第3話 命を繋ぐのは魔法の力
「死って、どうして……?」
「お前は質問だらけだな。少しは考えなければ、その脳はどんどん朽ちていくぞ」
「いやいやいやいや。だって、急にそんなこと言われてもわからないですって!」
どうして、と何度も繰り返すジルバートに「はあ」とため息を吐きながら、テラは歩き始める。
その足は止まらず、扉の隙間からしか見えないジルバートに背中を見せたままだ。
「いいのか? そのままそこで待っていれば、死ぬぞ? 説明なら歩きながらしてやろうではないか」
「あ、ちょっと待って下さい!」
森の中だというのに、ヒールのまま進むテラ。
にわかに信じがたいが、離れたら死ぬという情報を与えられたジルバート。どのくらい離れたらいけないのかもわからないので、彼女についていくしかない。
ジルバートはテラの家から飛び出して、彼女の後を追いかけた。
森の中を進むこと数十分。
時折獣が二人を見に来るが、襲いかかることなく歩き続けている。
木の根や石など地面は決して平らではない。なのに躓くこともなく、ランウェイを歩くモデルのごとくテラは進む。その後ろを、ジルバートは何とか着いていこうと必死だ。しかし。
「いっ……」
ジルバートは盛大に転んだ。
地面の小さな凹凸に足を取られたのだ。
とっさに手を出したが、顔を地面にこする。テラに助けられて体力は回復しつつあったとはいえ、元は弱っていたことや、筋力が低下していたこともあり回避することはできなかった。
すぐに体を起こして、前を征くテラの方へ顔を向ける。
置いて行かれないように。かつての兄の背中を追いかけるように、歯を食いしばって立ち上がろうと試みた。だが、駆け抜ける痛みがそれを阻む。
足に力が入らない。膝ががくがくと揺れてしまい、立ち上がることがままならず、すぐに地面に戻されてしまっていた。
「何をしておる。このペースでは国に戻るまで何年かかることやら。その間に追手に捕まるぞ?」
「すみません……すぐ行きますからっ……うっ……! ゲホ、ゲホッ」
手に付いた土を払って、立ち上がろうとする。しかし、強い痛みがジルバートを襲う。巻かれていた包帯は血が滲み始め、苦しそうに胸を押さえてなどもせき込む。立ち上がるどころか、呼吸もままならず地面に倒れこんだ。その様子を、テラはジッと見つめてやっと気付いたかのように手を叩く。
「ふむ。この程度の距離で魔力の供給が途絶えるのか」
二人の間は十メートルほどある。動けないジルバートに一歩、また一歩、近づいていくごとに、ジルバートの呼吸は落ち着いてきて、テラと二人、向かい合う近距離になったときには、ジルバートの体調は戻ってきていた。
「どういう、ことなんですか? さっきまでの痛みもどこかに……」
「どうもこうもない。これが、私から離れれば死ぬということだ」
「それは身をもって理解しました。僕が知りたいのはそのメカニズムです」
「知ってもどうにもならんぞ?」
「命がかかっているともなれば、知る理由にはなるはずです」
視線が交差したまま、黙る二人。どちらかが折れなければ進まないそんな状況になってしまった。
最初からテラは話すつもりではあった。だが、どの程度話すべきかを歩きながら悩んでいた。一から話せば、かなりかみ砕いて細かくしなくてはならない。魔法の基礎からともなれば、骨が折れる。ジルバートの理解度が低ければ、さらに疲れる。
かといって、あいまいに、そして簡単に説明して、ジルバートが納得するとは思えない。
さて、どこから話そうか。テラは繰り返し考える。
「僕にもわかるように、全部話してください」
まっすぐ見つめられて、テラは意を決した。
この子は賢い。そう感じたのだ。
「よかろう。お前にもわかるように話してやる。ただし、途中で投げ出すことは許さぬ。それに歩みを止めてはならぬ。それでもいいか?」
「……はいっ」
覚悟を決めたテラは、ジルバートを立ち上がらせ、並んで歩く。そして一から説明していく。
「私は大地の魔女。大地から放たれる魔力を、私が手を加えることで魔法となる。そして私の魔法で可能なのは、大地に関するもののみ。大地を動かす、形を変える。それなら用意にできる。言い方を変えれば、他のことは苦手だ」
言いながらテラは目の前へ手を伸ばし、ムクムクと盛り上がらせてみせた。
「そんな私がお前に施したのは、私を通して調節した魔力を注ぐことで治癒力を活性化させるというもの。正直、こういう魔法は久しく使っていないし、苦手なんだ。故に私から離れれば、魔力が途切れるようになってしまった。加えて、お前はもともと瀕死だった。それを今まで、私の魔法でどうにか傷を塞いでいた。だから魔力の供給が途切れれば、体は元通りっていうことだ」
話は以上、というような顔をしていた。ジルバートはしっかり話を聞いてそして、口を開く。
「質問、いいですか?」
「許可する」
「今後、僕の傷が癒えれば。そうしたらどうなるんですか?」
「私の魔力は必要なくなるだろうな。晴れて自由のみ、といったところだろう。多分」
「多分!? 多分ですか!? 不確定?」
「うるさい」
ジルバートはポコっと軽く、頭を叩かれた。痛そうなそぶりをするも、手加減をしているのでそこまでの衝撃はない。わざとらしく、彼はふるまった。
「言っているだろう、久しい魔法で加減ができなかったんだ。勝手に解けるのかどうかもわからん。だが、解き方はヴァルツに記録が残っているはずだ」
「ヴァルツに? それってまさか、あの本に……?」
ジルバートの問いに対して、含みを持たせた笑みがその答えだった。
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