第26話 想太の新しい一歩② 挑戦
ライブ会場の最寄り駅で電車を降りて、歩き出す。
なんとか無事にここまで来た。少しずつ、会場が近づいてくる。いや、自分たちが、近づいていく。
(ついに来た!)
想太の心に少し、緊張感が生まれてくる。隣を歩く琉生からも、なんとなく緊張感が伝わってくる。
「なあ。アリーナの端っこでいいから、出たいね」
「うん。出たい。今日、うちのお姉ちゃんとお母さんがライブのチケット取れたから、来るんだ」
「え? ほんま? レイさんとさつきさん、来はるん? 」
「うん」
「そっかぁ。うちは、とうちゃんが、共演してる人を応援しに来るって」
「え? 圭さん、ライブ見に来るの? うわぁ……。会いたい。」
琉生がうっとりした表情になる。
2人が意気投合したのは、なんとなく気が合ったというのに加えて、家族のこともあった。
琉生の姉、レイは、自分で作詞作曲してピアノの弾き語りをする歌手だ。美しい声と演奏がステキで、想太もみなみと一緒に、彼女の曲を弾いたことが何度もあった。
琉生の母、さつきは、以前、青春ドラマや映画で活躍した女優で、そのときの相手役だった藤澤貴行と結婚して引退したのだ。
そして、想太の父、圭は、想太と琉生が目指すEMエンタテインメント所属の、人気アイドルグループHSTのメンバーだ。
お互いそのことを知って、より相手を近く感じたような気もしている。
実は、初めて会った日の帰り道、琉生が、少し言いにくそうに、切り出したのだ。
「あのさ、先に言っとくけど、僕の親、俳優で、藤澤貴行ていうんだ。自慢とかじゃなくて。あとから知ったら、なんか、いやかも、と思って……。で、お姉ちゃんが、レイ」
まじめな顔つきで、琉生が言った次の瞬間、
「え? ほんま? すごい! レイさん、お姉さんなん? いいなあ。めっちゃええ曲作りはるよなぁ。それに、藤澤貴行さんて、さつきさんと結婚されたよね? あの、『遠雷』ってドラマで共演してはって……」
想太が嬉しそうに顔を輝かせた。
「そ、そうだけど。……よく知ってるね」
「うん! かあちゃんと一緒にそのドラマ、何回もみたことあるねん。かあちゃんのめっちゃ好きなドラマやねん。やから、オレも、さつきさんて名前覚えてるねん」
想太が、あまりにも嬉しそうに、すごい熱量を持って語るので圧倒された琉生が、
「あ、ありがとう。お母さんに、家帰ったら、言うね。きっと喜ぶよ。結構前のドラマなのに」
「DVD、持ってるね~ん」
自慢そうにほほ笑む想太に、琉生が思わず吹き出す。
「そうなんだ」
「じゃあ、オレも、言うとくね。うちのとうちゃん、妹尾圭、やねん」
「やっぱり、そうか! 苗字がめずらしいし、顔も似てるし、もしかして、って思ってた」
「ん。でも、血はつながってへんで。よく似てるって言われるけど。―――これ、自慢な」
ニコッと笑った想太は、めちゃくちゃ可愛くて、思わず琉生は言ってしまった。
「おまえ、可愛すぎ」
「おまえもな」
そう言い合って、2人で吹き出す。
「……僕たち、何言いあってるんだろうね。バカップルもどきじゃない?」
「バカップル、ええやん。ええコンビになれるで」
「そうかも」
想太が、あの日のそんな会話を思い出しているうちに、2人は会場に着いていた。
「よし。行こう!」と想太。
「うん。行こう」と琉生。
2人で顔を見合わせる。お互いの顔と服装と髪型をチェックする。
大丈夫、バッチリだ。
仕上げは、
「笑顔な」
想太の笑顔に、琉生が答える。
「うん。笑顔な」
2人で、オーディション受付に向かって歩いて行く。
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