サポ限に書いていたこと80 書籍の返品率から考える・1

◆はじめに

 日本には、見計らい配本という制度があります。書店が注文をしないのに、本の問屋であるトーハンや日販などの取次店(以下、取次)から一方的に送られてくる配本システムです。

 本は本来委託販売ですが、独立系の小さな書店はその段階で否応なしに代金を請求され、支払わなければなりません。

 そこに、出版社から書店への返品が認められているため、返品率が高くなっています。


 一方、欧米諸国では返品制度がほとんどないため、返品率が低い傾向にあります。

 書籍の返品率は国によって異なります。


 アメリカの書籍返品率は、約三十パーセント。

 イギリスの書籍返品率は、約二十パーセント前後。

 フランスの書籍返品率は、約十パーセント程度。

 ドイツの書籍返品率は、十五パーセント。(目標八パーセント)

 返品率が低いのは、すべての書籍を書店が発注していること、返品金額を次回仕入に充当し、返金しないことによるものです。


 中国のECサイトの返品率は約二十五パーセントであり、中国インターネット通販最大の販促イベント「双十一」の期間には六十パーセントを超える返品率を出すサイトもあるようです。

 中国では、ネット通販の七日間以内の無条件返品を可能にする法律があるためだと考えられます。

 

 アメリカの出版産業市場は、二〇一七年から二〇一九年にかけて減少したものの、近年は概ね横ばいから微増傾向にあります。しかし、新刊書を専門に扱う書店の数は減少傾向にあります


 イギリスでは、近年書店数が増加している。多様性や社会正義への意識が高まり、コミュニティの大切さが再認識され、主張のある書店を応援する機運が高まっているそうです。。


 ドイツの書店数は、二〇二〇年度には約四千店舗まで減少しました。

 ドイツでは、法律で二週間の返品可能期間が認められているため、返品率が約五十パーセントと、高くなる場合もあります。

 ドイツ人は合理性を重視する国民性。衣服や靴などでは、複数のサイズやカラーを注文し、気に入ったものだけを残して他は返品するのが一般化しています。 この習慣が書籍にも影響し、返品率が高くなる要因となっています。

 また、EUの規定に基づき、ドイツでは商品到着から十四日間は理由なく返品できる期間(クーリングオフ期間)が設けられている。 さらに一部の大手ECサイトでは、この法定期間をはるかに上回る百日間の無条件・無料返品期間を設けており、長期間の返品が可能なことも返品率が高い理由の一つです。



◆日本の返品率の推移

 日本における本の返品率は以下のように推移しています。

 一九七〇年代前半は、出版点数は二万点ぐらいで、返品率は三十パーセント未満でした。

 一九九〇年代の書籍返品率は三十五パーセントから四十パーセントの範囲でした。

 また、一九九六年には出版業界は売上のピークを迎えていました。その時点でも返品率は高かったものの、全体の売上規模が大きかったため、返品率の高さはそれほど問題視されていなかったようです。

 二〇〇〇年代に入ると出版点数は四倍の八万点を超え、返品率は四〇パーセント近くまで高くなり、二〇〇八年には配本書籍の実に四割が返品されるようになります。

 書籍の出版点数は二〇一三年がピークで約八万点が出版されていた。その後はじわじわと減少し、二〇二〇年には七万点を切るようになった。この年の返品率は三割台となっています。

 これは新型コロナウイルス感染症の影響で、休業店の商品や休校に伴う学校採用品の返品が行われなかったことに加え、電子書籍や電子図書館が注目されるようになった結果と考えられます。

 くわえて、日本の書店数は、過去二十年間で大幅に減少しています。主な理由は、本が売れなくなっていることと、日本独特の出版産業の構造が挙げられます。

 一九九〇年代の終わりには約二万三千店あった書店は、二〇一八年には一万二千二十六店にまで減少。さらに、二〇二四年には約一万店舗まで落ち込み、書店のなくなっている市町村は全国で二十六パーセントにのぼる統計があります。

 日本の書店最大の特徴は、雑誌を多く販売してきた点です。

 特に中小規模の書店は、雑誌の販売で利益を上げてきました。しかし、雑誌の販売も減少傾向にあり、書店数の減少に影響を与えています。また、地方の書店については、人口減少や高齢化、インターネットの普及などにより、売上が減少しています。これらの要因により、書店数は今後も減少する可能性があります。

 出版業界の目標としては、返品率二十パーセント以下とされていますが、実際の返品率は四十パーセント越え。ここ約二十年変わっていません。



◆最近の状況

 二〇二四年一月の書籍雑誌推定販売金額は七百三十一億円で、前年比5.8%減。

 書籍は457億円で、同3.5%減。

 雑誌は273億円で、同9.5%減。

 雑誌の内訳は月刊誌が二百十九億円で、同10.6%減。

 週刊誌は五十四億円で、同4.7%減。

 返品率は次のとおり。

 書籍が33.8%。

 雑誌が47.8%。

 月刊誌は48.4%。

 週刊誌は45.2%。


 二〇二三年は、電子コミックシェアが四千八百三十億円という90.3%を占めました。

 前年度と比較すると、次のとおり。

 電子書籍が四百四十億円の8.2%。

 電子雑誌が八十一億円の1.5%。

 前者は二年連続、後者は五年連続の減少しており、マイナス基調にあります。

 それでも、電子合計販売金額は五千三百五十一億円に達した。

 二〇二三年の紙の雑誌販売金額、四千四百八十一億円を上回り、電子コミックだけでも同様です。

 二〇二四年は、書籍販売金額を超えるかもしれません。


 書籍も雑誌も、販売部数はそれぞれ6.7%、13%という最大のマイナスを記録した二〇二三年は、これまでの悪化傾向をさらに進行した可能性を示しているかもしれません。

 二〇一一年と二〇二三年の部数を比較すると、つぎのとおり。

 書籍は、七億冊から五億冊。

 雑誌は、二十億冊から七億冊を割りこみ、三分の一にまで減ってしまいました。

 この十二年における雑誌の凋落が歴然であり、下げ止まりは見られず、雑誌のコミックスは電子コミックに侵食され続けるでしょう。



◆アマゾンの返品率

 アマゾンには、書籍返品はありません。

(実際にはアマゾンでも一定の条件下で書籍の返品が可能です。ただし、これは主に消費者が購入した商品を返品する場合で、出版社がアマゾンに対して書籍を返品するケースはほとんどありません)

 出版社から書籍を「買い切り」で仕入れています。つまり、一度購入した書籍は返品できず、在庫リスクをアマゾンが負っています。つまり返品がないため、書籍返品率はゼロです。

 出版社では、返品された書籍の損失が大きな問題でした。

 講談社をはじめ大手出版社がアマゾンと直接取引をはじめた理由は、配本の効率化と返品問題の解決があったからです。

 従来は出版社から取次会社を経由して書店に本が卸されていましたが、アマゾンとの直接取引により、出版社から読者に本が届くまでの日数が短縮。 流通の効率化が図れ、利便性が向上しました。

 また、従来の取次ルートでは、書店は一定期間内に売れ残った本を出版社に返品していました。返品率は書籍で三十三パーセント、雑誌で四十パーセントに上り、出版社の損失が大きな問題となっていました。

 アマゾンとの直接取引では返品がないため、返品リスクを最小限に抑えられます。さらに、アマゾンはAIなどを活用して需要予測の精度を高め、過剰在庫を減らすことで返品リスクを低減する計画をしています。



◆電子書籍の返品率 

 電子書籍の場合、物理的な返品という概念は存在しないので、返品率はゼロです。(電子書籍は物理的に返品することはできませんが、一部の電子書籍プラットフォームでは、誤って購入した場合や特定の条件下で「返金」が可能です。つまり、「返品」ではなく「返金」です)

 電子書籍市場は拡大傾向にあり、今後も伸びていくと考えられています。普及により、印刷・製本費用や返品制度が不要となり、一冊の書籍損益分岐点が低くなるため、出版採算性がある著作物が増えると予想されています。



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