第5話 異次元のビジネスパートナー

「ここだな硬木署かたぎしょってえのは……」


 俺と新入り君は店長の指示通り、近所の警察署へとやって来た。


 道中、新入り君からXの事について色々と聞かれたので今俺の知っている事をすべて話しておいた……あののほほんとした顔は何も理解していないだろうが……


 受付のお姉さんに人に呼ばれている旨を説明したらもう話は通っていたようで、すぐに小さな倉庫のような会議室へと通された。


 そこには見慣れた顔の二人とはじめましての三人が立っていた。


 長身だし顔も整っているが何故だか怖い印象を受ける。


 その横にもう一人男がいるが頼りなさそうという点以外特筆すべき点が無いように見える。


 一番強烈なのは女性だ……何あれ! 全部でかい! すごい!


「店長! メイさん! よかったあ何かしらで逮捕とかじゃなくて! 安心しましたよ! あ、そうそう。新人君も連れてきましたよ!」


「良かった二人とも無事で! 新人君が死にそうって連絡が来たときはほんっとうに焦ったんだよ!……で、何で生きてるの? そういう神性機械マギアなの?」


「マギアとは何のことだ? そのような名初めて聞いたぞ」


 いや……新入りは噓をついている……何故なら先程俺がすべて説明したからだ! やっぱり理解わかってなかったよこんちくしょう!


「あー……楽しい楽しい談笑中失礼するが、そろそろこちらの話も聞いていただきたい」


 話を遮ったのは俺たちが部屋に来た時からいた三人の内の一人、長身の男だ。


「初対面の人もいるから一応自己紹介から始めよう、俺の名は不破ふわ イズルだ。よろしく――所で空牙君…だったかな、君に一つ聞きたい事がある」


「なんでしょうか」


 俺に聞きたい事? 初対面の男同士が質問することなんざ好きなおかずかお気に入りの漫画くらいしかないだろうに


「お前にとって……この仕事は何の為にある?」


……どう答えるのが正解かわからねえ質問来たああああ! 


 これは正直に答えるべきだろうか……いやしかしやる気がない認定されて軽蔑とかされたら余裕で死ねる! ここは嘘をついてでも模範解答で行くべきだろう!


「それは……世界の人がXによって苦しむのを見たくないからです。そのためならこの身が果てようとも戦うつもりで――――」


 俺の前にあったテーブルが砕ける……イズルが殴り壊したのだ。


「模範的過ぎて気に入らねえなあ……いいかよく聞いとけよ? お前が一人何かしようと世界は変わらねえ。苦しむ奴は苦しむし死ぬ奴は死ぬ。大事なのは手の届く範囲でどれだけの人を守れるかだ。すべてを守るのは漫画のキャラにでもやってもらえ。そして自己犠牲の精神、これは今時流行らない。仮にお前が今ここで死んだとして近所の公園の子供守りに行けるのか? お前がやるべき事は如何に自分を守りつつ大勢の人を救う事だ。仮にも英雄ヒーローならば嘘をつくな......常に自分にも! 他人にも正直でいろ! それが出来ていないお前を俺は英雄ヒーローとは認めない」


 思いっきり地雷だったあああああ!!


 なんなんだこの人のヒーローに対する熱い想いは! え......イズルさん?もう一発殴るんですか? その拳、俺に向かってません? こっちは善良な一般市民ですよ!?


「ちょっと先輩! すぐ物に当たるのやめてっていつも言ってますよね!? そういう事するから友達も彼女もいないんですよ!」


「そうだぞイズル! 緑馬りょうま の言う通りだ!いくら友達も彼女もいないからって空牙君とテーブルに当たるのはヒーローの行いじゃないぞ!」


「すみません六納むのう司令......今後無いようにします.......だがお前は別だ緑馬......俺は友達がいないんじゃなくて必要としてないって事を教えてやろう......体にな!」


「先輩? その振り上げたグーをどうするつもりですか? 嫌っ! 痛い! やめて僕の事殴らないで!」


「あのバカまた余計な事を......空牙君、うちの部下バカが失礼したね。殴られてるうちに自己紹介を済ませてしまおう。私は六納 玲子むのう れいこ呼び方は好きにしてくれ。あそこで不破に殴られてるのは伊佐敷 緑馬いさし りょうま、不破の唯一の友人にして部下だ。基本無害だから無視してくれても構わない......あともう一人いるんだが......極度の人見知りで奥の研究室から出てこないから気が向いたら会いに行ってみてくれ、悪いヤツじゃない」


「なるほどな! 大体理解わかったぞ!オバサン!」


「私はまだ断じてオバサンじゃない!」


 今度は新入りが殴られた。明らかに目立っている露出した地雷を踏み抜き自滅したのだ。南無.....


「すみません六納さん! うちの新入り馬鹿なんです!」


「何故空牙は俺の事を名前で呼ばんのだ! 俺には万丈 一亥ばんじょう かずいという立派な名前があるのだぞ!」


新入り君をもう新入りとは呼べないな。次からは万丈と呼んであげよう......って、顔結構ボコボコだったのにもう治ってる!


「おー、結構思い切り殴ったつもりだったけどもう治ってる。アンタの神性機械マギアすげーな憑依型か?」


「だ・か・ら! 俺はマギアなんて物は知らん! 再生これは我のクソ親父も出来るぞ!」


 お父さんも出来るのかよ! じゃあマギアの能力じゃない? じゃあなんなんだこのビックリ人間は!?


「一亥君......一度検査して貰った方が良いんじゃない?」


「それが良いな! メイちゃん!奥に連れてって!」


「マスター、玲子様、承知致しました」


「おい待て! 俺は健康だぞ! おい! 何をするつもりだ!」


 店長の提案に六納さんが同意する形で、万丈は奥の部屋に連れていかれた。一体何をされるのだろうか……


「……話がようやく前に進むな! 手短に行くぞ! 空牙君達喫茶『オービアス』のメンバーを呼んだのは他でもない、今は4人しかいない『対X特務課』との協力を申し出るためだ!私と店長は旧知の仲なので拒否権は認めない! 以上だ!」


 ええええ......俺不破さんみたいな人と働きたく無いんですけど......


「しかし! こちら側の手の内を知らない状態での協力は不安だと思うので、空牙君は特務課唯一の神性機械マギア所持者の不破の仕事振りを見てもらいたい! ちょうどXが現れたとの情報が入った! おい不破! 殴るのをやめて早く仕事に行け!」


「六納司令、了解致しました。九重、行くぞ」



◇◇◇◇



そう言われて連れてこられたのは警察署の屋上だった。ここからどうやって現場まで行くんだ? 跳ぶのか?


「あの......不破さん? 屋上に来てどうするんですか? ここから現場まで五キロ近くありますけど......」


「そんな距離俺には無いも同じだ。よく見てろ......」


 そう言って取り出したのは、俺と同じ白い匣...しかし俺と違う点は刀ではなく狙撃銃に形を変えた事。まさかここから狙撃するつもりなのか!?


「......死ね」


 不破は一発のみ発砲した後、すぐに匣の形に戻した


「ちょっと待ってください!本当に当たったか確認しないんですか!?」


「はぁ......お前は自分の放った必殺の一撃にすら自信を持てない人間なのか?」


 その言葉が俺の耳に届くと同時に、遠くから爆発音が聞こえた。Xの断末魔の音だ。


「これが俺とお前との力の差だ......やっぱりお前、この仕事やめろよ。才能ねえよ」


 悔しい......言い返してやりたいが返す言葉のひとつも見つからない。俺は今日、二回負けたのだ。一度は圧倒的な他の強さに、一度は自分の弱さに。

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