ぬいぐるみを汚して

泉葵

ぬいぐるみを汚して

今日も交わった。幻想的な青の光がベッドを照らす。

淫らだとかふしだらだとか、そう言った言葉は汚れと一緒に水に流してしまう。

私はこの時間が好きだ。男にはいつも『シャワーは1人で浴びたい』と言ってお風呂場の鍵をかけた。

オンボロだからお湯の蛇口を捻っても、なかなかお湯は出てくれない。

結局汚れるのは身体だけ。私という中身は汚れずにいる。それにお風呂に入れば綺麗になる。だからどれだけ交わっても私が私でいられる。

普段は甘えられないけれどもベッドの上では童心に帰った気分になれる。普通だと言えないことも、タガが外れて甘えられる。きっとずっと捨てきれないでいる子供心が爆発してしまう。まるでぬいぐるみみたいだとよく思う。

気がつくとお風呂場は湯気で満たされていた。急いでシャワーを浴びて部屋に戻ると、男は寝てしまっていた。

つまらない。

私は置き手紙を残し、ホテルを去った。

私だって社会人だ。まるで別人のように、目を覚ませばスーツに着替えて、会社に出向く。普通の平社員だが、それでも会社の中の一人として働いている。

「お疲れ様でした」

上司が帰ってしまったのを確かめて私は会社を出た。

電車を降り、駅をでるとスマホが震えた。画面には昨日の男の名前があった。

「なに」

「なにってなんだよ」

電話の向こうで笑い声が聞こえた。

「冷たいなぁ。昨日はあんなに甘えてたのに」

「うるさい」

昨晩のことが思い出され、顔が火照った。

「今日会えない?」

「ごめん明日あるから」

「呑むだけだよ」

「どうせホテル行くくせに」

「分かったよ。じゃ」

電話は一方的に切れてしまった。

きっといらなくなったら捨てられる。静かに興味がなくなっていって、忘れられる。

家に帰り、お風呂に入った。汚れが取れない気がしていつもより長くお湯に浸かっていた。

捨てられたのか、忘れられたのか、その日以降男から電話がかかってくることはなかった。

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ぬいぐるみを汚して 泉葵 @aoi_utikuga

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