第27話 お祝いを毒す

 ナクアが作った下着はパッと見はブラジャーというより丈の短いタンクトップ、所謂ブラトップだった。ティルぴは余程嬉しいのか今度は恥ずかしがる素振りもなく、あんなに必死で隠していたパンツも勢い余ってお披露目している。


「……えっと、に、似合ってますね」

「……あ、うん、そうだな。」


「そうっしょ? これ着た感じもやばいんだよね!……ていうか、みんなノリ悪くない? あの焼き魚まだ残ってんの?」

「「その話はやめてください!」」


 まだギャグパートに脳が切り替わっていない隊員達は下着への反応に困っていた。きっとタイミングが違えば大歓声を浴びていたであろうティルぴは想像と違うリアクションに不服そうにしている。一方製作者のナクアは余裕に満ちた笑みで様子を伺っていた。


(ふふ、やっぱり異世界人には理解されないか。まあこういう反応は前世で慣れてるけどね。いつだって時代が、いや世界が私に追いついてないだけ……まあ10%くらいしか満足してないけど。)


 無駄に自意識だけ高いナクアは大好きなティルぴ以外ではそう簡単に動じない。自分のセンスを決して最上位から落とす事はない。

 とはいえ下着に関してはナクアも普通に自分に合った一般的なものを着用していたし、パンツでも触れたがまずもって技術的にオリジナリティを出すレベルに達していなかった。そのため出来として一般受けする割と普通な下着になっている。


「……これは!? ちょっ、ちょっと近くで見せて貰えますか?? いいですか?? いいですよね!?」

「えっマニエラ……あなた一体な――」

「シッ!!うるさい、静かにしてッ!!! 近くで見てもいいですよねティルぴさん?」

「怖ッ……すごい早口だし……。」

「あーしは別にいいけど。ていうか普通に話してて毒www」


 しかし、戸惑う隊員内で1人だけ明らかに違う反応する者が存在していた。その者は大きな胸を弾ませてティルぴに近づくといつものホンワカした空気とは違い鋭い目付きで下着を吟味し始めた。


「ワイヤーも入ってないのに形が崩れないなんて……この生地が凄いの?……ティルぴさん、下着を少し触っていいですか?? 出来れば上下どっちも!!」

「はあ? そマ? ガチで言ってんの?」

「ガチです!! こんな凄い下着見たことありません!!」

「な、ちょっとマニエラ!? それはいくら何でもティルぴさんだって流石に――」

「ま、別にいいんだけど。ていうかウェーイ! わかってんじゃん!! あんたの審美眼エグちwww」

「……あっ、いいんだ。触っても。」


 ナクアの作ったブラトップは、まず柔らかく伸縮性の高いストレッチ生地を網糸布で再現。それで胸全体を包みそこそこの補整力と着心地を両立、カップに関しても見よう見真似だが下から胸を支える様に実際の型を利用しつつ、中々の出来に仕上がっている。

 また蜘蛛脚に被らない様に背中を通すベルトを下げ、それに合わせて正面の生地を下に伸ばし、丈感はくびれの少し上になっていた。

 更にパンツと同じ蜘蛛の巣刺繍入りのシアー生地を重ねて統一感を出しつつ、裾や谷間部分に透け感を持たせてアクセントにし、シンプルながら可愛くまとまっていた。


 マニエラが真剣な顔で下着を引っ張り、次の瞬間には目と口をかっぴらいてワナワナと震え始める。


「こ、このサラッとした肌触りに軽さ、そして何よりこの伸びッ……信じられない……これに比べれば、私達が今まで着ていた下着は鎧。カチカチで動きを阻害するだけが取り柄のゴミクソ鎧だわ。着けてる奴の気が知れない。頭が沸いてるわ。」

「んだよそれ、つーかお前はマジで中に鎧着てるだろ!お願いだからキャラを取り戻して!」


 この世界のブラジャーはワイヤーの入った物が一般的で運動に適したものはジャンルとして存在していない。現代のナイロンやポリウレタンなどの伸縮素材は勿論ないため、街の女性で動く仕事をしている者は見栄えは悪いがワイヤーのない厚手の肌着を重ねたり、包帯を巻いて揺れを防いで誤魔化していた。

 そんな中、国に使える軍人で巨乳のマニエラは揺れ防止に特注の薄い胸甲を中に着るという中々の強硬手段を取っていた。当然、重いし硬いし痛いしで最悪の着け心地を実現している。


「おちちぴんく、すぽぶらとかないの?」

「……えっ、それ私に聞いてますか?す、すぽぶら?? もしかしてティルぴさんの下着はすぽぶらって言うんですか!!?」

「えっ……あー、まあ、そんなかんじ」


 所謂現代の運動用のスポーツブラジャーと呼ばれる伸縮素材を使い、揺れを防ぐため締め付けを強くし、運動を前提に作り上げた下着は地球においても1970年代頃から1つのジャンルとして認識されるようになった。

 そして、正確に言えばナクアの作ったブラトップはスポブラに形こそ似てはいるが、背面からも分かるように全く異なる目的で作られている。しかし、それでも異世界の下着レベルからすれば完全に常識を突き抜けた性能をしていた。


「ふふん、着たらもっとヤバイからコレ!!」

「そんなんですね!!本当に凄いです!! ……良いなぁこの下着……。」

「……あっ! そういえば、りーちぇとつくったぱんつならあるよ?」

「パン、パン、パパ、パンツッ!!!欲ちぃ!!!」

「ぱんぱんパパパンツwww」


 興奮するマニエラを無視してナクアはティルぴのパンツ作りの時に作成していた隊員用パンツ5枚をリーチェに手渡す。ちなみにパンツはティルぴの試着時に岩に置いて、今の今まで完全に忘れていた。


「これ、りーちぇがみんなにわたして!」

「えっ、どうしてボクなの?」

「もうわすれたの? "しゃざいはカタチで"でしょ? さっきは、ぱんつみてごめんね。」

「ナクアちゃん……。」


 安心して欲しい。ナクアにも人の血はかよっている。今の見た目が幼児でも精神年齢は高校生。10歳前後の子供のパンツを半ば無理矢理見て、何も感じない程に彼女は地雷ではない。それにお詫びがリーチェのパンツではなく、謝罪の仕方に悩んでいた隊員のパンツにしたのもナクアなりの気遣いだった。

 ちなみにパンツは動きの多い隊員を意識して股上の浅いボクサータイプ。生地はブラトップにも使用していたストレッチ素材を使い、応用してウエストゴムも再現。さらに両サイドを蜘蛛の巣レース風シアー生地にして単調さを軽減させている。


「あの、これ……この度は申しわ――」

「リーチェありがとう!! あなたが仲間になってくれて良かった!!」

「おお!!でかしたぞリーチェ!」

「ふふふ、これで私もモテモテだわ! リーチェ、ナイスよ!!」

「……はやく履きたい。」

「お手柄だなリーチェ。」

「……ッはい!ちょ、痛いですよジャニスさん!」


 ナクアは知らなかったがもう彼女達には謝罪の品も言葉も必要はなかった。楽しそうに揉みくちゃにされるリーチェを少し首を傾げて眺めたナクアは、暫くするとくすりと笑って甘える様にティルぴに抱き着いた。


「よしよし、ナーちゃん寂しくなっちゃったか?」

「うん。……ママ、みんなのことちゃんとおくってあげてね。」

「当たり前じゃん! ついでに黒幕ボコしてやっから!あーしに任せとけっての! ナーちゃんはちょっとお留守――」

「ヤッ!!ナーちゃんもぜったいいくよ!むぅー」

「だよねwww まあ1人にするよりマシかwww」

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