第12話 万丈の300円豪遊記

これは、空牙と不破がXと激闘を繰り広げていた丁度その時!


  300円を片手に豪遊を敢行する万丈 一亥ばんじょう かずいその男の物語である!!!!


◇◇◇◇


我の名は万丈 一亥、としはママ上曰く10歳......詳しい事は面倒臭いし聞いても分からんので飛ばすが最近親父が人では無いと暗い眼鏡の女から聞かされた。


 よく思い出してみれば確かに時々オオカミの様な見た目で近所をうろついては我がママ上にしばかれていた。


 どこの家も親父は獣だと思っていたが······多分我の親父だけだったらしい。


 我は本当に空牙達の仲間として過ごしてもいいのだろうか。最近そんな考えが頭をよぎる。


 我は親父と喧嘩をして家を出た。


 理由は······まぁくだらん事よ、聞かないでくれたまえ。


 だが、これから行く場所とは少し関係がある······さぁ付いたぞ! ここが我の至高の花園! 【あまみや】だッッッ!!


 ココは我の欲するしょっぱくかつ甘美な食を安く買う事が出来る! 勿論今持っている300円ともなれば世界の半分を手に入れる事すら訳ないだろう!


······駄菓子屋? ハッ! その様な陳腐な名前の店と一緒にしないで貰いたい! ここは駄菓子屋なんぞより多種多様なお菓子を! 安く買える我が至高の――――


 何? それを駄菓子屋と言うのか? 先の陳腐という発言は謝罪しよう。


「さっきっから兄ちゃん何一人で喋ってるの? 【あまみや】着いたよ? いっつも僕と一緒に来ないと道に迷うんだから······じゃあ僕トモくんのとこ行くから! 後でね!」


「おう! 少年! 案内感謝するぞ!」


 彼はショウタ、いつも我の事をこの花園まで案内してくれる少年だ。


 “ショウガクゴネンセイ”という職業に就いているらしく、かなり楽しそうに働いている。


◇◇◇◇


「ばあちゃん! いつものを頼むぞ!」


 我は店の奥へと向かって声をかける。すると我の“いつもの”を持って彼女はやってくる。


「いつもありがとうねぇ···はいこれ、冷蔵庫でキョンキョンに冷えてるよ」


 彼女の名はミツ、【あまみや】を一人で切り盛りする店長だ!


 ここで買うラムネは体温で暖めるのが惜しいほどに冷えている。これが美味いのだ。


 万丈は一息に半分を飲み干した。


「ッッカァー! おばあちゃん! ポテトフライもくれ! 一つ!」


「はいはい······アンタがいつもこれ欲しがるから、取って置いたよ···40円ね、」


 彼女······ミツさんは凄い。一度来た人間の顔と好みは全て覚えているらしい。


 我がここへ来るのは3度目だが、ミツさんが俺の好きな『ポテトフライ』『ブタメン』『ビッグカツ』を、既に横に控えているのを我は見逃していない。だが今はこのポテトフライを味わおう······


 ショウタが我と共ににこれを食べる時は大事に大事に一枚づつ味わって食べているが、我は違う!


 四枚を重ねて一口でこう! 豪快に行くと味の濃さと脂の旨みが脳に直接刺激をくれる!


 300円も持ってないと出来ない食い方だ!


◇◇◇◇


 ポテトフライとラムネを味わい尽くしたところで、外からショウタの声が聞こえた。


 トモを迎えに行ってここに戻ってきたのだろう。【あまみや】の横は空き地になっていて、少年達の遊び場となっている。


 どれ今日はショウタにちょっかいを出すとしよう!


「ショウタよ! それにトモも! 一体何をしているのだ?」


 向かい合って立つ二人の間には丸い透明な箱と、その中でぶつかり合うコマが見える。


「あ! 兄ちゃん! 今ね、あのね! “デイブレイカーズ”やってたの!」


 デイブレイカーズ······ああ! 家にいた時コロンコロンコミックで見た事がある、コマを破壊した方が勝ちのゲームか!


「デイブレイカーズか! 面白そうだな!」


「兄ちゃんもやる? 使ってないデイゴマ貸してあげるよ!」


 そう言ってショウタはポケットの中からコマ···デイゴマを取り出した。


 これは······今の主人公のライバルが使う、『ガルオーガ』だな。確か長く回るのが特徴のスタミナタイプだった気がする。


対してショウタが使うのは今の主人公の相棒、『ステラロード』か·····


 高い攻撃力で相手を粉砕するアタックタイプ、相性だけで見れば我は不利だな······ショウタよ!


 自分が勝って気持ちよくなる為にわざと自分有利な勝負を持ちかけたな?


 良いだろう! ならばその優越、我が打ち砕いてくれるわ!


「じゃぁ行くよ! 3!2!1! デイ! シュートッ!」


「ッッラァァッ!」


 我のガルオーガは中心に居座り、ショウタのステラロードは外周を高速で移動している。


「兄ちゃん! アタックタイプはスナミナタイプに相性有利なんだよ! 僕の勝ちだ!」


 ステラロードがガルオーガに向かって連続で攻撃を始める。


 成程確かに、回転力は消耗させられる。だがっ! その程度で負ける我がガルオーガでは無い!


「今だ! ウオォォォォォッ! ブレイクだァッ!」


 我がブレイクを命令すると、本当にステラロードが壊れた。


 壊れたと言ってもパーツ分解式なのでくっつければ元に戻るのでショウタも特段ショックは受けていない。


 むしろキラキラと輝く目でこちらを見ている。


「兄ちゃんすっげぇぇぇぇ! 今のどうやったの!? 漫画みたいだった!」


「ショウタくんこんなに凄いお友達いたの!? もっと早く連れて来てよ!」


 それどころかトモもショウタ同じ目で我を見始めた。


 その後、ショウタやトモと何度も戦ったが、我が全勝してやった! 勝つと言うのはやはり気持ちが良いな! ガッハッハッ!


「よぉーうショウタ······なんか楽しそうな事してるじゃぁーん? オレも混ぜてくれよ······?」


 なんだ? 誰か来たぞ? やって来たのは我と同じ位の身長、我以上の体躯の少年? だ。


 ショウタの名前を知っている事から察するにショウガクゴネンセイなのだろう。


「あ、、、ヒロマサくん······どうしたの?」


「『どうしたの?』 じゃないよな? 俺も混ぜろよ」


「で、でもヒロマサくんすぐランチャー壊すからヤダよ!」


「うるせぇ! 今日はちゃんと4年生からパクってきたよ!」


 トモから聞いた話によると、あの少年の名前は猿山 大将ましらま ヒロマサ、ショウタ達の行くショウガッコウのガキ大将と言う奴であり、常に周りから疎まれているらしい。


 なんでもデイブレイカーズのショウガクセイの部チャンピオンであり、力が強すぎてデイゴマの発射装置『ランチャー』を一度撃つ事に破壊するので新しいのをママ上に買って貰えない······そうだ。


 ショウタ達の職場も大変だな。


 我もさっきランチャーを壊してしまったので後で謝っておこう!! 絶対!


「待てヒロマサとやら······お前デイブレイカーズのチャンピオンらしいな?」


「なんだよオッサン! なんか文句あんのかよ?」


「我とデイゴマで勝負して、もし我が勝ったら······今後周りに迷惑をかけるような事はしないと誓え! 周りの他人の物を壊すなんて最低だッ!」


「ヘッ······良いぜ! 俺は大人にだって負けた事無いんだ! オッサンのデイゴマも!その自身も粉々にしてやるよ!この、”シアン・ザ・ソードキング“でな!」


「シアン・ザ・ソードキング······前作の主人公の進化したデイゴマ! アタックタイプでも最強の一機だよ!兄ちゃんのガルオーガじゃ勝てないって!」


「降参するなら今のうちだぜ! 俺はこのデイゴマで日本チャンピオンになったんだ!」


「安心しろショウタ!トモ! 我は勝つ! あとさっき貸して貰ったランチャー壊しちゃったから後で我が相棒が買って返す!だから今は替えのランチャーも一個貸してくれ!」


「ええ!? 絶妙に締まらないよ兄ちゃん!? 絶対勝ってね!」


 今度は壊さないように慎重に、優しく撃たねば······


「やるぞぉ! 3!2!1! デイ! シュートッ!」


「ムッッ!」


 しまった! 優しく撃ちすぎたぁっ!


 一方ヒロマサのソードキングはランチャーを破壊しながら唸りをあげて着地する。


「ガルオーガフラフラしてるよ!? 兄ちゃん大丈夫!?」


「ハッハッハァ! フラフラじゃねぇか! そんなんで俺に勝つとか言ってたのかよ!」


 凄まじい勢いの連続攻撃がガルオーガを襲う。スタミナが消耗していくのが目に見えて分かった。


「今は耐えろ! もっと!!」


 ショウタ達には内緒だが、実は今、神性機械マギアの能力を使っている。


 我のマギア『衝撃インパクト』は、自身、またはそれに近しい対象に衝撃を溜め、一気に放つ事が出来る!


 つまり、ソードキングがガルオーガに攻撃をすればするほど解放した時の威力が高くなる!


 卑怯とは言うまい? 自分が使える物を全て使わずに負けるのは怠慢という物だろう?


――――さて、そろそろ終わりにするか。


「さあ! もうすぐお前のガルオーガの回転が止まるぞ! まぁ? この俺のソードキングの攻撃をここまで耐えた事は褒めてやるがそれまでだ! 次からここに来る時にコーラ奢ってもらうぞ!」


「甘いなヒロマサよ······お前は今、と言ったな? まだだ! 俺のガルオーガは······最後のカウンターを仕掛ける。次ぶつかり合う時がお前の最期だ!」


「何!? 当たるなソードキング! 今お前が攻撃しなければ回転不足でアイツは止まる! 踏ん張れぇぇぇ!」


「無駄だぁ! お前は今運命に抗おうとしている! だが運命は自分でぶち壊し! 噛み砕く物だ! 今だガルオーガ!

 ブレイクだぁぁぁっ!」


 ガルオーガとソードキングがほんの少しだけ接触する。


 ガルオーガが止まるより一瞬早く、ソードキングが破壊された。


「な!? 何ィィィィィ!!!!」


「兄ちゃんが勝ったァァァ! ヒロマサくんに勝ったァァァ!」


 ヒロマサは膝をつき、ショウタとトモは飛び上がって喜んでいる!


「参ったかヒロマサよ! これが勝負に賭ける信念の差だァ!」


「ちくしょう! 覚えてろよ! うわぁーん!!」


 涙を流しながら、ヒロマサは走り去っていった。


 何はともあれ、我々は勝ったのだ。


「さあ! ショウタ! トモ! 祝杯と行こうではないか!」


「「おぉー!」」


「――――それでな、ここは俺が小学校の時通ってた駄菓子屋な訳だ。ミツさん元気は元気にしているか楽しみだ」


「ほーん······不破さんって甘党なんですね」


 ム! 何やら聞き覚えのある声が聞こえてくる!


「空牙! それに······モチみたいな名前の奴!」


「不破だ! 俺を勝手に優しい食感にするな!」


「万丈! テメェ! 何俺達が大変な時に小学生と遊んでんだ!? 今日晩メシ作ってやんねーからな!」


「みんなして騒いでどうしたんだい? あらイズルちゃん! 久しぶりねぇ〜こんなに大きくなって!」


 店から出てきたミツさんは、どうやら不破と会った事があるようだ。


 ショウタとトモは気にせず飲み食いしている。


「ミツさん! 元気そうでよかった! ······全然見た目変わってないですね······おばあちゃんのまんまだ······」


「そんな事言う子にはお菓子あげないよ? うそうそ冗談よ。確か雪見る大福好きだったわよね? 今取ってくるから待っててねぇ」


 少ししてミツさんは雪見る大福を持ってきた。


 ショウタ達には我から奢ってやるとしよう。


「空牙、約束通り半分こだ。1個良いぞ」


「サンキュ·········やっぱりうめーわ雪見る大福! あ!あとブタメンください!」


「ミツさん! 我もブタメン貰えるか!」


 隣に食べてる奴がいると食べたくなるのは、人も、半分化け物であっても変わらんのだな······くだらん事に頭を悩ませていたのがアホらしくなって来たわ!


 今は食べて忘れよう。この幸せが心を、身体を埋め尽くせば、その時にはきっと未来が待っている。


 その夜、万丈 一亥、九重 空牙、不破 イズル、並びにショウタとトモは、晩メシが喉を通らなかったという!

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