第14話 夢想の讃美歌⑤

 ミーティングが終わり、それぞれが退室していく中、ユーリはロディに声をかけられた。


「ユーリ、少しいいか?」


「あ、あぁ……かまわないが」


 彼女が自分に声をかけてくるのは珍しい。不思議に思いながら、黙って彼女の後ろを着いて行く。

 着いた先は、こじんまりとした休憩スペースだった。ロディが備え付けの自販機に近づくと適当に飲み物を選んで、手渡してきた。

 どちらも微糖の缶コーヒーだ。それを見て、ユーリは少しだけ複雑そうな表情をする。


「む? コーヒーは苦手だったか?」


「……いや」


(飲めないわけじゃない……ただ、俺は紅茶派だ……)

 

 ちょっとした不満を悟られないよう、缶コーヒーを開け一口飲んだ。やはり、好んで飲もうとは思わない。

 二人は距離を少し置いて、椅子に座った。ロディも缶コーヒーに口をつける。

 しばらくした後、彼女が口を開いた。


「単刀直入に訊く。今回の任務についてどう思う?」


「……そうだな……。俺は……あまり感覚がする」


「ほう? というと?」


 追求され、ユーリは戸惑いながら言葉を探す。


「その、なんというのか……隊長達は何かを掴んでいるのに、俺はそれを一ミリも理解できていない? いや、把握できていない? そんな感じだ」


「なるほどな? 大体私と感覚が近いな」


「……どういう意味だ?」


 尋ねれば、ロディは静かな口調で続けた。


「私も、何か把握できていないことがある。なんでそう思うのかは、わからないがな」


「そう、か……」


 それ以後、会話はなく静かに缶コーヒーを飲む。その空気を破ったのは……シャオだった。


「あ~! 二人ともみつけたぞ!」


「シャオか。どうした? 私達を探していたのか?」


 ロディが訊けば、シャオが大きく頷いた。彼の年齢はおおよそ十九歳くらいのはずだが、年齢より幼い印象を与える。

 その彼が自分達を探していた事実に、ユーリが困惑しているとシャオが口を開いた。


「そろそろ移動するから、各自自室待機だってよ~」


「なるほどな。わざわざ教えに来てくれたか。感謝する」


(……事情はおおよそ聞いてはいるけれども……ロディはシャオに甘いな……。いや、俺も強くは出られねぇが……)

 

「ん? ユーリ、どーしたんだ?」


「いや、なんでもねぇ。俺は先に戻る。じゃあ、これ。代金」


 ロディに缶コーヒー代を渡すと、そのままユーリは後にした。


(俺の乗るトロイメライ・エルプズュンデ……夢想の原罪、ロディの乗るトロイメライ・キルヒェンリート……夢想の讃美歌、そして……)

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