第25話 正義の鉄槌(4)

 秋の初め、さわやかな涼風が吹くなか学校に登校してきた智也は、クラス中が、いや、学年全体がざわついていることに気づいた。

 曰く、「チェーンメールで菅野元人の恥ずかしい写真が拡散された」らしい。智也は携帯電話を持っていないので見ていないが(連絡を取り合う友人などいない)、「撮影者が全裸の元人をバットでつつきまわし土下座させる」と言った内容のようだ。


 ――ずいぶんいい趣味だな。


 智也は不快感も覚えたが、一方で当然の報いだろうとも思った。今まで元人は何人もの生徒を公然と、あるいは密かに虐待してきたのだから。

 朝の会で教師が「このようなことは決して許されることではなく……」等と大真面目に注意しているのを、智也は冷ややかに聞いていた。今まで彼の、いや、彼だけでなく学校中のいじめを看過してきたのはお前たちではないか。騒ぎになったから学校の評判を気にしているだけだろう。偽善もたいがいにしてもらいたい。

 元人はバットでぼこぼこに殴られ、全治三か月の重傷を負ったそうだ。ついでに、差し歯を作る予定らしい。だが退院したとしても、学校に復帰するのはかなり苦痛だろう。彼の名誉は完全に地に落ちていた。果たして彼の「友人」で、こんな風に笑い話の種にされている者を、本気で慰めてくれる良心の持ち主はいるのだろうか?と言うより、むしろその「友人」達でさえも、例の写真を嬉々として転送していたかもしれない。


 ――まあ、それも自業自得だな。


 智也とて、同情してやる気はない。


 だがそれにしても、気になるのは犯人のことだ。

 話を聞くに、元人が部活終わりに倉庫に一人で行ったところ、背後から不意打ちされたらしい。そして、躊躇なく彼を蹂躙し続けた。彼に恨みを持っているのは間違いないが、それにしても常軌を逸している。だが、明らかに致命傷は与えないように「調節」する理性があった。智也にはどうも、犯人がそうした行為を「思い立って初めてやった」、とは思えない。

 しかもその容姿と言うのが、なんとも奇妙奇天烈だった。


 ――マスクにマント……正義のヒーローのつもりかな……?どんな神経してんだよ。


 そして何より気になるのが、犯人が鬼瓦のバットを持ち去った、と言うことだった。警察が介入するのを恐れて処分したのか。

 それとも…………。

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