第9話 五人目の天使も揃い

 艶やかな黒髪を長く垂らした、俗に言う大和撫子やまとなでしこ

 それが安城美為あんじょうみなれを表すのにふさわしい言葉だと、エルプズュンデの整備員かつアルプ所属員である伊崎いざきから聞いた。

 曰く。


「あの嬢ちゃんは、将来有望でさぁ。ソイツがアウス化なんてぇ、信じたくねぇもんですぜぇ」


 少し悲しげにそう話す伊崎を前に、ユーリは困惑するしかなかった。確かに彼女は可愛らしいとは思う。だが、生憎日本人ははたからみたら幼く見えるがためにイマイチしっくり来ない。


(まぁでも、同じ日本人がそう言うならそうなんだろう)


 そんなやり取りを思い出しつつ、整備されたエルプズュンデの最終チェックを行う。今回はロディそして……。


『なぁなぁ~ユーリ。トキトーって奴がハイ化したのと、今回の標的ターゲットってどー繋がるんだ?』


 少し高めの青年の声が聴こえてくる。通信用のモニターをオンにすれば、癖毛のグレーの髪と瞳をした十代後半くらいの青年、シャオジェン・レェリャンが隊服のまま自身の機体に乗っているのが映し出された。


「シャオ、お前……まだパイロットスーツに着替えてなかったのか?」


 ユーリが尋ねれば、シャオは思い出したように返事をした。


「あっ。そういやおれ着替えてないじゃん! ありがとなーユーリ! 着替えてくる!」


 自身の機体から出て行くシャオを確認して、ユーリは通信用のモニターをオフにした。


『すまん、世話をかけたな。シャオの教育は私の責任だ』


 ロディの声だ。ユーリは少しめんどくさそうな表情をしつつ、答える。


「気にするな」


 それだけ告げると、ゆっくりと伸びをする。最終チェックもそうだがには、今出撃待機が命じられている。その理由は一つ。


(安城美為を狙う時任ときとうと同じアウス化した人間のハイ化に備える……ねぇ?)


 この説明を受けた時、ユーリは


(なんでハリス隊長は、こうも予見みたいな推測を立てられる? 根拠も開示されてはいるが……それだけか?)


 不信感があるわけではない。だが、どうにも引っかかる。


(なにか……あるのか?)


 これ以上気にすれば、任務に支障が出ると判断したユーリは無理矢理思考を切り替えることにし、愛読している本を手に取る。

 もう何度も読んでいるため、内容は頭に入っているが気を紛らわせるのに便利なのだ。

 そうして、眺めていた時だった。

 エッダのアナウンスが入る。


『時任英春ひではると関連のあるアウスと思しき個体がハイ化しました。その数、二体。キルヒェンリート、エルプズュンデ、ヴュルク・エンゲルは配置について下さい』


 出撃体勢に入った三機の天使達は、次々と発進して行くのだった。

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