第4話 ルート解放ボーナス

「な、なに……?!」


 突然現れたメッセージウィンドウらしきものに目をこする。何度も目を疑ったが、依然ウィンドウは存在を主張してきた。しかも、右を向いても、左を向いても視界に入ってくる。


(さっき使った毒、吸っちゃった? 幻覚?)


 恐る恐る空中の文字に触れてみるが、何の感触もない。指を突っ込んだ文字の箇所が多少ゆがんだだけで何も起きない――と思ったら、ピロンと軽いSE音が鳴って、文字が溶けて新しい文面が浮かび上がる。タップ仕様だった。


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《隠しメインクエスト:悪の救世主》


あなたはヒロインに敗北しました――。


しかし、あなたは死の運命に抗いました。

予定外のあなたの生存はヒーローたちの脅威となりうるでしょう。


ですが、依然あなたの命は危険です。

現状を打破するためには、ネームドヴィランで徒党を組むほかありません。

破滅が待ち受けているあなたの仲間を救い出しましょう!


チュートリアルを始めますか?


YES/NO

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 そこまで読んで、私はウィンドウに表示された文章に軽いめまいを覚えた。


(いつの間にこのゲームは、乙女ゲームじゃなくなったの……?)


 魔王が主人公のMMORPGか、何か? 

 でも、もしこれが幻覚じゃないとしたら、何か脱獄の手掛かりになるかもしれない。人間、困ると何かにすがりたくなるものだ。ここにきて、私は初めて両手を組んで神に祈りを捧げた。


「えい、だめでもともと!」


 チュートリアルのYESをタップすると、またウィンドウの文字が切り替わっていく。


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《チュートリアル 牢獄からの脱出》


まずは、隠しルート解放ボーナスを一つ選んでお受け取り下さい。


どの報酬を受け取りますか?


◇すべてを破壊する怪力 


あなたはすべての物質を破壊可能な力を手にします。

ただし、力加減が困難になります。


◇適正魔術の限界超越 


あなたの適正魔術「闇(魔)」「水(氷)」の威力が人の限界を超越します。

なお、適性のない魔術に覚醒することはありません。


◇【スキル:女王の命令】獲得 


一定時間、あなたの命令に意思を持つすべての者が逆らえなくなります。

有効時間および成功確率はスキルレベルに左右されます。

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 説明にデメリットらしき一文があるおかげでありがたいような、悩むような。とりあえず、すごいとは思うがスキルはやめておくべきだろう。


 結構時間がたったが、先程の男も一向に来ないし、王子もカードをよこしただけで訪ねてくる様子がない。仮に人間以外に使うにしても、ねずみどころか蜘蛛一匹見当たらないこんな場所で他者を操るスキルを手に入れてもここから出られなければ詰みだ。無理して獲得しても、スキルレベルで効果が変わるっていうのも不安だし。


 となると、怪力か魔術強化だけど……。怪力があれば、鉄格子を捻じ曲げて外に出られるだろうが、今後日常生活に支障が出そうだし、魔術大国であるこの国で王子たちを相手取らなければならない今、リーチが心もとない――。


(となると、残るは魔術強化か。)


 他の二つに比べると、効果がぱっとしない気もするが一番安全そうに見える。ただ不安なのは威力が強まったところで鉄格子から出られるかどうか?ということだ。全属性使えるようにしてくれる、とかいうのだったら迷わず受け取るんだけど……。


 この世界の魔術系統は「火・水・土・風・光・闇」の六個に分けられており、さらにその上位互換が「炎・氷・大地・雷・聖・魔」となっている。「水」と「氷」って何が違うの?と聞かれたら、操れる質量が多くなるのと温度をいじれるか否かとしか言えない。「炎」も同じ。「大地」はそのまんま、「雷」は天候を操れるようになり、「聖」は魂の保護ができるようになって精神的苦痛を癒せるようになるだったか。

 

 「魔」はまず、人間が持っていない属性なので詳細不明だけどおそらく破壊。こんなところだ。そもそも乙女ゲームだし、属性に関しては案外適当に決められているのかもしれない。原作の知識を思い出しても簡易な記述の記憶しか出てこないし。 


 仮に、私の使える魔術に限定して強化が行われた場合、「氷」はいいとして、「闇」が「魔」属性に昇華されるんだろうか。そこが問題である。「闇」属性は主に幻惑、デバフ系の魔術のため、これもまたかける相手がいないことには強化されても何にもならない。


(氷…。氷が強化されたら、金属に何かできる? 仕事しろ、私の脳みそ!)


 今、必要なのは理科の知識……。だが、前世の私はばりばりの文系であった。理科の知識など、バラエティや子供教育番組で見る実験コーナーが主で専門的な知識など絞り出そうにもこの脳みそにはもとから存在しない。こんなことなら、数学はダメにしても理科は頑張っておけばよかった。理数系を捨てた仇が来世で返ってくるとは思わなかった。


 金属が冷えると、体積が減って多少縮む……。だめだ、そんなんじゃ通り抜けられない。それに冷えた金属が皮膚にあたったりしたら離れなくなっちゃう。下手したら凍傷になる。シャーベットを作ろうとして冷凍庫に入れた金属製のバットを不用意に素手でさわり、水でとかした記憶がよみがえった。あれ、痛いんだよね。


 あと思い出せるのは、氷点下の場所だとバナナで釘が打てるとか……。と、そこまで思い出して急にある動画サイトで投稿されていた面白実験動画を思い出した。氷魔術の威力が人の限界を超えるというのなら、恐らくアレも再現可能だろう。


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◇ 適正魔術の限界超越 を 選択しますか?

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 YES!!

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