第13話 夢想の讃美歌④

 洗浄が終わり格納庫へと戻ると、ユーリは静かにタラップを使いエルプズュンデから降りる。

 そこで待っていたのは予想外の人物だった。


「お待ちしておりましたわ。ユリシーズ准尉?」


「アンタは……ミスホワイト?」

 

 声の主、ナディアは眉間に皺をよせ、険しい顔でユーリを睨みつけてくる。心当たりのない彼は困惑するしかなかった。


「あー……なにか用か?」


「……単刀直入にお聞きします。貴方は……ハリストフォル大尉のお考えをどう思っていらっしゃるの?」


 訊かれて、ユーリは目を瞬かせる。しばらくして口を開いた。


「……どうもこうも……ねぇな。俺は与えられた任務をこなすだけだ」


「……そうですか。お疲れのところ、失礼致しました。では……ワタクシは自分の仕事に戻ります」


 それだけ告げて、ナディアは去って行った。


(……なんだって言うんだ?)


 ****


 ミーティングルームに入ると、そこにはユーリを除いたが待機していた。


(珍しいこともあるもんだな。全員が揃うなんて……)


「ユーリ? どーしたんだ? 入らないのか~?」


 声をかけてきたのはシャオだ。彼は机に突っ伏していた顔をあげ、ユーリをまっすぐに見つめている。

 気まずくて、視線を逸らすとユーリは空いている席に座った。


 今、この場にいるのはハリス、ロディ、アイク、シャオそしてユーリの五人。この五人がトロイメライ戦隊の構成員だ。

 少数精鋭だからこそのメリットとデメリットがある。

 それを補うためにアルプ機関が存在するのだ。


「さて、全員揃ったところで始めましょうか? 単刀直入に言います。今回二体の疑似怪獣ハイ・カタストロイが出現したこと、そしてそれを倒したことで、ミスアンジョウの身の安全は確保できたとも言えます。ですが、彼女のメンタルケア及び保護対象なのは変わらず。そのため……」


 そこで一旦言葉を区切ると、ハリスが続ける。その表情はいつも通りの穏和さに隠され、真意を読み取ることは出来なかった。


「僕達は日本を出て、北米に渡ります」


 その言葉に内心で動揺するユーリだったが、それを口にしたのはアイクだった。


「ぜんっぜん話が見えないんですけど? 確かに二体倒しましたが、それがなんであの少女の安全確保に繋がるんです?」


「それは、彼女が執着しているのが……カタストロイではなく、ミスタートキトウだと確定したからです。アウスとなるのは、カタストロイになんらかの形で信徒になった者だけ。逆に言ってしまえばカタストロイの信徒にならない限り、アウスにはならないのです。故にミスアンジョウについては保護を継続しつつ……我々は次なる地へ向かいます」


 アイクは納得したのか、それ以上反論することはなかった。だが、ロディが口を開いた。


「納得も、理解もした。それに、いつまでも一人の娘を守っているわけにはいかないしな? だが……なぜ北米なんだ?」


「あぁ、それはですね。北米でハイ化するのではないか? アウスなのではないか? そう疑惑のある者が……にいると情報が入ったからですよ」

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