<幕間>大人の役目
――その日、蕁麻中学校で起きた事は、鬼瓦の遺族を除き、誰にも知らされることは無かった。警察署長自身の判断で、「処刑人」と言う怪異の存在は隠蔽される運びとなったのだ。
もはや迷っている暇はなかった。どの国でも同じことだが、警察にはこうした特殊な案件に出くわした時は「専門家」に委託する、という不文律がある。
……その「専門家」が今まさに、実地調査の依頼を受けたところだった。
『ごめんなさい、私、あの程度の怪異は人を殺したりしないって、思い込んでて……。』
「優子が謝ることは無いよ。君はやるべきことはきちんとやった。……怪異の制圧ができれば一番いいけれど、『我々』の一番のルールは自らの身を隠すことだ。君はそのルールを守った……なかなか際どい部分はあったけれどね。」
空穏は、可愛らしい赤色の携帯電話を片手に座禅を組んでいる。
「私だって、呼ばれなければ動けない……まして今回は、『同族』が関わっているかもしれないからね。」
『……………もしそうだったら……。』
「私たちは手を引くしかない。」
『……………………。』
空穏の視線の先で、庭のししおどしがかこん、と空しい音を立てる。
『……でも、こんなに被害が広がって、みんなが知ってるのに……!』
「……そういう騒ぎはね、私たちが知らない『力』が自然に上手く収めてくれるんだよ。今まで、この国でもずっとそうだった。」
『…………私はやっぱり……それでいいって、思えないです。』
「……知ってるよ。」
空穏は瞑目する。
「何にせよ、後は私に任せて欲しい。また君が、今まで通り友達と平和に学校生活を送れるように、できるだけのことはやるよ……君は今までよく頑張った。お疲れ様。」
『…………先生、私は。』
電話の向こうで、優子の迷うような息遣いが聞こえる。
『――私は今まで通りなんて、望んでないです。そんなの、平和じゃない……。』
「…………すまない。」
空穏はそう言って電話を切った。
――大人って言うのは、嫌なものだね……。
空穏は深々とため息をつく……。
だが、そこでふと思う。
――あるいは、子供は子供で、自分で責任を全うしようとするんじゃないか?
ししおどしは止まることのない流れに押され、反対側にことん、と倒れた。
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