17話 勧誘



「さて、……ユリカ」

「うーん、終わったー?」


 あ、ユリ姉さん復活してたんだ。ただの置物だったのに……。

 ユリ姉さんがうずくまったのって、きっとシズカさんが何かやったんだよね。

 さっきも見えない攻撃してたし。


「この二人は合格だ。後はユリカの好きにしていい」

「はーい」


 シズカさんはそれだけ言うと訓練所から出て行った。

 ……忙しいのかな?


「単刀直入に言うね。二人とも、うちに入門して門下生にならない?」

「入門して門下生……ですか?」

「そう。さっきお姉ちゃんが技名言ってたでしょ「桜花武神流」って。そこの門下生にならないかってこと」


 おおー、ユリ姉さんの構えを見て、○○流とかあったらカッコいいとか思ったけど、ホントにあるんだ。カッコいい。


「お姉ちゃんが合格を出したから特待生待遇にするよ。あ、特待生待遇と言っても修行内容はそんなに変わらないよ。一番は月謝免除とかかな。どう?」


 月謝免除は嬉しいかも。お金が掛からないならお母さんも許してくれそうだし。

 でも、バイト時間が削られるのは嫌だな……どうしよう。


「さっちゃん、どうする?」

「私はいいと思うよ、強くなれると思うし。でも、アリアちゃんが気にしてるのって、きっとバイトの事だよね」

「うん。お小遣い欲しいし……」


 ……強くはなりたい。今後、さっちゃんに笑っていてもらうためには戦闘談義が必須だと思ったから。

 ユリ姉さんとの試合も凄く真剣で、負けた時も凄く落ち込んでたからよっぽど戦闘が好きなんだと思う。

 一番大事なのはさっちゃんだけど、お小遣いも欲しい。うーん……。


「あーそっか、アリアちゃんは頻繁に民兵組織でバイトしてるんだっけ。お小遣い欲しいもんね、わかるよー」

「あ、はい。毎月のお小遣いが少ないので、バイトで穴埋めを……」

「バイトは気にしなくて大丈夫だと思うよ」

「え?」


 ……どういうこと? まさか、ブリギッテさんのお礼とお詫びって、かなりの大金? 期待しちゃっていいの? しちゃうよ。……うひひ……。


「先に言っちゃってもいいかな……アリアちゃんの表情が危ないし」

「アリアちゃん、よだれ……。ブリギッテさんのお礼で大金貰えるとか思ってるでしょ?」


 さっちゃんが口元を拭いてくれる。

 優しいなー。流石、わたしの一番の友達だよ。


「うん、言っちゃうか。ブリギッテさんのお礼って複数あってね、一つがこの訓練」

「え、訓練がお礼?」

「そう。先週だっけ? アリアちゃん、結構危ない事をしたって聞いたよ。そしてサっちゃんが助けたって」


 ……プールの帰り道で起きたあの事件のことだよね。

 さっちゃんやお母さんに言われて、わたしが相当危ない事してたってことに気づいた。


「そこで、今後のことも考えて、少しでも力をつけて欲しいって言うのがブリギッテさんの考え。力をつけて、相手との力量差が分かれば、無茶も多少は減るだろうってね」


 ……なるほど、戦闘慣れしてれば無茶しないってことだね。


「ブリギッテさん、相当アリアちゃん達のこと気に掛けてるよ。私達に個人稽古を頼んでくるのって結構珍しい事だから」

「へ?」

「私達、普段は本部勤めで首都にいるし、稽古をつけるのも門下生の一部だけだしね」

「あ、ユリ姉さん達って、やっぱり偉い人だったんですね」


 ……なんとなくそんな気はしてたよ。だって強すぎるもん。


「お姉ちゃんについては組織の3番目に偉い人だよ。私も近い立場かな」

「へー……」


 トントン。


 ……ん? さっちゃんが肘で小突いてきた。なに?


「アリアちゃん、よく分かってないでしょ?」

「え?」

「この大きな支部のトップがブリギッテさんだよ。アリアちゃん、ブリギッテさんのことを「会ってきた中で一番偉い人で雲の上の存在」って言ってたよね」

「うん、そうだね」


 だって、Bランク組織の支部長だよ。雲の上の存在だよね……ん?


「ユリ姉さん達は「本部」のお偉いさんだよ」


 んんー?


「雲の上の存在のもっと上の立場ってこと」

「あぁー! 凄く凄く偉い人だっ!」


 ブリギッテさんのこと、会ってきた中で一番偉い人で雲の上の存在だから失礼のないようにって思ってた。その人達の上にいるのがシズカさんやユリ姉さん。

 ……どちらが凄いかなんて、すぐに気づけ、わたし!


「サっちゃんもアリアちゃんも、話を続けていいかな?」

「はい!!」


 フランク過ぎるよ、ユリ姉さん!


「ははは、固くなってるよー、アリアちゃん。今まで通りでいいからねー。さて、さっきも言ったけど一つが訓練ね。もう一つが、その訓練でお姉ちゃんが合格を出した場合、うちへの入門許可とその時間の生活費の援助」

「生活費の援助?」

「そう。簡単に言うと、道場で修行したらお金が貰えます。普通のバイト代以上にね」

「入門します! いっぱい修行します!」


 凄い! 強くもなれてお金も貰える! 一石二鳥だよ!


「さっちゃんも入門しよう! 一緒に頑張ろうね!」

「……アリアちゃん、冷静になろう。待遇が良すぎて怪しいよ」

 

 待遇がいいって、良いことだよね? 怪しいって……。


「流石はサっちゃん! 鋭いねー」

「ほら」


 ……ん? なにかあるの?


「これはね、組織の先行投資だよ。サっちゃんなら、これだけで伝わるよね?」

「……はい」

「さっちゃん、どういうこと?」

「アリアちゃんは将来、どこに就職してどんな仕事をしたい?」

「え、まだ決めてないけど……」

「入門してお金を貰っちゃうと、就職先がこの組織、レクルシアに決定するよ」


 え、どうしてそんなことになるの? わたしはまだ小学4年生だよ。将来の就職先とか考えたことないよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る