第7話 パンツを毒す
パンツとは下腹部を覆う布、肌着のことを指す言葉だがそういう意味ではアラクネはノーパンと言って差し支えない格好だった。
「こ、これって……どうなってんの??」
「アラクネは糸をこんな風に貼り付けて大事な部分を隠してんの。ほら、見えないっしょ!ヤバくない? つーかパンツより明らかハイエンドじゃねwww」
そういって蜘蛛脚をどけたティルピの股間には半透明の蜘蛛糸?が磨りガラスみたいになったプラスチック状の板が張り付いていた。
(どええッ!!? こ、これってセーフなの!!? 完全に見た目モザイク修正なんだけど!! その前にこれ隠せてない事を現してる奴だよね? 仮に隠せていたとしても受け手はモロ出しとしか思わなくない?? それに……もしかして私もアレつけるの?)
ナクアは何とも言えない複雑な心境の中で、自分がアレを貼り付ける未来を想像してパンツを作る事を心に決めた。
「ティルぴ、わたしぱんつ、つくりたい!」
「あーしの子供生まれて1日経たずにパンツ作りとかwww 将来性あるわwww」
「いとのつかいかた、おしえて!」
「うーん、確かにナクアはネフィラ種だし、糸でパンツくらい余裕だろうけど……まず蜘蛛脚使う練習しないとじゃね? ハイハイできんの自分?」
(ネフィラって女郎蜘蛛のこと!? ――それは嬉しいけど私ってタランチュラじゃないんだ。蜘蛛脚って……動かせそうで動かせないッ!おりゃああ!!)
単為生殖で種が異なる理由は魔力が関係している。単為生殖で妊娠する際にアラクネは内外から大量の魔力を送って子供に多様性を与えている。ただ外見的な特徴は大きく変わらないため個人の判別は難しい。ちなみに大量の魔力を送る行為は母子共に危険があり、一定のスパンが必要な為、アラクネが少ない要因にもなっている。
ネフィラ種はタランチュラ種と比べて糸に関する能力が高く、逆にタランチュラ種の様に身体能力が高くない。甲殻もティルピの様なファーが生えた脚ではなく、ツルッとした細くしなやかな脚が特徴だ。アラクネ界ではネフィラ種は珍しく、家や罠などを作る専門家として優遇されている。同じく糸が得意なアルギオペ種と混同されるが、能力、稀少性が大きく異なる。逆にタランチュラ種は数が1番多くティルピの様に群れから切り捨てられる事が多かった。
ナクアが寝転んだまま、脚を動かそうと踏ん張ってみるがビクともしない。背中に蜘蛛脚の感覚はあるのだが、絡まっているのか何をどうすればいいのか全く分からなかった。
現在ナクアの背中では蜘蛛脚が7つある関節を巧みに折り曲げてリュクサック型に変型していた。その状態で奥にある付け根部分を動かそうとしていた為に絡まった脚が可動を邪魔をしていた。
またその時のナクアは必死にコロコロ寝返りしながら手足をジタバタさせており、顔はナクアの前世からの癖でタコみたいに口を尖らせていた。このあざと過ぎる行動は無意識にしていてナクアは気が付いていなかったが横で見ていたティルぴは可愛いすぎて呼吸を忘れていた。
「ううう、できぬ」
「チュドった(チュウした過ぎて中毒死の略)しんど……すぅ、えっとね、脚が今背中で纏まってるからさ、この1番外の関節から力入れてみ?そんで段々内側に向かって力入れてくの。……そうそう!すごいじゃんナクア!流石あーしの子よね!」
「そ、そうかな?てへへ」
「はあ?ガチ照れしてて可愛いんだけど!――ていうか、もう無理!!ギューさせてッ!!」
「うぎゅ」
「んんんんんんんんんんッ!!! ――まじであーしの子可愛くてニュキ死!(ニューロトキシンで死んだの略 神経毒でおかしくなって死んだという意味。)大好きすぎる!」
ティルピからの思いがけない抱擁にはナクアも逃れる術はなく、その心安らぐどこか懐かしい心地良さに気がつくと意識を手放していた。
――数時間後、目覚めた2人は朝ごはんを取りに仲良くお散歩していた。ナクアは蜘蛛脚ハイハイはまだだが二本足で歩ける為、手を繋いでゆっくり移動している。ちなみにナクアはティルぴの蜘蛛糸で胸元からぐるぐる巻きにしてもらい服代わりにしていた。モザイクで出来たバスタオルを巻いてる様な感じで不安になる絵面だが至って健全である。
「たんけんみたいで、たのしい!まじやばい!」
「でしょ!! でも奥はもっとヤバイから!! ……ビックリしてまたお漏らしするかもよwww 」
「それはいうな!!」
「あはは、ていうかあん時ナクア焦りすぎでしょwww あんなに笑ったの初めてかもwww あー涙出るwww」
「さっさとわすれろお!!」
その時ナクアは何十年ぶりのお漏らしをしてめちゃくちゃ焦っていた。ティルぴが起きる前に何とか誤魔化そうと必死に手で扇いで乾かそうとしたが効果がなく、こうなったらやった事はないが自ら糸を出して隠そうとしたがそんなに上手くいくはずも無かった。結果お漏らしした箇所に鬼気迫る顔で念を送る謎の光景をティルぴに目撃され、焦って唐突に寝たフリをしたまでが今朝のハイライトだった。
「ねえ、ティルぴだっこ! あれ、ちかくでみたい!」
「はいはい、――これで見える?」
「みえた! きれいだね! ……あっかたぐるまして!」
「本当にもう! ……これでどうよ!! うぇーい!マジ高いっしょ!!」
「うわ、たかーい!!」
またナクアは根が甘えん坊さんだったのかお漏らしの一件以降、開き直ってティルぴにべったりくっついている。このほんのりと香る地雷臭もティルぴには外見の可愛さと何より1人娘への愛が強過ぎるため感知出来なかった。
肩車で洞窟の先を見たナクアの目に青く揺れる光がみえた。思わず興奮してティルぴの頭を太鼓みたいにポンポン叩く。
「ねえねえ!!なんかあるよ!!」
「痛いってwwやめろww……たぶん地底湖じゃね?マジで超すごいから!! ナクアお漏らし不可避だわwwww」
「だからしないっていってんだろ!!」
――時は遡りナクアが起きる少し前、森の外縁で野営する男達は朝の朝礼の最中だった。どんよりとした空に呼応する様にズラリと並んだ男達の顔には疲れが滲んでいる。そしてそんな男達を即席の舞台に上がり見下ろしているのは眼帯の男だった。
「全員揃いました。」
「ご苦労……そこのお前、俺たちはここで今何をしている?」
「わ、私達は地質学調査のためここで魔力による地層調査と採取した複数のポイントの土をサンプルとして回収しています。」
「なるほど、いい答えだ。……地下150mに鉱石反応、ポイント3ッ!!」
「「――ッ!!!」」
突然のその声に男達は即座に南方を確認するがそこには見える限り何も無い草原が広がっている。男達は全員、肩幅に足を開き片手をローブに入れていた。中には透過魔法で姿を消す者までいた。
「あはは、実にいい反応だな。……いいか、本職を忘れるな。ただし魔光石以外は地質調査に不要だ。確実な現物を持ってこい。……もちろん、魔力が尽きていようが構わない。大切なのは確かな証拠だ。」
男からの意味深な言葉に男達の顔が明らかに変わった。どこか緩慢とした空気が無くなり、ひりつく様な緊張感が場を支配する。すると空から雨が降ってきた。舞台にたつ眼帯の男は手のひらで雨粒を感じるとニヤリと笑う。
「今日は荒れるぞ。嵐の予感がする。」
眼帯男はまたしても、ナクアのお漏らしを密かに予言していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます