第10話 夢想の讃美歌①

『私が今回指揮をとらせてもらう。ユーリはいつも通り先行してくれ、シャオ、お前は後方支援だ、いいな?』


 ロディの声が通信越しに響く。特に異論はないため、ユーリはエルプズュンデのブースターを加速させた。

 二体の標的ターゲットを確認する。一体は水色に覆われた身体を震わせており、もう一体は銀色の身体ながら風を纏っていた。

 それを認識したユーリは、標的をまず一体に絞り急接近していく。

 勿論、杭打機パイルバンカーゲベート・ナーゲルを構えながら。


(行ける……か? 嫌な予感がするが……)


 狙いを定めたのは、水色の方の疑似怪獣ハイ・カタストロイだ。腹部めがけてゲベート・ナーゲルを打ち込んだ。


 だが……。


「っ! 撃ち抜ききれないか!?」


 何かにはじき返された感覚を覚えたユーリは、急いで逆噴射し後退する。その瞬間に銀色の疑似怪獣が大きな口を開く。

 途端、何かに引っ張られる感覚がする。


「これは! 吸い込まれている!? くっ……そが!」


 その間にも、水色の疑似怪獣が背中の機械のような鱗を逆立て始め、鋭い氷の刃が次々と飛んできた。


「ちっ!」


 かわし切れないと判断したのと、シャオの乗るヴュルク・エンゲルが十字架型の兵装フライハイト・クロイツで砲撃を放ったのは同時だった。

 ヴュルク・エンゲルの攻撃により、氷の刃が落下していく。しかし、引っ張られている感覚は消えない。


「……そうか、吸い込まれているのか! あの銀色の方に!」


 気付いたユーリだったが、エルプズュンデの加速力をもってしても銀色の疑似怪獣の吸引力の勢いに勝てそうになかった。

 その時、ロディの駆るキルヒェンリートが割って入って来た。


『やらせはしない。ゲベート・ゲヴェーアヒッペ!』


 を振りかざし、疑似怪獣と真正面から対峙する。


『相手になろう。エルフシュタインの名に賭けてな?』


 いつもの冷静な口調でこそあるが、静かな闘志が声色からは感じられた。銀色の疑似怪獣は咆哮をあげると、口を更に大きく開けた。

 水色の疑似怪獣がもう一度鱗を逆立てる。

 二体に挟まれた三機だが、動じることなく次の行動に移る。


『ユーリ、シャオ。いいな?』


 答えるかわりに、攻撃体勢へと入った。


(さて……どうでる?)


 ユーリはゲベート・ナーゲルのたま装填そうてんし、構え直す。それに合わせてシャオがフライハイト・クロイツの取り回しを変えた。

 

 ――二体の悪魔かいじゅうと三機の天使達へいきの攻防が始まった。

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