3話 天使達との邂逅
やっとお昼休みなった。1時間目の社会学が本当に苦痛だった。
もう「社会」と言う言葉を聞きたくない。社会人になんかならないで、ずっと子供のままでいたい……。
ぐ~……。
お腹がなった。お腹が空いてるから社会学を引きずってるんだ。給食を食べてスッキリ忘れよう。うん、そうしよう!
今日の献立は何かなー。昨日はデザートにプリンがついていて嬉しかった。余ったプリンの争奪じゃんけんに負けたのが今でも悔しい。今日もプリンが出れば良いのに……。
配膳係が準備を始めたので、匂いが辺りに充満し始めた。この匂いは……。
「カレーだぁ!!!!」
「アリアちゃん声が大きいよ」
「アリアちゃんが壊れた!」
皆から笑い声が上がった。
……失敗、失敗。落ち着け、わたし。社会学の反動で嬉しさが爆発してしまったみたい。
わたしの一番の大好物はカレーだ。カレーは至高の食べ物だと思う。
具材の組み合わせは無限大であり、見た目も味も無限大である。最初にレシピを考えた人は分からないけど、心の底から尊敬している。わたしの尊敬する人ランキング1位だ。
お母さんが作ってくれる特製激甘カレーが1番好きだけど、給食で出る独特な味のカレーも大好きだ。このカレーのレシピを知りたい。そうしたらお母さんに作って貰えるのに……。
特別美味しい訳ではないけど、特製激甘カレーを食べた後に無性に食べたくなる味なのだ。
う~ん……よし、給食カレーの事を今後は「デザートカレー」と呼ぼう!
「アリアちゃん、列に並ばないと食べられないよ」
「あ、そうだね。ありがとう」
列に並ぶのを忘れるほど浮かれてしまった。配膳プレートを持って列に並ぶ。
……さて、デザートカレーの相棒は何だろう? カツ? ハンバーグ? 目玉焼き?
カレーは相棒の存在により、その姿を天使にも悪魔にも変える。前に特製激甘カレーに天ぷら茄子を乗せられた時は悪魔王が出てきたと思った。
わたしは茄子が大嫌いだ。あれはわたしの天敵だ。天ぷら茄子をどけても茄子の激マズ臭は消えなかった。
せっかくのカレーをお父さんに回し、わたしはよそい直すはめになってしまった。
……あの時は悔しかった。でも、今日は違うと信じたい。デザートカレーの相棒で茄子が出てきた事はない。ドキドキしながら順番を待つ……。
「はい、アリアちゃん」
わたしの順番が回ってきたみたい。今まで目を閉じて、なるべく周りを見ないようにしていた。せっかくのカレーイベント、相棒の正体はギリギリまで隠して目を開けた瞬間の驚きを楽しみたかった。
デザートカレーがプレートに置かれ、次はいよいよ相棒の登場である。
目を開けた瞬間、惣菜ケースの中で2体の天使が手招きしていた……。カツとハンバーグ、天使の正体だ。
……え、どう言う事?
「どうしたのアリアちゃん?」
「え、う、あ、え……」
天使2体の同時降臨……私の10年の人生で初めての出来事だ。
まさか、デザートカレーに特製激甘カレーでも起きなかった奇跡が起きるとは!
……ゴク。
思わず唾を飲み、わたしはプレートに乗った状態のデザートカレーを差し出す。
さあ! デザートカレーに乗せて! 天国が完成するよ!
「どっちか選べるんだよ。どっちにする?」
「ほえ?」
わたしの時間が一瞬停止したかに思えた。
どちらかを選ぶ? 2体の天使は両方手招きしている。選択の余地はない。わたしは思わず禁句を口にしてしまった。
「……両方、欲しい」
今度は相手の時間が停止したようだ。
だって、わたしには選べない。両方欲しいから……。
「えっと……、じゃあこっちを乗せるね」
デザートカレーにカツが乗せられ、残された天使は後ろを向いてヒックヒックと泣いている。
……こんな非情が許されて良いのだろうか?
デザートカレーに乗った天使も、泣きながら残された天使に手を伸ばしてる。
早く手を取って! こっちに来て! と訴えている。
わたしに出来る事は何だろう……この状態で何が出来るんだろう……。社会学で使わなかった頭は、今この瞬間の為だったのかもしれない。
……考えるんだわたし! 頭をフル回転して2体の天使を幸せにするんだ!
「アリアちゃん、次はサラダだよ」
わたしのプレートにサラダが乗せられた。
「はい、牛乳」
わたしのプレートに牛乳が乗せられてプレートは完成してしまった。
残された天使からはだいぶ離されてしまい、天使の姿はもう見えない。
……もう一度、列に並べば残された天使を救えるのだろうか? わたしの足は自然と列の方へ向く。
「アリアちゃん、こっちで一緒に食べよう!」
「……うん」
ごめんなさい、ハンバーグ天使。あなたの分までしっかりとカツ天使を噛み締めるよ。次の機会があれば、必ずあなた達をハッピーエンドにしてあげる!
その決意を胸に、わたしはデザートカツカレーを一口食べた……。
「美味しい! カツカレーって最高だよね!」
「アリアちゃんって、本当にカレーが大好きだよね」
「うん!」
「私、こんなに食べられないからハンバーグあげるよ」
「え?」
デザートカレーの上では2体の天使が泣きながら抱き合っていた。
Happy end
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