19話 友達?



「一緒に頑張ろうね、さっちゃん!」

「もちろんだよ、アリアちゃん。一緒に頑張ろう」


 さっちゃんもスッキリした笑顔になってる。良かった。

 ……あ、お母さん達に相談してないや……。でも、きっと大丈夫だよね?


「アリアちゃん、サっちゃん、温泉楽しんでる?」


 そっか、ユリ姉さんはシャワー室に入ってたんだ。

 汗はかいてないように見えたけど、やっぱりかいてたのかな?


「はい! 久しぶりの温泉なので凄く楽しいです!」

「そっかー、良かった。まだ少し余裕あるけど、そろそろ出よっか。他の利用者さんが増え始めるからさ」


 言われて気づいた。これだけ大きい浴場に3人しかいない。

 ……おかしいよね。もしかしたら、わたし達の為に貸し切りにしてくれたとか?


「二人ともスッキリした顔してるし、温泉効果はバッチリだったみたいだね」

「あの、他の人がいないのって、貸し切りだからですか?」

「あはは、違うよ。そこまでしたら職権乱用で懲罰もんだよ。人がいないのは清掃直後だから」

「あ、そうなんですね」


 ……よかった。わたし達の為に貸し切りとか、他の人に迷惑だからね。


「訓練所もそう。整備直後だっただけ。今はもう人が一杯いるよ」


 そうだ、訓練所も人がいなかった。

 ……でも、こんな大きな施設で人が全くいない時間なんてあるのかな?

 なにか、部外秘の事情でもあるのかもしれない。


「ブリギッテさんに会うまでまだ少し時間があるけど、ゆっくり着替えて、ゆっくり移動したら丁度いいかな。早かったら待合室でお菓子でもつまんで待ってればいいし」

「わかりました。出よっか、さっちゃん」

「うん、そうだね」


 更衣室にはすでに数人がいた。

 ホントに丁度いいタイミングだったみたいだね。洗濯も終わってるみたいだからよかったよ。


「珍しいね、こんな所に子供がいるなんて。……ああ、ユリカ様のお客様ですか?」


 わたしに話しかけてきた人がユリ姉さんに気づいて視線を向けた。

 ……ユリ姉さん、様付けで呼ばれてるんだ……。


「シェスタ、久しぶりー。元気そうでよかったよ」

「ユリカ様もお元気そうで安心しました。その子達は?」

「アリアちゃんと、サっちゃんだよ。ブリギッテさんのお客さん。今日は私が案内係を任されてるの」


 シェスタさん? がポカーンって顔してるよ。

 まあ、そうだよね。本部の偉い人が案内役ってありえないよね。


「ブリギッテさんのお客さんで、ユリカ様が案内役……」


 本日2度目の身体観察されたよ! つま先からてっぺんまで!


「……興味深い対象ですね」


 なんか既視感が……あ、モーリス先輩だ!


「シェスタ、実験スイッチが入ってるよー。今度無許可で人体実験したら追放だからね、気を付けてよ」

「あっ……、失礼しました。あまりにも興味深かったので、つい」


 ……無許可の人体実験って……。本物のヤバい人だよ。


「アリアちゃんはお姉ちゃんの弟子予定で、サっちゃんが私の弟子予定。だから絶対に手を出したら駄目だよ」


 弟子予定……うん、間違ってはいない。入門の返事はまだしてないしね。

 だけど、わたしがシズカさんの弟子? 怖すぎるでお断りしたい。


「シズカ様とユリカ様の弟子……」


 ユリ姉さん、弟子発言は逆効果だよ! 目つきが怪しくなった! 手を出されるよ!


「アリアちゃんは焔を一度で成功させた逸材だよ。サっちゃんも、一度見ただけで三散花を習得した天才さん」

「焔と三散花を一度で……」


 ……ユリ姉さん、もうやめて! シェスタさんの目に怪しい光が見え始めたから!


「そう、どれだけの子供か分かったでしょ」

「子供……そうですね、子供ですね……」


 ……目の光が元に戻ってくれた。よかった、冷静になってくれたみたい。

 あのままだと解剖されそうな感じだったから怖かったよ……。


「私の名前はシェスタ。よろしくね、アリアちゃんにサっちゃん」

「「 よろしくお願いします 」」


 ……さっちゃんと重なったよ。ちょっと嬉しい。


「仲が良いのね、うらやましいわ。私には人種の友達がいないから」

「シェスタ、私はー。友達だよねー」

「……ユリカ様とは同期というだけです。友達なんて……恐れ多いです」

「悲しいなー、昔はあんなに仲良しだったのに……」


 同期なんだ。シェスタさんが物凄く低姿勢だから全然そんな風にみえないね。

 ……ユリ姉さんはちょっと残念そうにしてるけど。


「……私はここで魔術具研究部門の部門長をしているの。友達は研究と魔術具」


 友達が研究と魔術具って……。


「魔術具のことで何か相談があればいつでも訪ねてきて。優先して対応するから」

「あ、ありがとうございます」


 根は優しい人なのかな……。

 さっきの怪しい目の光が嘘のような、すごく穏やかな人に感じる。


「シェスタ。私はずっと、貴方のことを大切に思ってるからね」

「……ありがとうございます」


……ん?


「さ、混んできたし、着替えて移動しようか」

「あ、はい」


 ……一瞬、ユリ姉さんがすごく悲しそうな目でシェスタさんを見た気がするけど気のせい? 今は普通に笑顔だし……。


「着替え終わったみたいだね。じゃ、行こうか」


 ユリ姉さんに先導されて、さっきまで訓練していた場所まで戻ってきた。

 ホントに人で溢れかえっていたのでビックリだ。凄い熱気に包まれてる。

 ……訓練所のイメージ通りだよ。普通はこうだよね。

 初心者に焔を使わせたり、100体のかかしを一瞬で切ったりするような場所じゃないよね。


「すごい熱気ですね。みんな、すごく強そうな感じです」

「ここの訓練所は向上心が高い人が集まるからねー。レベルも結構高いよ」


 それにしても……みんな動きが早い!

 さっちゃんもすごく速かったけど、それ以上の人がちらほら見える。

 特に、チーム戦をしてる人達の動きがおかしい。戦闘素人のわたしが見ても連携がすごいのがわかる。


「おっ、バージェスもいる。相変わらず良い動きしてるなー」


 ……バージェスさん? どこにいる人かな?


「アリアちゃん、危ないよ、と……」

「うひゃ!!」


 急に目の前が暗くなる。見ると男の人が空中キャッチされていた。

 ユリ姉さんが空中キャッチしてくれたから助かったけど、コレがぶつかってたら死んでたと思う。だって、熊みたいに大きい塊だよ。

 さっちゃんもビックリ顔してるし、見えないぐらいに速かったんだと思う。


「バージェス、訓練だからって油断したら駄目だよー。もっと周りを観察しないと」

「おお、ユリカさん! 久しぶり!!」


 ……この人がバージェスさん……。ユリ姉さんが褒めてたのに吹き飛ばされたんだ……。



「久しぶりー。相変わらず熱いねー。みんなも元気そうで良かったよ」

「おお! みんな変わらんぞ! ユリカさんに並ぶ為にいつも必死だ!」

「頑張ってねー、またみんなでチーム組みたいから」

「おお! ……ん、その子達は?」


 ……本日3度目の身体観察されたよ! つま先から頭のてっぺんまで!

 今度はさっちゃんまで巻き添え食ってるし!


「ふむ、やりますなぁ。愛弟子の訓練所見学、と言ったところですか」

「あははは、まだ弟子じゃないよ。いま勧誘中」

「ほう、まだ弟子ではないと。末恐ろしいですな!」


 ……ユリ姉さんも言ってたけど、熱いなー、この人。今までで最強に熱いよ。


「赤い子がアリアちゃんで、お姉ちゃんの弟子予定。こっちの子がサっちゃん、私の弟子予定」

「うらやましいっ!!」


 熱いよ……熱血漢ってこういう人のことを言うのかな……。


「紹介するねー。この熱苦しいのがバージェス。元チームメンバーで友達」

「今でも友達と言って頂けるとは光栄ですな!!」

「一緒に酒樽3本勝負した仲じゃない。あれ以来、友達でライバルだよー」


 ……酒樽3本勝負って何? ダメ人間の匂いがする……。


「ほら、アリアちゃん達も挨拶挨拶。熱苦しさに押されてたら、ここでは生きていけないぞー」

「あ、はい! えっと、アウレーリアです!!」

「ザナーシャです。よろしくお願いします」

「おう! バージェスだ!! よろしくな!!!」


 耳が痛い……。

 バージェスさんにつられて大きな声で挨拶したのが失敗だったみたい。

 火に油を注ぐって、きっとこういうことを言うんだろうな……。冷静なさっちゃんがうらやましいよ。


「バージェス、ごめんねー。もっと話をしていたいけど、この子達をブリギッテさんの所まで案内しないと駄目だからもう行くね。訓練の続き頑張って。次は油断して吹っ飛ばされないようにね。みんなにもよろしく伝えておいて」

「おう! 次は相手を吹っ飛ばしてやるわ! みなにも伝えておく、任せろ!」

「あははは、よろしくー」


 ……やっと、解放されたよ……。

 良い人何だろうけど……熱すぎる! 

 

「ごめんねー、シェスタもバージェスも元チームメンバーでね。懐かしくてつい話し込んじゃった。ゆっくり移動してれば丁度いい時間だと思ったけど、私のせいで余裕なくなったかな?」

「友達に久しぶりに会ったらそうなっちゃいますよ。わたしも、さっちゃんと3日会わなかったら1日は話し込んじゃうと思います」

「そっかー、そうだよねー、友達ってそういうもんだよねー……」


 ユリ姉さんがちょっとブルーになってる気がする。

 時々こういう表情するけど、なにか悲しい事でもあったのかな?

 ……だとしたら、あまり突っ込まない方がいいよね。


「ユリ姉さん、ブリギッテさんの来客って誰なんですか? ずいぶんとお話に時間がかかってるような気がするんですけど……。やっかいなクレーマーさんとかですか?」

「ああ、言ってなかった? うちの総長だよ」

「ほえ?」


 ……あ、また口癖が……。

 

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