第22話 投稿
「ねえ、ねえ。これ、想太くんじゃない?」
ミヤちゃんが、スマホで、SNSに投稿された写真を見せてくれた。
想太がオーディションを受けそこねた、1週間後の土曜日、私は、サトミちゃん、ミヤちゃん、ナナセと久しぶりに、私のうちで、調べ学習のグループ課題をやっていた。
写真には、歩道に倒れている男の人に一生懸命心臓マッサージをしている男の子たち2人の姿がある。周りにいる人の顔も、男の子たちの顔も微妙にぼかされている。でも、髪型や服装や、全体の雰囲気から、想太を知っている私たちには、なんとなく、それが想太だろうということがわかる。それに、想太が人命救助したことは、先生やクラスメートたちみんなが知っているし。
「あ。ほら、これ、動画もあるよ。見て」
ナナセが自分のタブレットを差し出して言う。
今度は、男の子たちの声が聞こえる。間違いない。想太の声だ。もう1人の声は、琉生くんだろう。
「あ。書き込みもあるよ。なになに、『このイケメン少年たちは、人命救助のあと、爽やかに走り去っていった。そのときちらっと、2人の会話の中にEMエンタテインメント、オーディションという言葉が聞こえた。もしかすると彼らはアイドル志望の子たちなのかも。こんな素敵な子たちなら、絶対応援したい。」
「オーディション。……そうかあ。そろそろかと思ってたけど。受けたんだ」
ミヤちゃんがつぶやく。
「みなみ、聞いてた?」
サトミちゃんとナナセが、私の方を見る。しかたなしに、私はうなずく。
写真も動画も、明らかに想太で、ごまかしようがなくて。
(想太、ごめん。まだ内緒にって言われてたけど。これは、ちょっとむりだ)
「うん。……でも、その日は、受付に間に合わなくて、受けられなかったって」
「え。どういうこと?」ナナセの目が光る。
「まさか、人命救助してて遅刻したってこと?」ミヤちゃんの声も鋭くなる。
「うん。そうらしい。だけど、またもう1回履歴書送って、再チャレンジするって言ってた」
「そっかあ」
「なんか」
「想太くんらしいね」
サトミちゃん、ミヤちゃん、ナナセの声が連なる。
「うん。でも、想太、その日、すごくいい出会いしたから、これでよかった、って言ってた」
「あ。この一緒に、心臓マッサージしてた子?」
「うん。琉生くんっていう子で。いい友達が出来たって、なんか嬉しそうで」
「そっか……将来2人で、デビューしたりして」
ナナセがうっとりしている。
そのとき、スマホの画面を一生懸命見ていたミヤちゃんが、
「あ。……これ」
そう言って、画面を私たちに差し出した。
そこに写っていたのは、カッコ可愛い男の子と、切れ長の目で端整な顔立ちの男の子の2人。汗だくになって、心臓マッサージをしている。想太と琉生くんだ。
「え。なにこれ、顔ぼかされてない」
サトミちゃんが言った。
2人の顔がはっきり写っている動画までがネットに上がっている。
「さっきみたやつは、顔ぼかされてたけど、これ、何も加工せずにそのまま出てる」
「周りの人たちの顔は、ぼかしてるのに、想太と琉生くんだけは、わざとぼかしてない」
「う~ん。これってどうなの? でも……いいね、してる人も多いね」
ナナセが言う。
「かっこいい。可愛い。EMエンタテインメントの子? 推せる。ファンになりたい。……いろいろ書き込まれてる」
ナナセが眉をひそめながら読み上げる。その中には、悪い言葉はないけれど。なんだか、私たちは不安になってくる。
「なになに、近々デビューか、って。……誰が?」 サトミゃんが読み上げながら、ツッコむ。
「そのためのヤラセ? 何言ってるの。すっごいデタラメ!」 ミヤちゃんが怒る。
彼ら2人をたたえる言葉もあれば、とんでもないデマを書き込んでる人もいるのだ。
ほとんどの人は、想太と琉生を褒めているけれど、そもそも、こうやって、勝手にネットに載せるって、どうなんだ。私たちの不安は、さらに大きくなる。
「ねえ。今はまだ、想太はデビューどころか、オーディションさえ受けてないけど。デビューして、アイドルになるって、きっとこういうこともいっぱい起きるんだよね……」
私がつぶやくと、
「自分の知らないところで、勝手に写真撮られてネットで流されたり、噂されたり」
「デタラメなこともいっぱい言われたりして」
「それがどんどん拡散して……」
ナナセ、ミヤちゃん、サトミちゃんが、怖そうに口々に言った。
「こわいね……」
「うん。こわい……」
私たちは、想太のこれからを思って、不安な気持ちで顔を見合わせた。
全員、思わず黙り込んでしまう。
(想太には、幸せでいてほしい。いつも優しいあったかい笑顔の想太。彼の笑顔を曇らせることは絶対起きてほしくない。)
私が、祈るように心の中で思ったとき、
「推しの笑顔は、私たちファンクラブが守る!」
「そう! 絶対守る!」
ナナセとミヤちゃんが、握りしめた両手を顔の前でかまえて宣言した。
「うんうん」
私とサトミちゃんも、一生懸命うなずいた。
(想太。私たちがついてるよ。自分に何ができるかわからないけど。それでも、いつだって、何があったって、想太の味方だよ)
私の頭の中に、ほわほわとした柔らかそうな髪を揺らして笑う、想太の顔が浮かんだ。――――大好きで、大切な、想太の笑顔。
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