第15話 可愛いは必須
ピアノを弾き終えて、私は、ベッドの上に寝転がった。
枕の横にいつもおいている、羊毛フェルトの小さなパンダを手に取る。
これは、前に、想太がくれたものだ。手のひらサイズの小さなこの子は、想太の手作りだ。
見つめているうちに、この子を作っていたときの、想太の一生懸命な顔が思い浮かんだ。
前に、圭さんの舞台を観に行ったとき、想太から相談にのってほしい、と言われたことがあって、何かな? と思っていたら、それは、想太の3つ下の妹の誕生日プレゼントのことだった。
妹の香奈ちゃんは、普段は、想太とは離れたところに住んでいる。その子へのプレゼントに何がいいか、想太はずっと迷っていたらしい。
「女の子が喜んでくれるもんってなんやろ? みなみ、なんかええアイデアない?」
「う~ん。何がいいかなぁ。……とにかく、可愛い、は必須だけど」
はじめ、ぬいぐるみなんかいいかも? と可愛い雑貨を売っているお店に、2人で行ってみた。ところが、ほんの小さな手のひらサイズのものでも、びっくりするような値段で。
「なんで、子どもがほしくなるもんに、こんなたっかい値段つけるんかな」
想太は、めずらしく、頬をふくらませてぼやく。
「ほんとに、高いね。でも、ぬいぐるみって、子どもだけじゃなくて、大人も、自分用にけっこう買ってるから。それで、こんな強気なお値段になるのかな」
「そうなんかな……。でも、オレ、むりや。いいなと思うやつは、とても買われへんわ」
想太がため息をついた。
ぬいぐるみ以外で何かないか……グルグル見て回ったけど、どうもこれだ! と思えるものがない。
う~ん。 2人で、頭を抱える。
そのときだ。私の頭に、ある本が思い浮かんだ。淡い色合いの羊毛フェルトで作られた人や建物や子犬などがいる街の景色が表紙になっていて、中身も、すごく温かで素敵な物語だった。そうだ、羊毛フェルト!
「ねえ。想太。自分で作ろう! いいアイデアがある!」
「作るって、オレにできるかな?」
「だいじょぶだいじょぶ。ついてきて。確か、このモール、手芸用品のお店入ってたはず」
案内板を見ると、1つ上の階に、手芸用品の店があった。
2人で、その店に着くと、羊毛フェルトの棚をさがす。
うろうろ探していると、
「これちゃう?」
想太が先に発見する。
「あ、これこれ」
いろんな色の羊毛フェルトがある。
「これね、針でつついて、自分の好きな形に出来るの。少々失敗しても、フェルト付け足したり減らしたりすればいいし」
「やりかたわかる?」
「うん。やったことある。うちに、それ用の針もあるよ。だから、フェルトだけ買えばいいから」
「ほんま?」 想太の顔が輝く。
「うん。で、何を作る?」
「う~ん、と。パンダ」
「じゃあ、白と黒があればいいね」
白と黒の羊毛フェルトの袋を手に取る。芯のところに使うといい薄茶色のフェルトは家にあった気がする。
「目もいるけど。ちっこい目? 大きい目? どうする?」
「う~ん。どっちがいいんやろ?」
「あのね。前に、私、雪だるま作ったとき、めっちゃ大きい目をつけたら、宇宙人みたいななんか不気味な顔になった。って言っても……ほんとの宇宙人は見たことないけど」
プラスチックの目が入った袋を手に、想太が首をひねる。
「そしたら、……ちっこい目がええか?」
一袋40円ほどだ。
「安いし、大中小3種類買ってみる? つけてみてから考える?」
「うん。そやな。そうしよう」
ありがたいことに、羊毛フェルトは、ぬいぐるみを買うよりずっと、お財布に優しくて、私たちは、足取り軽く帰宅した。
家に帰ると、私は、羊毛フェルト用の針などが入った、カゴを抱えて、想太の家に行った。
リビングのテーブルに、カゴを置いて、早速、羊毛フェルト教室がスタートだ。
「お。こんな針か。へえ~。で、どうやるん?」
「まずね、どんな大きさと形にしたいのか、ちゃんとイメージを持ってね」
「うんうん」
「そのイメージに合うように、羊毛フェルトのかたまりをチクチク刺していくの。刺して形を整えていくの」
見本に、フェルトのかたまりを手にして、チクチクやってみせる。
「なるほどなるほど」
「で、絶対集中しないと、これはキケンだから。気をつけてね」
「うんうん」
想太が真剣にうなずく。
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