第34話 作業を毒す

 所変わって洞窟にいる隊員達は平和な時間を過ごしていた。ちなみにロゼッタとマニエラが洗濯、フラウとエレナが装備の点検、ジャニスとリーチェが調理を担当している。


 ――ロゼッタとマニエラ、のんびり洗濯チーム。


 この世界には魔力をエネルギーとして稼働する魔動製品という地球でいう電化製品が存在していて、洗濯機や冷蔵庫、ラジオなどの普及率も非常に高い。そのため生活水準は現代に及ばないものの近代化が進んでいると言える。

 とはいえティルぴは森暮らしでサバイバル生活を送っているし、隊員達も洗濯機を持ち歩く訳にはいかないため手洗いが基本である。また女性とはいえ軍人である彼女達はこまめに洗濯が出来ない環境にも慣れており、衣類を全て洗うという行動は基本的に行わない。上着は消臭剤やブラシで手入れし、インナーのみ軍支給の石鹸で洗うスタイルが好む好まざるとに関わらず一般的である。


「それにしてもこの下着本当に凄いわ!多少締め付け感はあるけど、体が軽くなった気さえするわね!」

「ですよねぇ! 貧にゅ……スマートなロゼッタにもこの良さがわかりますかぁ!えっと……スレンダーでミニマムなナッシングロゼッタでも違いが分かるなんて驚きですぅ!」

「ほぉ……色んな言葉で私の胸を表現してくれて感謝するわマニエラ。お礼にその邪魔そうな肉団子捨てて来てあげる!さっさと寄越しなさいッ!!」

「ちょっ、痛いからやめてくださいよぉ!!」


 そうは言っても女性として臭いと思われる事は精神的苦痛である。現在、女性しかいない事をいいことに着ていた全ての服を洗濯して全員ナクアが作った新しい下着姿で活動している。ちなみに異世界にも1日1回の風呂文化はきちんと存在していて、現在のような用意できない場合は水浴びや、お湯で濡らしたタオルで拭くなどで対応していた。


「もぉ! はやく洗濯終わらせましょうよぉ!また皆に怒られますよぉ! はやく干してきて下さい!」

「チッ……わかったわよ。あとで覚えておきなさい。」


 また洗った衣服はティルぴに張ってもらった蜘蛛糸に吊るして干し、外套や靴、リュックなどの乾きにくいものは魔法で乾燥させていた。一応、魔法で洗濯や体を洗う方法もあるがムラも多く、洗った箇所も大して綺麗にならず、本当に気休め程度のため使う者は少ない。


 のんびりと洗濯に勤しむ2人は下着姿とはいえ比較的布地が多く、白一色なので違和感はあるがいかがわしい感じはそこまでなかった。

 ナクアが作成した隊員用の下着は下は前に説明した通りボクサータイプで、上は動き易いスポブラで統一されている。ティルぴのブラトップをベースにストレッチ素材の固定力を高めて揺れを防ぎ、肩のストラップを太めに変えて背中は蜘蛛脚がないので動き易いバッククロスに変更している。


「でもこうやって比べると私達が普段着てた服って機能的にかなり微妙よね。」

「そうですねぇ出来るなら全身ナクアちゃんに作って貰いたいですぅ!」

「それはさすがに時間的にも――」

「ねぇ……全員じゃなくて2人分だけなら可能だと思いませんかロゼッタ?(小声)」

「そ、それってッ!!……ふふ、あんた中々の悪ね。」


「「ふふふふふ」」


 ――フラウとエレナ、テキパキ装備点検チーム。


 この世界の武器において地球の軍で一般的なメインアームの銃火器はそもそも発明されていない。それは魔力という便利すぎる代物が人類から基礎となる物理学を排除してしまったからだ。魔力によって何となくで上手くいく世界は便利な反面、科学者から途中式を奪い、結論のみで成立する非論理的な技術体系を構築している。

 王国軍の武器は魔法補助加工した銃の様な持ち手の杖型ナイフと同じく魔法補助加工したコンバットグローブの2点が標準装備といえる。ナイフは近距離はもちろん、魔法杖の代わりにもなり遠距離攻撃の精度を上げる。グローブは魔法と格闘術を融合させた中近距離格闘魔法術で用いられる。基本的にこの2つを装備してオールレンジでの戦闘を行う王国魔闘術の訓練を隊員達は受けていた。


「やはりジャニスのナイフは刃こぼれしてるな。歪みもあるし、これだと魔法照準がかなりズレてる。……それになんかネチョネチョしてて、とにかく汚い。」

「はぁ……ジャニスさんは整備とかしなそうですよね……コレ研ぎ石で直せますか?」

「まあ応急処置だろうな。元々アイツは遠距離攻撃しないし、ナイフとして使えれば良いだろ。作業優先度はBって所だな。」

「了解です。……近接メインならロングシースの数が足りないのでジャニスさんは無しでもいいですか?」

「そうだな。代わりにロゼッタに持たせておけ。」


 洗濯チームとは違いフラウとエレナは真面目なのでテキパキと作業している。もちろん服装は下着姿で中々にシュールな絵面だが真剣に働いている。現在2人は装備品に優先度を付けて点検と補修作業をしていた。武器や薬品、洗濯を終えた靴やカバンなどもこちらで1度確認し、適材適所に均等に配分している。

 ちなみにロングシースはナイフの刃よりも長い折りたたみ式の鞘で装着すると魔法射程が伸び、付属のサイトで精度も上がるパッと見はライフルの様な見た目のカスタムパーツである。


「……あの作業と関係ないのですが、フラウさんはこの下着どう思いますか?」

「どうって……あーなるほど。ふふ、勘違いかと思ったが……やはりこれを着ると魔力が上がっているんだな精霊の巫女!」

「……え?? そうなんですか??」

「あれ?? ち、違った!??」

「……いや、私は可愛いし、楽だなって思って……なんかごめんなさい。私"なり損ない"でそういうのわかんなくて。あ、でも確かに調子がいい気がします!」

「……だ、だよな!! なんか調子いいよな!!」

「は、はい! そう言われると本当に魔力上がってる気がします!」


 ちなみにだが魔力はまったく上がっていない。アラクネが作った稀少性と動き易い機能性から強くなったと錯覚しているだけ。例えるならプロ野球選手と同じスパイク買ってもらってイキってる中学生と同じだった。


 ――ジャニスとリーチェのオラオラ調理チーム


 この世界の料理レベルは現代とそこまで違いは無い。輸出入の流通網も整っているため、米や魚、フルーツなど季節に関係なく売られている。またジャニスのスパイスがほぼカレー粉だった事でも分かるように似た料理が多く存在している。


「おい、ちょっと火強えよ! 気をつけろ!!」

「す、すみません!!」

「――よし、黒狼のジャーキーはあと半日で完成だな!その間に今日の飯作るぞ! リーチェは魚料理だと何がいい?」

「えっと……ボクは……その何でもいいです!」

「はぁ……いいかリーチェ。何でもいいって言うのは優しさの様で実際はただの甘えなんだよ!!この甘えん坊さんがッ!!」

「――痛っ!!」


 燻製という調理方法はこちらの世界にもある。作り方は昨日スパイスで下味をつけておいた肉を魔法で乾燥させ、ティルぴに拾ってきてもらった適当な枯れ枝や草で燻すだけだ。当然スモークチップなどないので香りは弱いし、洗練さに欠けるが手軽な保存食としては有能といえる。


 また見て通り基本的にジャニスが調理の主体となって、リーチェがその手伝いという形で作業している。そしてジャニスは口は悪いし、たまに手を出す古臭い料理人みたいなタイプだが2人の相性は悪くなかった。いや、むしろ良すぎた。


「なぁリーチェ。お前はあの日からもう自由なんだよ。今更、他人に自分の選択を委ねてんじゃねーよ。これからは自分の好きなモノにもっと自信を持て。ほら、言ってみ?」

「うぅ、ジャニスさん……ボクが間違ってました!! 昨日食べた魚のスープがいいです!!」

「ふふ、あのスープ好きだなお前。ほら、作り方教えてやるからこっち来いよ!」

「はい、ジャニスさん!!」


 色々あって自己肯定感が低いリーチェにとって、自信過剰気味のオラオラ系ジャニスの言葉は無駄に響きまくっている。そして時折見せるジャニスの女性らしい優しさに完全にノックアウトされていた。こういう所が人望のないロゼッタと「おい、2度目はないわよ。」……人それぞれ良さはある。洞窟は至って平和だった。

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