18話 将来の夢
「入門してお金を貰っちゃうと、就職先がこの組織、レクルシアに決定しちゃうよ」
え、どうしてそんなことになるの? わたしはまだ小学4年生だよ。将来の就職先とか考えたことないよ。
「いい、ユリ姉さんが組織の先行投資って言ったよね」
「うん」
「それって、組織の役に立ちそうな人をお金を使って育てて、将来は自分達の組織で働いてもらいましょうってことだよ」
……んん?
「わかりやすく言うと、貰ったお金以上に組織で働くってこと」
「え、やだ」
貰った以上に働くなんて無理。
そんなの、罰ゲーム以外のものでも何でもない。
「サっちゃん、言い方が厳しいよー。アリアちゃんも条件反射で拒否しないでね」
「……でも、実際そういうことですよね。囲いこみってやつですか?」
「サっちゃん、難しいこと知ってるねー、流石だ!」
あ、ユリ姉さんが否定しないってことは、さっちゃんが正しいのかな?
囲い込み? はよく分からないけど、将来を決められるのはやだな……。
「でもね、よく考えてみようよ。サっちゃんはアリアちゃんの為に強くなりたい。アリアちゃんはサっちゃんの為に強くなりたい。で、その強さを将来どう生かすの?」
……さっちゃんの為に強くなって、その先……将来……。
「強さが求められるのは主に領軍か民兵。あー、例としてはヤバいけど、犯罪組織なんてのもあるかな。犯罪組織に入って私達と敵対しないことを祈るよ」
シズカさん達と敵対なんて絶対無理! 秒殺だよ!
「ま、犯罪組織は置いておくとして、領軍か民兵の二択だよね。まずは領軍に入った場合。恐らく、二人は別々の部隊で働くことになります」
……え、やだ。
「領軍は個人の要望があまり尊重されません。二人がどれだけ仲良しでも、それは考慮されず、適材適所で配備される。それが軍て言うもの」
……さっちゃんと離れる……想像がつかないよ……。
「だけど、民兵……この場合はうち、レクルシアのことね。うちの場合は二人を一緒に組ませることを考えてます。その方がお互いに有益になると思ってるから」
あ、いいかも……。
「アリアちゃんとサっちゃんの将来の夢って、なに?」
わたしの将来の夢……。
「アリアちゃん達は、お互いの為に強くなってどうしたいの?」
「……さっちゃんを笑顔にしてずっと一緒にいたい。その為に強くなりたいんだから……」
「アリアちゃん……」
……うん。さっちゃんの為に強くなって、ずっと一緒にいる! 難しいことは今は考えない!
「ま、急いで答えを出さなくていいよ。自分達の将来って凄く大事なことだからね。自分だけじゃなく、家族とも相談した方がいいと思うし」
「あ、そうですね。あ母さん達にも相談しないと駄目ですよね」
「そうそう。サっちゃんも、急がなくていいからね」
「……はい」
わたしの我儘でさっちゃんを巻き込んだらダメだよね。
「さっちゃん、自分を優先してね。さっちゃんの意見が一番大事だから」
「……ありがとう、アリアちゃん」
パンっ!
うわっ、ビックリした!
ユリ姉さんが手を叩いた音か……。
「ちなみに、入門だけしてお金を貰わないって言うのもありだからね。その場合はお小遣いは増えないけど」
「え、やだ」
「あはは、いいねー、アリアちゃんはそうでなきゃ!」
……修行で時間が削られて、バイトも出来ないお小遣いも増えない。それはやだ。
「うーん、ブリギッテさんが空くまでもう少し時間があるかな。二人とも、シャワーでも浴びよっか。サっちゃんは結構汗かいたでしょ」
「はい、助かります」
「じゃ、案内するよー」
……そっか、さっちゃんは汗だくだったもんね。シャワー室があってよかった。
「到着ー」
ここってやっぱり観光施設だよ。シャワー室ってどこ?
大きな更衣室は予想がついたよ、いままでにさんざん思い知ったから。
……でも、あれって露天風呂、だよね。何で?
「シャワー室はお風呂場の横から入れるよ。あ、服はそこにある洗濯乾燥機に入れとけば直ぐに綺麗になるからね。シワ取りも自動でやってくれるよー。ボタンを押したら鍵を抜くのを忘れずにね」
……もうホント、何なんだろここ?
「あの露天風呂って温泉だから、入りたかったら入って来てもいいよ。時間には余裕あるし」
……温泉なんだ……もういいよ。何が来てもビックリしない。
「あ、じゃあ温泉に入ってきます。さっちゃんも温泉行こう!」
「うん」
温泉かー、何年ぶりだろう。
近所の大浴場付き健康ランドにはたまに行くけど、普通のお湯だもんね。
「おおー、凄い広い! それに温泉の匂いがいっぱい!」
「アリアちゃん、走ると危ないよ」
……あ、いけない。子供じゃないんだから……うん?
「アリアちゃん、温泉に入る前に身体を洗っちゃおうか」
「あ、うん」
この洗い場も凄いなー。見るからに立派なシャワー、椅子、鏡。
シャンプーとかも凄い泡立ちだし、きっと高いものなんだろうなー。
「さっちゃん、背中流してあげるよ。汗いっぱいかいてたから」
「うん、お願い。ありがとう、アリアちゃん」
……いつも迷惑かけてるからね、たまには恩返ししないと。
「懐かしいねー、昔はよく洗いっこしてたから」
「そうだね、懐かしいね。一人で出来るようになってからはあまりしなくなったから……」
……また、さっちゃんと一緒にここにきたいな……。
「はい、終わり! 流すねー」
「うん」
……よし、綺麗になったね!
「じゃ、温泉に入ろう!」
「うん」
チャプ……
……うん、大丈夫、熱すぎない。
「あー、うー、気持ちいいねー、さっちゃんー……」
「アリアちゃん、言動がちょっとおじさんみたいだよ」
「そんなことないよー、気持ちいいと、みんなこんな感じだよー」
お母さんもお姉ちゃんもこんな感じだし、間違ってないよね。
「……ホントに気持ちいいねー」
「そうだね」
「ここって凄いよね。また、一緒に入りたいねー」
「うん」
はー、ずっとこのままでいたい。
……温泉に入りながらさっちゃんとおしゃべり。天国だよー。
「……ねえ。アリアちゃんは、入門のお誘いをどうするの」
「え、まだ決めてないけど……」
ユリ姉さんも、急がなくていいみたいなこと言ってたよね?
「このお誘いね、私、受けてもいいと思ってるんだ……」
「へ?」
「アリアちゃんは私を優先してくれてるけど、私の最優先はアリアちゃんだから」
……うん、そう言ってくれるのは凄く嬉しい。だけど……。
「アリアちゃんが強くなりたい、お小遣いが欲しいって言うなら、入門でも犯罪組織でもついて行くよ」
「そっか……。でも、犯罪組織には行かないよ。行ってもさっちゃんは絶対に巻きまない」
「そうだね……アリアちゃんはそう言うよね……」
さっちゃんは、絶対に犯罪組織になんか巻き込まない。そもそも、わたしが犯罪組織って想像がつかない。将来、か……。
「わたし、さっちゃんがいるから頑張れるんだ。働く時も、さっちゃんと一緒がいい」
「私も、アリアちゃんと一緒がいい」
「……入門、しちゃってもいいかな……」
「うん」
「……入門しよう! 強くなって、お小遣い貰って、さっちゃんと一緒にここで働く!」
今はまだ社会人とか想像つかないけど、さっちゃんと一緒なら頑張れる気がする。
「よし! なんかスッキリしたよ!」
……わたしの将来の夢は、さっちゃんと一緒に働くこと!
「一緒に頑張ろうね、さっちゃん!」
「もちろんだよ、アリアちゃん。一緒に頑張ろう」
さっちゃんもスッキリした笑顔になってる。良かった。
……あ、お母さん達に相談してないや……。でも、きっと大丈夫だよね?
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