第26話 下着作りを毒す

 時は遡り、フラウ達が今後の進退について真剣に悩む裏ではナクアとティルぴがひたすらにしょーもない事を繰り広げていた。


「ここがこうだから、ふむふむ。じつにおもしろい!」

「いやマジで何言ってのwww あとなんかムズムズするし痒いからうりうりすんのやめてwww ……ていうかコレならあーしが自分でやれば良くね? 」

「えっ、まあ、それは……うん……あれだよね、あれ……い、いいじゃん、そこはさ。」

「コイツ言い訳下手かwww とにかくはやく測ってくんない?」


 そこにはナクアがティルぴのお腹にへばり付き必死に手作りメジャーで胸の下、所謂アンダーバストを測っている間抜けな光景が広がっていた。そしてティルぴのご指摘通り、アンダーバストなら自分で測っても数字のズレは少ない。

 では何故こんな間抜けな行動を取っているかといえば、単純にくっつきたかったからだった。ナクアはまだ理由がないのに甘える事を少し恥ずかしがっている。特に触れ合ったりする事に対して思春期全開の反応を示す。もし計測を理由にくっつきたかっただけなんてティルぴに知られようものなら顔を真っ赤にさせて黙りこくる面倒くさいタイプだった。


 そんなナクアは思惑がバレないように真面目そうな顔で計測のフリをしながらも心中は穏やかではない。大好きな人の体温を直に感じ、完全にトリップ1歩手前だった。


(ひゃああああ!! マミーのお腹ひんやりスベスベで気持ちいい!! そして後頭部に感じる圧倒的お乳感!!……えっていうかマジでヤバイわ。ここに就職したい。――うりうりうりぃ! ママ大好きぃ!)


 しかしお腹にへばりついて一向に計測する気配のないナクアを不審に思ったティルぴが思いがけず確信に迫る。


「……ていうかさ、もしかしてくっつきたいだけじゃないの? うぇーい、ナーちゃんは甘えん坊さんかぁwww 」

「……ハ?! チガウンダケド…………。」

「声ちっさwww えっなんかめちゃくちゃ顔赤くない!? 大丈夫?? ちょっとこっち向いてみて!」

「……ハ?! ダイジョウブダシ………。」

「……まさか……甘えん坊バレて、ナーちゃんガチ照れしてんの?」

「――ッ!!」

「マ? ヤバっめっちゃ可愛いんだけど、顔赤過ぎマジウケるwwwwww 」


 教室でちょっとエッチな少年漫画を読んでたら、隣のギャルに絡まれた男子中学生みたいな反応をするナクア。前世では容姿や趣味でからかわれる事も少なかったナクアだが、こういうタイプは初めての経験で完全に挙動がおかしい。そしてティルぴもアラクネの限定されたコミュニティしか知らず、決して対人関係が上手い訳では無い。そんな不器用な2人が絡んだ結果――


「もうヤッ!!きらいぃ!!」

「ナーちゃんマジごめんって……そんな怒らないでよ。……ていうかくっついて拗ねるの可愛い過ぎん?」


 ティルぴが弄りすぎてお腹にくっついたままの状態でナクアが拗ねた。

 そして赤くなった顔を見られたくないのかティルぴのお腹に顔を埋めて時折うりうりしている。言葉と行動がチグハグだが、この論理が破綻した面倒くさい感じが地雷女の真骨頂かもしれない。

 しかしティルぴもナクアの喜ぶポイントを押さえている。


「そんな事いう子はぁ……こうだ! うりうりうりうりぃwww」

「きゃああああwww うりうりしないでwww」


 ナクアの頭を揉みくちゃにする様に強めに触る技、通称うりうりをすると一瞬で機嫌が戻った。実は現在、2人の中でこのティルぴがうりうりするまで流れがパータン化しつつある。大体はナクアが変な事言う➝うりうりする➝なんか有耶無耶になる、というかなりキツめの内輪ノリだが、その効果はご覧の通りで幼児化した甘えん坊には抜群だった。


「ふぅ……はい、じゃあさっさとバストサイズってやつ測ってナーちゃん。」

「なんか、せなかのくもあしジャマでようわからん! むりッ!」

「ナーちゃんのそういう所割と好きwww」


 このタイミングで人と違い、背中の蜘蛛脚が邪魔で正確に測ることが難しいという根本的な問題が露呈する。そしてそうなると新たな問題も浮き彫りになった。


(ていうか背中を一周するホックタイプのブラは全部無理じゃね? となるとヌーブラとか……まあ貼り付けるのは難しくないけど、やっぱり肩紐とかアンダーストラップがないと垂れ予防としての効力低そうだよね。)


 ヌーブラは肩紐やアンダーベルトがない医療用シリコンを使った胸に直接貼り付けるブラの総称で、服を選ばず、ストラップの窮屈さもない盛れる下着として定番化している。しかし垂れ予防としてみると上に持ち上げる力と下から支える力はどうしても構造的に弱い。


「……。」

「ナーちゃん? 急に黙ってどうかしたの?」

「……。」

「マジで何?? あーしの背中なんか変??」


 ナクアは構想を練り直しながら、ティルぴの背中側に回ると無言で観察を始めた。

 蜘蛛脚は肩甲骨の下辺り、腰のくびれ辺り、腰骨の少し上辺りと上・中・下段で生えている。この中で上段が今回ブラジャーのベルト位置と被っていた。脚の付け根部分には左右を繋ぐ形で小さな盛り上がりがあり、脚が動くと連動して凹んだり膨らんだりしている。


(へえー、じっくり見るとこうなってるんだ! なんか真ん中ピコピコ動いてて可愛いッ!!……じゃなくてブラだよね、うーん……でも肩甲骨とくびれの間にベルト通せばいけそうじゃん! バックオープンタイプみたいな感じで! ていうか、それならいっそブラトップみたいにするのもアリじゃね? ホルターネックとか似合いそう!サイズは……ストレッチ素材にすれば大丈夫かな。でも一応型でも取るか。)


 ナクアが網糸布をティルぴの胸に飛ばし、ヌーブラそっくりな布をピタッと貼り付けるとそのまま硬化させて、ほんの一瞬で型どりを終えた。固まったヌーブラがコロンと地面に落ち、何とも言えない顔でティルぴが呟いた。


「マジで測るやり取り要らねぇじゃん。」

「それな。」


 ――そうして悩んだ割には制作時間10分程でティルぴの下着が完成した。


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