第3話 最強の意味

 初めての戦闘から一週間が経った。


あれからXの出現報告もないし、カフェのホールとしての仕事も全くないので、店長からXについてや神性機械マギアについて色々と教えてもらった。


 無知な俺にもかなり専門用語を使って説明してきたので、取り敢えず分かっている事をまとめると......


 なぜ核を破壊したら爆発するのかは不明。


 俺の討伐したXはフェーズ1と呼ばれる個体でまだ幼体と思われる。


 フェーズ2があると予想されているが進化条件は不明。


 なぜかこの街でしかXは出現しない。理由は不明。


 工場で確認されたX一号……仮称【オリジン】は今も見つかっていない。所在は不明……らしい……


「何一つ分かってねーじゃないですか!!」


「あっつう! ちょっと! 急に大声出さないでよ……折角コーヒー淹れたのに……」


「なんでこんな情報不足で戦ってるんですか! もうちょっとこう……外国に応援の要請とか色々できるでしょう!?」


 そうだよ。世界の危機に一個人で抗おうという方がおかしいのだ。


 流石に国家の存亡がかかっていると分かれば他の国も助けてくれるはずだ!


「空牙君の疑問に一つ一つ答えていこう。まずなぜ情報が足りないかについてだけど、核を破壊すると爆発するから死体からの研究が出来ないっていうのと、今の所Xだと確定しきれないものも含めて3件しか戦闘記録がないんだ。しかも1件は目撃情報のみ……だからこそ空牙君には沢山戦闘してもらって、データを集めて欲しいんですよね」


 成程······つまり俺ぁ未知の化け物と常に最前線で戦わなきゃ生き残れない実験体って事じゃねーか!


 既にこの仕事辞めたい······


「そして……海外に応援できないか…についてだけど……結論はNOだ。なぜなら、「通常兵器の効かない、単体で世界を滅ぼせる怪物がこの国に現れます」という情報だけならまだしも、「軍にも対象不能な怪物を殺すことのできる人間が多数存在します」なんてことがばれでもしたら、軍事力という面での世界のバランスが崩れかねないからね」


 俺には国防とかの話はよく分からんが、確かにそんな強い奴がいっぱい居たらそうなるか······?


「――――もっとも、この国だけに神性機械マギアの持ち主がいるわけじゃないし、そろそろ一般人に対するごまかしも効果が薄れてくるだろうけどね……」


 自嘲気味に笑う店長を見て、俺は不安が顔に出ていないかと心配になる。


 ちょっと店長頼りないんじゃないか? 俺に世界を救う事を依頼してきたときの圧は見る影もない。コーヒーも不味いし。


「空牙様。ご安心ください。マスターは“最強”ですから」


 メイさんはこう言うが、普段のなよっとした所を見る限りとても信じられない。


「おっと、楽しい楽しい授業もここまでだね……空牙君、お仕事だよ」


「分かりました。いってきます」


 俺は急いで着替えを済ませ出発する。不信感と言う余分な荷物を持って。


◇◇◇◇


『――――こちら空牙、現場に到着しました』


『了解したよ、じゃあこの前と同じようにお願いね!』


「今回の目標は……あいつか」


 今回のXも、4m程度の大きさでスライムのような形をしている。ただ一つ前回と違うのは、積極的に人を襲っている所だ。今正に触手で掴んだ人を取り込もうとしている。


「まずいまずいまずい! 離せよ化け物ぉ! 早く逃げて!」


 間一髪触手を切り飛ばすことに成功した。今回はちゃんと刀になってくれて良かった。


『Niap si a lairt eht .Drol Gnillik uoy lliw osla eb a ¡lairt』


「相変わらず何言ってるかわかんねーけど、今回はサクッと倒させてもらうぜ!」


「見様見真似じいちゃん流“居合”『四王裂しおうざき』!!!」


 勝負は一瞬で決まった。前回のグダった様とは打って変わって一刀の元に核を斬り捨てる事ができた。周りへの被害もほぼゼロ。俺の完全勝利だ!


「いやー楽な仕事だ! これで五万円だろ~?やっすい仕事やでホンマ! 今日は先輩でも誘って焼肉でも行こうかしら」


 しかし俺はある異変に気付く。おかしいのだ……Xは確か核を破壊すると爆発するんだったよな?


 ……今俺の目の前にはXの死体が転がっている。いや動いているぞ!? それにだんだん集まって小さくなっていっている……


「アァ……ナゼワタシハ生キていル?」


 急に俺にも分かる言葉で話し始めた……俺と同じくらいの大きさになった……? いやそんな事よりも! 先程よりより強く、より大きく空が、大地が震えている······ 


「なんだよお前……俺お前の核破壊したよな!?」


 くすんだ灰色をした人の様な異形になったXは、暫く思案した後こう告げる。


「······確カにワタシはアの時死んダ。シカシ覚悟にヨり主はワタシを蘇らせタのダ! 見ヨ‼ コの力を!」


 Xは軽く手を払った、払っただけなのに俺の真横の地面が凄まじい勢いで裂けていく。


 少し衝撃波が触れただけなのに頬がばっくりと割れた……Xあいつと俺との力の差は一瞬で理解できた。


「嘘……だろ……」


「力ノ差ガ理解出キタか? 逃ゲるなラ苦シマセずにコロしてやるゾ? ソシテ主ヘノ糧とナルのだ!」


「あ、結局は死ぬんですね……………だったら逃げる訳にはいかねえよなあ!! 死ぬまで抗ってやるよ!! かかってこいや合掌頭ぁ!!」


「いやぁ~空牙君、その心意気は流石僕の見込んだ男ですね! でも、死んでしまうのは感心しませんね。ピンチの時はちゃんと頼ってください」 


 すぐ後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。振り返ると誰もいない……しかし視線を戻すと目の前に店長が立っていた。


「誰ダ急ニ現れテ……」


「店長! どうしたんですか!?」


「いやぁ、何だかやばそうな感じがしたので助けに来ちゃいました! 成程フェーズ2への進化条件は“覚悟”でしたか……意外とスピリチュアルな感じなんですね! あ、でもこの個体のみの条件という事も……」


「ワタシの前デ背を向ケルとは……良イダろう……貴様も主の糧とナルが良イ!!!!」


「店長!! 後ろ――――っ!」


 店長のすぐ後ろにXが迫る。その手は地面を裂いた時以上のパワーを確実に乗せている 人一人を消し飛ばすには十分すぎる一撃を胸に撃ち込んだ……否、消し飛んだのはXの方だった。


存在反転イパルクス


 Xは、口をパクパクと動かし何か言葉を発そうとしていたが、その声が俺に届く事は無いまま崩れ消滅したのだ。


 今俺の目の前で起こっている事象を店長が起こしたのだと理解できた時、メイさんの言っていた“最強”の意味が少しわかった気がした。


 普段は開いているのか閉じているのか分からない目が、開いている事が認識できる位には開いた。髪よりずっと鮮やかな紫の瞳……


 俺なんかよりあらゆる強さが宿っているだろうあの紫の深さを俺は忘れる事は無い。

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