第21話 自らを毒す
無から有を生み出す行為は神にのみ与えられた力だ。それは物理法則を無視する異世界の魔力、魔法においても例外ではない。魔法を使用すれば体内の魔力は減るし、当然だが蜘蛛糸も無限に出せるものでは無い。そしてそれはナクアとて例外ではなく、ジョリーンの夢空間と違って現実での魔糸の使用は恐ろしい負荷を幼児の肉体に与えていた。
「も、もうむり……さいごに……おちち……のみたかった……」ガクッ
「いやあああ!!ナクアちゃあああん!!」
戯言を吐きながら仰向けに倒れたナクアにリーチェが寄り添う。ナクアの手には白い花……ではなくリーチェの替えのパンツとほか数枚のパンツがそっと握られていた。悲鳴を聞きつけまず最初に現れたのはナクアに肝を冷やされ続ける不憫なギャルママ ティルぴだった。
「ど、どうしたの!? またあーしの子変な事した??」
「変な事っていうか、いや変な事はしてたんですけど急に倒れて……!!」
「うそ……ナクアッ!!おい、ナクアッ!! ちょっとどうしよ……ヤバいかも。……影武者、ナクアになんかしたの!!」
「ボ、ボク何もしてない!! 本当なんだ!! 殺さないで!!」
ピクリとも反応しないナクアにティルぴの顔からみるみる血の気が引いていく。そしてリーチェに詰め寄るが、ナクアの自滅に巻き込まれただけの少女はオロオロして今にも泣き出しそうだ。
「ナクアちゃんがどうかしたのか!? ――ッ!!おい、影武者!! テメエ!!」
「ちょっと大丈夫なの!!……これはパンツ?……影武者あんた何したの!?」
「ボ、ボクは……」
「騒がしいわね……――嘘ッ!! ……パンツで何をしたの!! 影武者答えなさい!!」
「……ナクアちゃん? ――そんなッひどい!……来世で悔い改めろ変態。」
「ほ、本当に知らないんだ……うぅ……ぅぅうわあああああん!!じら゛な゛い゛の゛に゛ぃぃ!!」
勿論リーチェは彼女達を騙し罠にはめるという重大な罪を犯している。しかし履いているパンツを観察され、あまつさえ替えのパンツを奪われ、訳も分からずパンツ作りに巻き込まれた挙句、幼児に自分のパンツを握らせる変態殺人犯の汚名まで背負うのは余りにも可哀想である。
泣きながら無実を訴えるリーチェ。しかし冤罪は確定しようとしていた時、ようやくある意味1番罪深い女 マニエラが目を覚ました。
「ふわぁ……うるさいですねぇ。どうかしたんですか?」
「ちょっとマニエラ!! あんた子守りもろくに出来ないの!!」
「ロゼッタ落ち着け! 今はとにかくナクアちゃんの容態だ! マニエラはやく診察しろ!」
「ちょっとなんですかぁ? 大きい声出さないで下さいよ。」
割と見た目通りではあるがマニエラは治癒系魔法が得意で隊員内では救護をメインにしている。皆に急かされ寝起きの頭でよく分からずナクアを診察するマニエラ。
「うーん……まあ大丈夫ですね!ただの魔力切れみたいです。でもでも幼児なので割と危険ですよ!直ぐに治癒しますけどぉーどうしてこんな状態まで放置したんですかぁ? 皆さん大人なんだからしっかりして下さいよ!」
「それはこっちのセリフじゃああ!!このデカ乳女ああ!!その天然乳ポンプから脳みそに血を送れやッ!!おりゃおりゃおりゃああ!!!」
「――痛だだだだだだ!!ちょっと何するんですかぁ!!おっぱい押し込まないで下さい!!」
ジャニスがマニエラの胸をふいごの様に何度も押し込み激高する一方でティルぴは苦笑いしながら娘の一応の無事に胸を撫で下ろした。
魔力切れはこの世界において珍しい症例ではない。感覚としては貧血に近く、全身の力が抜けて寒気、目眩、立ちくらみ、最悪はナクアみたいに気絶する。ただ幼い子供やお年寄りが発症すると他の病や怪我を誘発するため迅速な対応が求められている。
魔力を回復する方法は大きく分けて2つある。1つは食べ物や大気中の魔力を取り込んでゆっくりと自然治癒する方法。もう1つは魔力そのものを体内に送る方法で奇しくもジョリーンが魔力覚醒の為にナクアに使ったシャイニングスパイダーハリケーンも系統的には同じだった。そして今回の場合は後者。
「じゃあとりあえず……
マニエラはナクアの手を握ると小さく呪文を呟く。すると淡い光が繋いだマニエラの手から漏れ出し、ナクアの体に吸い込まれていく。
急激に大量の魔力を送るとそれ自体が攻撃になる事はジョリーンのシャイニング(略)でお分かりとは思うが、この様に治癒魔法を学んだ者が相手に合わせて魔力を送れば治癒に繋がる。
少しづつ生気の戻っていくナクアの姿をティルぴと隊員達、そして号泣するリーチェが固唾を飲んで見守っていた。
――ところ変わってナクアはまたしてもジョリーンと夢空間で会っていた。今回は流石にジョリーンも呆れているのかお説教にも覇気がない。ちなみに蜘蛛ではなく黒い魔法少女スタイルで現れていた。
「普通さ、気を失うまでパンツ作る? 頑張ってくれるのは嬉しいよ。でも私もさ、そこまでの使命感を与えたつもりないんだよね。」
「はい、すみません。」
「はあ、まあ仕方ないか。……ちょうどその事にも関係ある話もあったしね。」
「その事って?」
ナクアが聞き返すとジョリーンが少しだけ気まずそうな顔で目を逸らしポツリと呟いた。
「ナクアの死の因果律についてよ。」
「えっ!? それまだ続いてんの??」
「世界を渡った事で因果は弱まってるけど無くなってはないわ。今の状態は人よりちょっと死にやすい体質って感じね。例えるならデスゲームで真っ先に主催者に突っかかるヤンキーくらいには危ういわ。」
「絶対死ぬやつじゃんそれ!!……ていうか、マジ?」
「マジ」
何を隠そうジョリーンの言った通り、ナクアの死の因果は魂に結び付いており、異世界に転生し界を渡った事で物理的に弱まってはいるが無くなってはいなかった。何より生まれて1日やそこらで溺れかけ、人質になっている現実が客観的にもそれが事実だとナクアに証明していた。
「ただ死の因果自体は弱まっているから他人と積極的に関わる事で回避が可能みたい。なんか他人の因果律に巻き込まれて消失するっぽいわ。あと良いことをすると良さそうね。」
「"○○みたい"とか"○○っぽい"とか……ジョリーンも分かってないの??」
「か、神様が何でも知ってると思ったら大間違いよ!!それに未来は自分で切り開くものでしょーが!!」
「あーはいはい、とにかく友達を作って良いことをしてれば死なないんだね!」
「そうよ! だからパンツの件もあながち間違ってないの。……フフフ、パンツだけに中身が被ってたってね。」
「……お邪魔しました。」
ジョリーンのかなり低俗な下ネタで今回の夢空間は終わりを迎えた。
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