、今分かる事と言ったら店長氏が何か事情を知っているという事位で······」
やっぱり安定の情報の少なさだな。店長が絡むといつもこうだ。
「む·······うぅん······ここは······?」
意識を失っていた六納さん(幼)が、目を覚ました。
「む、六納氏ぃー! 良かったぁ! 私もう死んでしまったのかと!」
「七羅輝、まだ死なないから安心してくれ。······しかしよりによってこのクソ忙しいタイミングで
「すみません······俺にも店長がどこに行ったか分からなくて······メイさんは知ってますか?」
「空牙様、六納様。申し訳ありません。私も何かを買いに行くとは聞かされているのですが、どこに向かったかまでは······」
「というかそもそも六納さんはちっちゃくなっちゃったんですか? やっぱり店長が何かしたんですか?」
聞くまでもなくそうだろうけど。
「まぁ······そうだな······あれは私と店長が出会ったばかりの頃の話なんだが――――」
―10ウン年前―
当時大学生だった私は店長と知り合った。
『六納サン授業おつかれー!』
当時からそこそこいい加減だったアイツは地元から出てきたばかりで土地勘も無く、オマケに金も無かったので
『んだよ大学まで来るなっつったろ!』
『いやちょっとねー、六納サンにプレゼントがあって······』
そう言われて手渡されたのは一粒のラムネだった。プレゼントなんて言うからどんなものかと思ったらすごくガッカリしたのを覚えてる。
『? なんだこれ?』
『よくぞ聞いてくれました! これはね! 僕が試作した時間逆行薬で、いつでも子供になれる代物なんだ! あ、20年後位に飲むと適切な効果が出るからまだ飲ま――――』
『ふーん······相変わらずお前の作る飲食物ゲロ不味いな』
『――――ないでねってもう飲んじゃってるよ!』
私はあいつの話を聞かない内に食べてしまったんだ。すると······
『かっ、体が熱いっ! なんだこれ!? ぐぁぁぁぁ!』
『かっ体が縮んだあぁぁっ!?』
『だからまだ飲まないでねって言ったのにぃぃぃ!』
『『うわぁぁぁん!!』』
「――――という訳だ。『副作用で定期的に幼児化するかも』とは聞いていたがまさか今来るとは······」
「マスター。流石です。当時からその様な薬品を作る技術があった! さすがは私のマスター! その技量、敬服に値するのです!」
「メイさんちょっと静かにしてね? 話の聞き疲れで万丈寝ちゃったから。起きちゃう」
「ナゼ店長と六納は知り合いだったのだぁぁぁぁ!!!!」
万丈がビクリと体を震わせて飛び起き上がる。随分と大序盤で寝たなぁオイ!
「六納さん、事情は分かったんですけど······そこからどうやって元に戻ったんですか?」
「っっ!! それは······その······」
お? 六納さん(幼)が突如顔を赤くして滝の様な汗を流し始めた。なんかモジモジしてるし、まさか言えない様な何かが――――
「店長がただいま戻りました〜! って七羅輝さんがお店に来るなんて珍しいですね!······んなぁっ! その小さな子供は······まさか······」
そんなこんなしてる内に店長が帰って来た。両手にそこそこパンパンに物が入ったレジ袋を持っている。相当買い物をしてきたようだ。
「店長! 実はかくかくしかじかで······」
「あー······今来ましたか······六納さん、パパっと元に戻りましょう。付いてきてください」
「う······分かった······」
店長はそう言うと、顔を真っ赤にした六納さんを抱き抱えながら厨房奥へと入っていった。基本閉めた事の無い扉も閉めて、中は完全に見えない。
「んあああっ! あっああああっ!」
「なんだなんだあっ!?」
15分ほどした後、急に六納さんの声が聞こえた。普段の強い女性というイメージの彼女からは想像もつかない様な嬌声だ。
「てんちょ······そんな熱いの······もう······クチに入れないでえっ!」
「我慢して下さい。元に戻れなくても良いんですか?」
「そのドロドロ嫌いぃ! もうお腹入らない! いや······あの、本当にンンンンンッ!」
な!? ナニが中で行われてるんだ!?
「︿_/︺▔╲▁︹_/﹀▔\⁄﹀\」
メイさんブツブツ言いながら指ゴキゴキするの止めて!?
「――――――」
万丈! ぼーっとするな! 鼻血出てるって!!
「············ごち」
ヤム······七羅輝さぁぁぁん!? 血溜まりの中で······呼吸が無い······
くっ······今ここで冷静な判断ができるのは俺しかいねぇ! じいちゃんが言ってたんだ!「小さな子にナニかあったら事情はともかく助けに行け」って! 否! これは面白半分なんかじゃない! 決して! 俺は見逃さないんだぁぁぁ!
「店長ぉ! いくらなんでも見た目幼女にそういう事はダメです! 思いとどまってくだ――――」
「私辛いの好きだけど美味しくない辛さはぁ〜! え?」
「ちゃんと食べきらないと戻れないですよ······ん?」
店長は何かを六納さんに食べさせていた。
赤い蒸気を発生させ、スプーンですくってもボコボコと沸騰し続ける、謎のドロっとした液体を。
◇◇◇◇
店長は謎の料理(?)を食べさせつつ、俺達に事情を説明してくれた。
どうやら、六納さんが元に戻る為には、強い痺れるような刺激と、燃えるような熱い刺激が必要なのだそうで、流石に見た目小さな子供に電流を流したり火で炙ったりするのは可哀想だと思った10ウン年前の店長は、辛い物が好きな六納さんを見てこの方法を思い付いたそう。
しかしまあ、店長の作る料理は今も昔もゲロ食べた方がましなレベルでまずいので、六納さんもあんな声が出る······と本人達は言っていた。
その後、無事元に戻れた六納さんと息を吹き返した七羅輝さんは、口直しに俺の新作メニューの試作をしてくれた。その結果、1番評判の良かった【旬の野菜タップリのスパイシーカレー】が夏限定メニューとして商品化される事になったし、六納さんはなんか凄いスッキリとした顔で「ありがとう! 空牙君!!」とだけ言い残し帰って行った。めでたいね!
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