16話 初めての魔術講座②



 次!? もう色々といっぱいいっぱいだよ!!


「何を驚く。お前は魔戦士なのだろう。次は武器だ。今日はこれを使う、魔剣だ」

「ほえ! 魔剣!?」


 魔剣って色々な能力が宿ってる剣だよね!

 一本で豪邸が建つって聞くよ! いいの!?


「今日は貸すだけだ。それに特殊能力も使わない。目的は魔力伝導率だ。魔剣の多くは魔力伝導率に優れていて初心者でも魔力を通しやすい。最初の感覚を掴むのに適している」


 ……はえー、これが魔剣かー。凄く高そう。

 傷つけたら弁償出来ないよ。丁寧に扱わないと……。


「持ったな。火の属性剣を作る。先程の「焔〈ホムラ〉」を剣に纏わせるイメージだ。見てろ」


 シズカさんがカタナを抜いた。

 凄く綺麗な刀身だった。基本的に銀色なんだけど、青空色で透明って感じに見える。ほんのり虹色に光ってるし、絶対に魔剣だよね。

 シズカさんを見てると、光のモヤが体の中心に発生した。

 モヤが中心から、肩、腕、手を伝って剣に流れて行くのが見える。

 あのモヤって魔力なのかな? 外から見たらあんな風に見えるんだ。


「属性剣・焔〈ホムラ〉」


 ボウ……


 剣から先程の焔と同じ火が上がった。

 ……ん? ちょっと違う? なんか無駄に炎がキラキラしてる気がする……。魔力、かな?


「見ての通りだ。自分の魔力を剣に流し込み、その魔力を使って魔術を発動して纏わせる。やってみろ」

「はい!」


 あの光のモヤ……魔力を体の中心から肩、腕、手と流して最後に剣。

 そして、それを使って発動、剣に纏わせる……。


「属性剣・焔〈ホムラ〉」


 ボウ……


 出来た!


「よし。次はそれを使ってそこの鎧を切れ」

「ほえ!?」

「剣技には期待していない。ただ、切れ」


 剣技はどうでもいいけど、この高そうな剣で鎧を切っちゃっていいの? 傷ついたり欠けたりしたら弁償できないよ。わたしの素人アタックでホントに大丈夫?


「あの、剣に傷がついたら弁償とか……」

「あの程度の鎧では魔剣に傷はつかない。仮に魔剣の腹で叩きつけても大丈夫だ。……切れ」


 ……もう、どうなっても知らないよ!


「あぁぁーーーーおりゃ!!」


 ブン!


 ……あれ、当たった感じがしなかったけど……まさか、外した?

 鎧を見ると半分に割れて燃えながらこっちに倒れてきた。


「うひゃあ!」


 ギリギリ回避成功! こんな火だるまな鎧、触ったら大火傷だったよ。

 ……あれ、そういえば熱さを感じない。こんなに近いのに……。もしかして、魔術の火って使った人には効かない?

 恐る恐る鎧の炎に手を近づけてみる。

 熱くない……。ビックリ1回分損したよ! 返して!

 鎧を睨みつけていたら、先程の魔術と同じく燃えながら崩れ落ちた。

 ……へー、魔術と同じ効果があるんだ。切れる分、こっちの方がお得な気がする。持続時間も長いよね? 鎧は崩れたけど剣は燃え続けてるし、これってすごく強いんじゃない? 焔を使い放題?


「そろそろ属性剣を戻せ。魔力が尽きて倒れるぞ」

「え! 倒れる!? ど、どうやって戻せば……」

「剣に送った魔力を自分に戻せ。そうだな……ストローで吸い上げるイメージだ」


 ストロー! チューチューチューチュー……火が消えて元に戻った。

 ……焦ったー。そっか、燃え続けていたのは魔力をずっと使っていたからなんだね。凄く強いと思ったけど思わぬ落とし穴だよ……。


「さて、これで今日は終わりだ。分かったか、魔術とは想像、イメージだ。どんな魔術でも自分の想像と魔力次第で顕現出来る。既存のものを真似るのが一番簡単なので同じような魔術が多いが、魔術の種類は無限大だ。限界を決めるな、常識に囚われるな、自分の想像力を信じて鍛え続けろ」

「はい!」

「よし。最後に魔術と武技の合わせ技を見せる。魔力の流れに注意して見るように。ザナーシャもしっかりと見ておくといい。私の流派の上級武技だ。三散花〈サザンカ〉も私の流派のものだから勉強になると思うぞ」


 そう言うと、シズカさん壁にあるボタンを押した。

 ……おお! 部屋の中にかかしがいっぱい出て来たよ! すごく便利! って……100体くらいあるんだけど、多すぎじゃない? なにするんだろう?


「では、よく見ておくように」


 シズカさんがかかし達の中央に立ち、鞘に入れたままのカタナの柄に手を触れて構えた。

 その瞬間、シズカさんから魔力があふれ出す。

 魔力が部屋の隅々まで渡り、沢山のピンクの花びらになって降ってきた。かかしに当たった花びらは消えて、その箇所がほんのりと光ってる。花びらが重なるほど光は強くなってるみたい……。

 すごく綺麗で幻想的な光景だった。


「桜花武神流・烈翔閃」


 キィン――――


 シズカさんは動いてないように見えるけど甲高い金属音だけ聞こえた。

 ……え、かかしはそのままだけど、これで終わり? 音が出るだけ? せっかくこんなにいっぱい用意したのに……?


「あの……」


 わたしの声が引き金だったのかな。

 声をかけた瞬間、全ての鎧がゆっくりと崩れて、最後には粉々になった。

 

「ほえ?」


 ……本日何度目の「ほえ」だろうか。多すぎ! と自分に突っ込みを入れたくなる。


「……さっちゃん、凄いね」

「うん、ちょっとしか見えなかったよ、本当に凄い。これが上級武技……」


 シズカさんが息を一回はいてから戻ってきた。


「どうだ、魔力の流れや魔術が分かったか。あれらの目的が一つでも分かれば及第点だな」

「えっと、あれってマーキングですか? 敵はここにいるぞ! 的な」

「取りあえずは及第点だな。最初に魔力が部屋全体に行き渡っただろう、それで感知した。他にはわからなかったか?」

「うーん、他ですか……。あ、じゃあ鎧の弱体化とかですか?」

「詳しく」

「花びらが重なった箇所の光が強くなったので、何か効果があるんだなと思ったんです。で、鎧にかける効果は何かと考えました。鎧=硬い、じゃあ柔らかくすれば切るのが楽になるんじゃないかと。花びらが重なるほど柔らかくなる……違いますか!」


 ……あれ、シズカさんがビックリ顔をしてる。今日初めての表情変化かも知れない。

 

「……正解だ、よくわかったな。やはり、アウレーリアには魔術の才能があるな」

「あ、ありがとうございます」

「さて、……ユリカ」

「うーん、終わったー?」


 あ、ユリ姉さん復活してたんだ。ただの置物だったのに……。


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