第10話 空牙と初めてのお給料日
――――今日はアルバイトを始めてから丁度一週間……つまり初めての給料日だ!
……え? 確か給料日払いと言う文言に目がくらんでアルバイトを始めたんじゃなかったかって?
確かに初日分の給料はその日の内に貰って家賃を払った。
しかぁし! 家賃を支払った事で余裕のできた俺は、店長に一括で払ってもらえるようにお願いしておいたのだ!
しかも
空を飛ぶかのようなスキップで空牙は【オービアス】へと向かう。
◇◇◇◇
「おっはようございます! 店長!! メイさん!! なんて気持ちのいい朝なんですかね!」
「空牙様、おはようございます。何やら今日はゴキゲン、なようですね。」
「おはよう! 空牙君! 何やらテンションが著しく高いようだけど、何か良いことでもあったのかな?」
「てぇんちょぉぉ~、もったいぶらないでくださいよぉ~! 分かってるんでしょ? ほら今日は! 給・料・日……ですよね!」
「給料日」という言葉を聞いた途端、店長とメイさんの顔が硬直した。……正確にはメイさんは無表情なのだが、店長と同じような雰囲気を纏った。
「空牙君……その事なんだけどね……もう少し待ってもらう事出来るかなぁ!?」
「え…………はああああああああ!ああああ・@-$’&!?」
「空牙様、何故お給料が今月出ないのかは私からお話しさせて頂きましょう。」
椅子からひっくり返った俺を見下ろす形で、メイさんは話を続けた。
「一言で言うならば……お客様が全く来なかったので赤字なのです。」
「やっぱりかよチクショオッ!!!!!!」
まあ予想はしていた。この一か月間お客さんと呼べる人は俺が接客した
「あれ······じゃあ万丈は給料どうしてるんですか? あいつは日払いですよね?」
「ああ、万丈君はレジに残ってた300円を持って『駄菓子屋王に俺はなる!』ってついさっき走って行ったよ」
それで良いのか万丈は······てかあいつは俺より300円も多く貰ってるのか!? 俺の方が長く働いているのにこの待遇の差はなんだ!!!!
通常の人間なら闇堕ちして破壊の限りを尽くしてもおかしくない絶望が俺の心を塗り潰す。しかし金によって闇に沈んだ心に光を灯すのもまた金であった。
否! 冷静になるのだ九重 空牙よ! 俺には虎の子のX討伐報酬があるではないか!
「店長! X討伐の報酬金! 確かあれは店長のポケットマネーでは無いですよね! そっちはどうなったんですか!!」
「そうだよ空牙君! そっちの方は3日位前に六納さんに報告しておいたから、もうそろそろ――――」
「――――邪魔するぞ······九重···あと万丈も···いるか?」
そう言って入って来たのは銃の
俺の天敵、不破 イズルだ。
「不破さん! アナタがここに来るのは初めてですね。ようこそ喫茶【オービアス】へ」
「そこまで長居するつもりはねえよ。他にお客さんが来たら迷惑になるからな。九重に要件だけ伝えに来たんだ」
「あ、そうなの。じゃあ僕は研究室に戻るから、何かあったらめいちゃん経由で伝えるね」
「俺に用事···ですか?」
「ああ、X討伐の報酬金についてだ」
キタキタキタァ!報酬金! えーと···俺は今月4体討伐してるから、1体当たり5万で20万!?!?!? 最高じゃあねぇか!
これで欲しかったゲーム買ってもお釣りが余裕で来る!
「今月分···なんなら3ヶ月先までナシの見通しだ」
ナシ···?俺は梨なら洋梨が好きですけど······お金を稼ぐのってこんなに大変なんですね......おじいちゃん、今までありがとう!
空牙の膨らんだ夢は一瞬にして弾け去った。
そしてしぼみかけの風船の様な顔になった空牙に不破は動揺こそしたものの殆ど気にすること無く話を続けていく。
「理由は主に
そこまで不破が話したタイミングで、空牙は気を取り直した。
「なんで俺の報酬金が貰えないんですか!?」
「話が一手遅いんだよ馬鹿野郎!! あと九重はもう一つ理由がある!」
万丈には無いけど俺にはある問題? 一体なんだ?
「お前は顔を晒し過ぎだァッ! 良いか?お前はこの世界を陰ながら守るヒーローなんだぞ!? それがなんで顔を晒しつつ堂々と戦ってんだ! 見ろSNSを! 今は七羅輝の頑張りで落ち着いてるが一時期お前特定されかけてたんだぞ! お前の報酬金が向こう3ヶ月カットなのはその手間賃だ!」
「そんな事言ったって! マスクなんて被ったら動きが鈍るでしょ!? 不破さんみたいに長距離から狙撃なんて出来ないですし、どうしようもないじゃないですか!」
「空牙様、不破様、お取り込み中失礼します。今しがた報告がありました。Xが出現したとの事です。空牙様、至急向かってください。」
俺と不破の無意味かつ不毛な言い争いを止めさせたのはメイさんだ。空気が読めないのもこういう時助かるな!
まあXの出現という緊急事態だからだろうが......
「――――という事なんで不破さんすみません! 話はまた帰ってきてからでも!」
「待て九重。俺も行く···お前が街を破壊しないかの監視だ!」
「空牙様、先程の顔を晒さない。という問題に少しでも対策になれば。とマスターからこちらが···」
そう言って手渡されたのはサングラス···の様な物だ。
たぶんあの店長の事だ。ただのUVカットサングラスでは無いのだろう。
「マスターから、『色々な機能が付いているから、試しに使ってみてね!』と伝言を頼まれております。それでは空牙様、不破様、行ってらっしゃいませ。」
俺と不破は現場へと向かった。
このXが終末に向けた
ただ二人の······裏切り者と神に届く者を除いて·······
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