2話 ザナーシャ



(アリアちゃんのクラス、一時間目は社会学だったよね……寝てないと良いけど)


 私の名前はザナーシャ。アリアちゃんより2歳年上の幼馴染。

 年下と言う意識はなく、完全に同世代の友達と言う感覚だ。

 でも、ついついお姉さん風を吹かしてしまう。

 アリアちゃんは物事を深く考えない。考えるより先に行動に出るタイプだ。

 そこがアリアちゃんの長所であり短所だと思っている。

 その性格が災いしてか、度々厄介事に巻き込まれる。その度に私は考えた。

 どうすればアリアちゃんが傷付かない様に出来るのか。どうすればアリアちゃんが笑っていられるのか。

 気が付いた時にはお節介焼きのお姉さんみたいになっていた……


「………シャ、答えろ」


(アリアちゃんの為なら、私は……)


「ザナーシャ!」

「!?」先生に大きめの声で呼ばれて気が付いた。

「1時間目から呆けるなよ、ザナーシャ。寝不足か」


(先生に質問を当てられていたようだ。いけない……授業に集中しなきゃ)


 起立して返答する「すいません、もう一度、質問をお願いします」

 今は生物学の授業中。今日から人類の進化についての項目だ。


「次は聞き逃すなよ。今日から進化の授業だが、その前に人類の復習だ。全ての種族を答えてみろ」

「原人、獣人、海人、翼人です」


 私は獣人の猫系。アリアちゃんは原人だ。


「よし、ザナーシャは着席していいぞ。次は、モーリス」

「はい!」


 モーリス……成績上位者で私をライバル視してくる男子生徒だ。彼は獣人の犬系。

 超がつく真面目君で、見た目も真面目一直線。

 普段は着用義務の無い学校指定制服を、毎日着崩さずにバッチリ決めている。

 黒い髪は七三分けされており、大きめの丸眼鏡を掛けている。


「モーリス。原人、獣人の特徴を答えろ」

「原人は創造力に長けていますが、身体能力、魔力共に他種族に比べて劣ります。獣人は身体能力全般が高く、五感が長けた者が多い種族です」

「……モーリスは着席」

「はい!」


 今の回答はどうなんだろうと思う。

 原人は確かに身体能力や魔力が低い者が多いが、「劣ります」って言って良いのかな?

 アリアちゃんは原人だけど魔力は強い方だ。

 このクラスには居ないけど、他のクラスには身体能力や魔力が強い原人の生徒が何人かいる。


「モーリス、今の回答は50点だな。原人の能力について「劣ります」と見下すな。他のクラスには、他種族を上回る身体能力や魔力の強い原人の生徒も複数居る。今まで何度も会っているはずだ。劣ります、ではなく、低い者が多いです、だ」

「……はい、教材を見直して一から勉強します」


 モーリスがちょっと落ち込んでる……と思ったのも一瞬だった。

 キラーンと擬音が聞こえそうな程眼鏡を光らせて、物凄い勢いで教科書とノートを捲って見直してる。

 さすがモーリスだ。立ち直りの早さと向上心は素直に感心する。


「次は海人についてだ。メルネス、答えろ」

「はい」


 海人のメルネス。青髪青目ショートヘアで前髪をさっと横に流したイケメン君。

 美少年と言うより美青年で女子生徒の人気が非常に高い。同い年とは思えない。


「海人。水を操る力を持ち、水中でも自由に活動ができます。魔力が非常に強い者が多いです」

「よし、メルネスは着席」

「はい」


 メルネスは一礼して座る。仕草の一つ一つが執事を思わせる。

 本当に12歳?「実は20歳です。以前は執事をしてました」と言われても納得する。

 女子の一部が顔を赤くして見つめてる。メルネスは微笑み返しで相手を沸騰させている。

 あの女子はこの後の授業は聞こえないだろうな。


「最後は翼人だ。フェイルーン、答えろ」

「はい」


 最後はフェイルーンか。翼人で学年トップクラスの美少女だ。

 背中に大きな翼が生えていて、足は猛禽類の足の形をしている為に裸足だ。手は原人と変わらない。

 金髪で一部にカールがかかったロングヘアー、金色の瞳は鷹の目に似ている。

 いつも自身に満ちていて勝ち気な性格。

 正直ちょっと苦手なタイプだ。


「翼人は翼を持ち……、空を自由に翔ける力を持つ者……。魔力が強い者が多いです……」

「よし、フェイルーンは着席」


 フェイルーンの言葉の間が長かった様な気がする。

 恐らくいつもの「ですわ」口調を堪えていたのだろう。

 フェイルーンは言葉の最後に「~ですわ」と付ける癖がある。以前はそんな口癖は無かった。

 ある時、とある恋愛物語の本を呼んだ後から急に言い出した。

 高貴な女性が付けている語尾らしい。

 感動した登場人物の容姿や性格が自分に似ているとかで、「運命の出会いですわ!」とか言っていた。


「人類の各種族のおさらいはこれで終わりだ。みんな、しっかり覚えているようで安心した。では、進化の授業を進めようと思う。今日は原人の進化についてだ」


 原人……アリアちゃんの事だ。

 しっかりと勉強して、アリアちゃんの役に立てるようにしよう。


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