第6話 消えない屈辱と見えない変態

「『これが俺とお前との力の差だ……やっぱりお前、この仕事やめろよ。才能ねえよ』……悔しいいいいいいい! 事実かつド正論すぎて反論できないのがさらに悔しいいいいい!!」


「空牙様、硬木署かたぎしょに行ってから約三日、そのお話はもう47回目ですよ。そろそろ立ち直ってみてはいかかですか?」


「メイちゃんの言う通りだよ空牙君! 大事なのは、これからどうするかだからね!」


 メイさんと店長の言っていることは正しい。正しいのだが仮にも初対面の人からあそこまで言われる筋合いはないと思うのだ。


 だって、本気で戦えば絶対俺の方が強いし。


「そういえば、新入り…万丈帰ってこないんですけど、どうしたんですか?」


「ああ……それについてなんだけどね……万丈君、精密検査ついでに開発部の人に捕まっちゃってね、もう少し帰ってこれないって」


 開発部? よく分からないが恐らく課の奥の部屋にいるというコミュ障の人の事だろう。ほんとにナニをされてるんでしょうねえ……帰ってきたら聞いてみよう


――――


「あの……ここってもう開いてますか?」


 声が聞こえた入口の方を見てみると若い女性が立っている。


 あれは! 恐らくだが俺がここでバイトを始めてから初めてのお客さんではないか!?


「はい! 営業しています! お好きな席にかけてお待ちください! 注文が決まり次第僕の事を呼んでください!」


 え? 接客が下手なうえに空回り気味だって? 


 しょうがないだろう初めてのお客さんとあればテンションも上がるという物なのだよ


「いや……あの私、お茶をしに来た訳じゃなくて……相談に来たんですけど……」


 え!? ここ喫茶店ですけど?


「空牙君のその疑問には店長がこっそり教えてあげましょう! 実は、神性機械マギアを持つ人間を集めるために特殊な音波を使ってアルバイトの勧誘をしていたのは覚えているかな? それと同じ要領でXに何らかの関係がある悩みや事件の予兆を持つ人がこの店に来るように街中に広告を貼ったんだ! で、Xに関係する人が相談に来たって訳なんだよ! 空牙君、分かったかな?」


「よく分かりましたけど、俺の考えを読んで解説入れるの止めてくれませんかねえ!」


 おまけに長文がいちいちなだれ込んで来るので頭がごちゃつくのだ!


「そこらへんの話はまた後で、今は依頼人の話を聞こう」


 空牙と店長、メイの三人は依頼人の話を聞くことにした……


―――――依頼人の話をまとめよう。


 彼女の名前は山崎 知里やまさき ちさと15歳。


 相談の内容は学校に下着泥棒が現れる。という物だ。


 今までに対策として監視カメラの導入や、警察の周辺パトロールを行ったがいずれも犯人の特定には至らず、挙句それらの対策をあざ笑うように下着、体操服、リコーダー等が盗まれる……そうだ。


 とりあえず山崎さんにはお土産の空牙特製サンドイッチを持たせてお引き取り頂いた。


「店長! どういうことですか下着泥棒って! ホントにXと関係があるんですか!?」


「広告を見て来たってことだから、恐らくどこかしらでXが登場すると見て間違いないよ」


「今の所可能性は三つ。一つ目は【下着泥棒の犯人がXである】、二つ目は【学校で操作を進めるうちにXと巡り合う】、三つ目は【山崎様自身がXでこの依頼自体が罠】という可能性です。いかがいたしますか?マスター、空牙様」


「彼女がXぅ~? Xは人に化けることも出来るんですか?」


「【オリジン】は人間として普通に働いていたそうだよ。だから絶対に無いとは言い切れないんだ。でもかといって彼女を殺す訳にはいかない。……そこで空牙君! 君には彼女の通う学校の監視をしてもらいたい!」


―――――


「ここだな……下着泥棒の出る学校ってえのは……」


 俺は今山崎さんの通っている学校、『セントアルカディア中学校』へと下見に来ている。


 さすが女子校......敷地外から見えるだけでも監視カメラが親の仇かってくらいある......


 店長も無茶を言うなよ! こんなところで物陰に隠れながら双眼鏡で覗いていたら俺の方が犯罪者ではないか!


 くそう周囲の視線が痛いぜ(本当に「ママーあれ何してるの〜?」って言われるとは思わなかったぜ!)


「ちょっと君! そこで何してる!」


 ほら見ろやっぱりお巡りさんが来た......まあこんな怪しさ満点の奴誰でも声かけるわな!


「君、最近ここら辺で出る泥棒となにか関係があるんじゃないか? ちょっと署まで来てもらおう」


「ちょっと待ってください! わたくしこういう者でして......」


 フッ......任意同行は拒否できるし、これが現行犯逮捕なら身分を明かせば連行されない!


 こんな事もあろうかと名刺と保険証を既に用意していたのだ!


 空牙は警官に事情を説明した。


「――――なるほど、そうでありましたか......申し訳ありません......私......いえ、自分は柄間つかまと申します、最近この学校で発生している『見えない変態』を確保するためパトロールをしていました」


 なるほど、この人も下着泥棒を捕まえる為に頑張ってたのか......しかし『見えない変態』か、随分と間抜けな名前だな。


「柄間さん、“見えない”と言うのはどういう事ですか?」


「はい......自分は捜査の一環で監視カメラの確認をさせて貰ったのですが、人影は映っていないのに廊下を下着が高速で走っていたのです!!」


 なるほどそれで見えない変態......そんなの下着が宙を浮いている所を斬る位しか良い案が思いつかない......


 お、電話だ。現在店長は待機しつつ広域での監視をしている。そして学校内でなにか動きがあった場合のみ連絡が入る算段となっている。


『もしもし空牙君!? 出たよ! 今校門に向かってる!』


「了解!! すぐに向かいます!」


 校門へ向かうと確かに下着が宙に浮き、下着とは思えない速度で突進してくる。


 持ち主には申し訳ないが、目印がアレな以上斬るしかない


「持ち主さんごめんなさい! はぁっ!!」


 下着......正確に言うならパンツは斬れた......しかしXを斬った時の感触が無い。縦と横同時に斬ったので外したと言うのも考えにくい......どういう事だ......?


「はぁ...はぁ...! 空牙さん速いですよ! どうですか? 倒せましたか?」


「いや......これは俺の想像より面倒臭い仕事かもしれないな......」


 姿を見る事が出来ず斬ることも出来ない......そんな奴相手にどうやって戦えば良いんだ?


あと斬っちゃったパンツどうしよう......

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