第34話 正義の鉄槌(13)
「や、やめて、お願いだから……。」
「天誅ぅっっ!!!」
処刑人は廊下の隅に追い詰めた生徒をバットで殴りつける。生徒は一撃で気を失って床に倒れ伏した。
「……次だ。」
処刑人はそれを見届けると、すぐに踵を返して去って行く。
これでもう既に、彼の被害者は5人目だった。
「……待てぇっ!」
階段の下から彼を呼び止める声があった――狐面の少女。だが、処刑人は既に彼女の視界から消え、廊下を走り去っていく。優子は慌てて後を追うが、廊下をのぞき込んだ時にはすでに、処刑人は姿を消していた。
「……っ、また……!」
優子は周りに誰もいないことを確認し、面を外して武器と共に服の中に隠した。
「ねえ、大丈夫……?すいません!誰か来て下さい!」
倒れている被害者の意識がないことを見て、優子はすぐさま人を呼びに行く。
この数日、処刑人は暴虐の限りを尽くしていた。標的には何の共通性もなく、時間帯も今までの様に放課後に限らない。校内のあらゆる場所でランダムに、一人でいる生徒に突如として襲い掛かる。
智也と優子だけでは到底カバーしきれない。コピー君にも探索を頼んだが、ほとんど役に立っていない。優子が折よく駆けつけたとしてもその時には犯行は終わっており、すぐに逃げられてしまうのだった。
その一方で優子たちは、処刑人の追跡と並行して依頼人の同定も急いでいた……いや、というより、依頼人を首尾よく
立て続けに生徒が不審者の襲撃に会い、学校は対応に追われて大わらわだった。そして当然、生徒たちにもパニックが広がりつつあった。
そんな中、優子は被害者たちの交友関係を調べ、契約者が同時に四人もいることを突き止めた。
一人目は三年女子。同じ学年の男子に手酷いフラれ方をしたのを根に持って契約したらしい。そうはいっても「不幸に合わせて懲らしめてやろう」とくらいにしか思っておらず、物理的な制裁を加えることは契約時に明示されていなかったらしい。
二人目は一年男子。サッカー部でレギュラーに選ばれなかったことで、選ばれた友人を逆恨みし依頼。
そして、三人目は二年女子――田辺早苗。
「――だって!あいつが悪いんだよ!あいつ私達のこと、永遠に眠らそうとしたんだから!」
優子の事情聴取に対し、唯一悪びれもせずに開き直った人物だった。
「……え?ごめん、今なんて言った……?」
「だからっ!夏休み前に私、『キューピットさん』に呪われて入院したでしょ!?あれあいつの仕業だったんだって!」
「……えっと、そんなこと、どうやってわかったの?」
脇から智也が口を挟む。
「だって、鏡の妖精に聞いたもん!」
「……あ。」
それを聞いて智也は、ことの重大さに気づいた。
鏡の妖精は、学校内のことについて尋ねられればなんでも答える……すっかり忘れていた。それは今、猛威を振るっている処刑人と、最悪のコラボレーションを果たしてしまう。
すなわち人間関係におけるあらゆる疑念・不信を言葉にして問いさえすれば、本来知らなくても済んだ秘密、背信、犯行、敵意、偽りの友情をつまびらかになってしまうということだ。そうしてそれらの衝撃的な事実を知った者たちが次に考えることはただひとつ――復讐である。
処刑人はあたかもセールスの連鎖のごとく、コピー君の「客」を全て補足し、順番に姿を現すことで効率用く仕事を手に入れている訳だ。
…………そういう訳で、
――ねえコピー君、今ちょっと話せる?
――アー、トモヤぁ……ど、ドウしたノ?
――……君、さては今の話聞いてたね?
――き、聞いて無イヨ?ぜーんぜん。おれ、メグミには何も教えてナイし!
――嘘が下手だね、ほんとに……あれだけ色々教えてあげたのに、知能指数は変わらなかったみたいだね……!君、あの怪異にいいように利用されちゃってるんだけど!?
――あうぅ…………。
――……まあ、お説教は後にしようか……とにかく、最近他に質問してきた人の名前を教えてくれないかなぁ?
背後から聞こえてくる早苗の喚き声に耳を塞ぎつつ、智也はコピー君を問い詰める。
――え~とっ、さイきんって、いつカラいつまデダ?
――……処刑人が現れてから。
――え~~っと、全部ハ、オぼえてナイ。ヨンジュウニン以上いたから…………。
――……その中で、人の秘密を知って怒ってた人は何人くらい?
――ぜんいん。
「……………………はあ!?」
智也は声に出して叫んでしまった。
四十人……その内何人が実際に処刑人と契約しており、報復がどのような順番で執行されるのか……到底把握しきれない。しかも、それが契約者のすべてとも限らないのだ。
「うるさいっ、ていうか、あんた大体何なの!?友達一人もいないくせに、こう言う時だけ優等生面する訳!?」
「ちょっと、そんないい方したら駄目だよ……!それに、私は智也くんの友達だよ!」
「え?お前、マジで言ってるの……?」
早苗の顔から表情が無くなった――智也としても、そこまで大げさに引かれるのは心外だった。この状況で無かったら、寡黙キャラを崩して文句の一つでも言ってやるところだったが、今は彼女ごときにかまっている暇はない。
「白石さん、ちょっといい?思ってたより、事態がまずそうなんだ……。」
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『あいつ、井坂に見られてる時だけ頑張ってるアピールしやがって……なんで俺ばっかいつも怒られるんだよ!』
「――卑怯者っ、おべっかつかいっ、偽善者ぁっ……!」
「何の話、だよ……!?」
「黙れえぇぇぇっ――!天誅ッ!」
ボガッ、ゴスッ、ゴキッ……!
――
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『前から分かってた……ほんとは私が一番ブスだって思ってるんだよね……だったらっ、正直に嫌ってくれていいのに!陰では見下してっ……いっぱい悪口言ってる癖にっ、嘘ばっかりついて、ズッ友だとか言って……仲良くしてあげてるつもりでいるのが許せない!』
「嘘つきっ!裏切り者っ!お前の顔もほら、不細工にしてやるよっ……!」
「やめてっ、お願い顔はやめてお願いっ、やだやだやだ――!」
バァンッ……!
「よし、これでほんとの『お友達』だな!アハハハハハハッ……!おっと、契約者がブスだって認めちまったじゃねーか。いっけねぇっ……!ま、聞かれてねえから問題ないかっ!」
――
******************
『いつも命令ばっかり。『友達ルール』とか言って押し付けて来る癖に、気まぐれですぐ変えるし。』
『デリカシー無いのに、自分が機嫌損ねるとすぐ友達のこと責めて『絶交』とか言うし……あんな奴と友達でいたいなんて、誰も思ってないよ。』
『もうあんな奴、死んじゃえばいいのに。』
「なにせ、同時に三人から恨まれてるからなぁ?『お友達』だからって容赦はできねえな!」
「何っ!なんなのっ!?やめて、やだっ……!」
「自己中のクズがっ!今まで傷つけてきた人達の怒りを食らえぇっ……!天、誅っ!」
バコッ、ガンッ、ゴスッ、バンッ、バンッ、ボスッ……!
――
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