能力値も転生先もリセマラして最強勇者になってみた!

小狐ミナト@ダンキャン〜10月発売!

リセマラ


 俺は今、美しいロリっ子から非常にややこしい話を聞かされている。なんでも、俺は死んだらしい。

 死んだのはいいとして(良くないけど)、勇者の素質があるらしい俺はこれから勇者として転生し、世界を救わないといけないらしい。


「き、聞いているの?」

「あ、えっとすみません」

「ですから、あなたは勇者として無数の世界の中の一つを救っていただきます」

 舌ったらずな女神様は、俺の脳内に直接映像を送り込んできた。宇宙のような空間にたくさんの世界が映し出されている。なんというか、警備室にある防犯カメラの映像……みたいな。

 その無数の世界、とやらにはゲームやアニメの中で見るような生物や、魔法を使っているようなそんな映像もあった。勇者……か。

「世界を救うったって、俺さっきまでただの高校生だったんすよ」

「勇者様の中には赤ん坊から老人まで、たくさんの方々がおりますよ。それに、転生前の力は関係がないの」

 女神様は「ふふん」とボブカットの白髪を靡かせるとパチパチと瞬きをした。

「私たち女神は世界を救うことが使命なの」

「はぁ……」

「だから、各世界に送ることが許されているのよ」

 そういうと女神様は少し大きめのタブレットのようなものを俺に寄越していた。

「ふふふ、あなたの世界に馴染みのある形であなたの能力を決定することができるわ」

 俺の世界で馴染みのある形? 

 確かに、タブレット端末は今じゃ誰でも持ってるし……。俺は渡された画面をスワイプする。そこには日本語でこう書かれていた。


 見た目カスタマイズ

 装備抽選画面

 能力抽選画面

 世界抽選画面


「なんだこれ?」

「あら、あなたの世界ではこういうのが流行ってるんでしょう?」

「流行ってるって……」

 なんだかゲームの最初の画面みたいだ。見た目のカスタマイズ……って。画面に映っているのはパンツ1丁の俺だった。自分で言うのも難だけどめっちゃ貧相な体型だ。小さなナイフを持って動いている。画面をタッチして動かせば画面の中の俺が回転する。ズームもできるしタップすればリアクションも取る。

 まじでゲームだ……。

「まずは種族とベース体型か」

「そうね、一つ説明しておくわ」

 女神様は俺の前に腰を下ろすと優しく微笑んだ。真っ白で何もない空間なのにまるで森の中にいるような香りがする。

「あなたたちが住んでいた世界はね、すべての世界の中で一番最初に原初の勇者様によって救われた世界なの。だからあなたたちは勇者様の血筋ってことね。だから、あなたには勇者の素質がある。ただ、平和すぎる世界に生まれたが故に力が足りない。その力を補うのが私たち転生神の役目」

 女神様は説明をしながら俺の脳内に映像を送ってくる。どうやら俺が住んでいたあの世界は何万年以上も前に勇者によって救われた世界らしい。

「強く?」

「そう、装飾抽選、能力抽選の画面をみてくださる?」

 俺は言われた通り画面を操作する。そこにはまたパンツ1丁の俺。そしてその横には装備が確認できるスロットが用意されていた。現状、「ぬののパンツ」のみ。

「抽選ボタンを押してみてちょうだい」

「あぁ」

 俺は画面下部の「抽選開始」ボタンを押した。すると装備スロットがピカピカと光り、画面が一瞬光天したあと、さっきまでパンツ1丁だった俺はゴツゴツした装備を身につけていた。

「んぅ、ブロンズ装備一式……?」

「スロットをよくみて、そこに数値があるでしょう?」

 女神様の言うように細かい部分を見てみてると装備一式の横に小さく40と書かれている。

「それが防御ボーナス値よ」

「な、なるほど?」

「それが多ければ多いほど良いと思ってもらっていいわ。まぁ、40だとあまり良くないわね。もう一度抽選してみたらどうかしら?」

「もう一度やっていんですか?」

「えぇ、気に入るのが出るまでやってもいいわ。それに、変えたくない装備をロックすればそれ以外の抽選もできるわよ」

(まじでゲームかよ)

「やってみます」

「えぇ、あなたは世界を救えればまたここに戻ってこられるわ」

「どういうことですか?」

「勇者の素質を開花させられればあなたはもっと強いまま次の世界へ旅立つことができる。記憶を保持したままね。けれど、あなたが世界を救うのに失敗したら……」

「したら?」

「あなたの記憶は消され、普通の生命としてどこかの世界に生まれることになるわ。それは平和な世界か、そうでないのか、人間でもないかもしれないわね」

 そうか、つまり俺はあの平和な世界に生まれ落ちることができるかどうがわからない。どっかの虫になるかもしれないし……生まれてすぐに酷い目に遭わされるかもしれないとか、めっちゃ怖い。

 じゃあ、俺は勇者として世界を救い続ける……。これだけ援助があれば俺だってきっと……。

 俺は画面をもう一度タップする。

<ドラゴン装備一式 100 スキル付与あり>

「スキル付与?」

「あら、なかなか良いのを引いたわね。スキル効果はスロットの次のページにあるかしら」

 スロット部分をスワイプするとそこには


<スキル>

火炎軽減 50

凍結軽減 50

魔法軽減 50

毒耐性

麻痺耐性

一式ボーナス 防御力 500


<デバフスキル>

俊敏 -30


「わかるかしら?」

「なんとなく」

「じゃあ、続けて。自分の納得がいく装備や能力が出るまで……」



*** *** ***


 あれから何日が経っただろう。

 俺はまず、装備にどんなパターンがあるのかを調べることにした。いわゆるリセマラってやつだ。ソシャゲなんかでは良くあるが何度もリセットマラソンをしてガチャを引きまくることで有利な装備が出るまでやり続けることだ。

 俺の場合は気に入った装備があればロックできたし、時間は無制限。この空間は腹も減らないし喉も乾かない。女神様の力なのか? いや、そんなことどうでもよかった。


「勇者の装備シリーズ!」


<勇者装備一式>

すべてのステータス ×999


<スキル>

すべての攻撃の無効化

すべての魔法の吸収

装備者のすべての能力値 ×999

魅力 ×999

全てのデバフ魔法無効化


<デバフスキル>

なし


 何万回もやり直した結果この装備が最高だ。俺はやっとの思い出この勇者装備を手に入れると次は「能力抽選画面」へと移った。


「あら、装備は決まったの?」

「はい、いいのが出ました」

「能力について聞きたいのかしら? ふふふ、能力スロットを見てちょうだい」

 勇者の装備をした俺の横にスロットが出てきた。

「ここがあなたのベース能力」

 ベースの能力値もゲームのようにHP、MP、力や攻撃力……完全にゲームだ。

「こっちは特殊能力」

「特殊?」

「えぇ、とりあえず一度抽選をしてみてくださる?」

 俺は抽選ボタンを押す。装備の時と同じようにスロットが光り、一瞬画面が光天すると……。


<ベース能力>

HP 100

MP 40

力 80

攻撃力 100

防御力 0

俊敏性 90

回避 90

幸運 1000


<特殊能力>

HP自動回復

 HPが自動回復します

魔物使役

 倒したモンスターを使役できるようになります

魅惑の目

 視線があった恋愛対象を魅了し思いのままにできます


「な、なるほど……」

「あら、防御力が0になってしまっているわね。これだと防具の意味もなくなってしまうからやり直しね」

 確かに、防具のステータスは×だから0のステータスがあると意味がなくなってしまう。

「な、長いっすね」

「えぇ、能力の抽選で時間がかかる勇者候補様が多いわね」

「がんばります」



*** *** ***


 多分、装備のリセマラより時間がかかったと思う。というかもう時間の感覚が狂っていて若干おかしくなりそうだった。

 

<ベース能力>

HP 9999999

MP 9999999

力 9999999

攻撃力 9999999

防御力 9999999

俊敏性 9999999

回避 9999999

幸運 9999999


<特殊能力>

自動蘇生

 死亡時に蘇生します。この効果は永続します

言霊

 スキル詠唱後に想像したことが実際に実現します。この想像に限りはありません。

魅惑の使役

 魅了した相手を思いのままに使役できます。


「すごい粘りだわ。でも魅惑の使役は弱い能力だけど……」

 それもそうだ。

 でも、その……異世界転生の夢! ハーレムを作るには多分必要な能力なんだ!

 まぁ、見た目カスタマイズもびっくりするぐらいなイケメンにしてますけどね。


「じゃあ、最後。世界の抽選に進みましょうか」

「世界も抽選するんですか?」

「えぇ、まずは押してみてちょうだい」

 俺は世界抽選画面に映って抽選ボタンを押す。

 同じように画面は光天し……


<世界>

攻略難易度 A

ボス ベルゼブーブ

仲間 男3人(回復、魔法、盗賊)

初期位置 中心都市


「うーん、少し微妙かしら」

 女神様は苦い顔だ。

「そうですか?」

「攻略難易度はAでしょう? 一番下はEで最高難易度はSSSだから中間くらい。でも、初心者には厳しいかもしれないわ。初期位置は中心都市で生活がしっかりできそうなのはいいところだけれどね」

「なるほど、じゃあこれも……」

「なんどか抽選してみるといいわ。初期位置はロックをお勧めするわ」

「はいはい」

 仲間が男3人な時点でリセマラするって決めてましたけどね。

 まぁでもこれは早く終わりそうだな。


*** **** 


「できました」

 女神様は俺の画面を覗き込んで笑顔になる。


<世界>

攻略難易度 E

ボス ピクシーキング

仲間 女3人(回復、回復、弓術)

初期位置 中心都市


「これから数日で攻略できそうね」

「そうなんですか?」

「えぇ、ピクシーキングはそもそも戦う必要がないかもしれないわ」

 ハーレムを楽しもうと思ったのに……。

「まぁ、異世界の諸々に慣れる必要があるから、いいでしょう。ではすぐに出発しますね?」

「はい、おせわになりました」

「では、いってらっしゃいませ」


 女神様のキスで俺は意識を飛ばした。

 あぁ、目覚めたら美女に囲まれ、ヤ……じゃなくて色々いい思いをしてそれで勇者として称えられて……。

 意識が遠くなる。

 体が少し重くなったのを最後に俺は完全に意識を手放した。


*** ***


「ん……」

 俺は長い間眠っていた気がする。

 目が覚めると冷たい石の上、体は全く動かなかった。

 かろうじて瞼を開くと石造りの建物の中で、体は痛まないものの、嫌な感じだ。

 俺の周りに数人の人間がいるようだった。


「なるほど、勇者のステータスは?」

「すべて最大値でございます」

「ほぉ、では特殊能力は?」

「こちらも優秀なものになります」

「なるほど、では最後に装備は?」

「こちらも最大値、最高装備、スキルチョイスも最大のものでございます」


「では、こちらの世界を救うのは容易か?」

「はい、このステータスでは数日とかからないでしょう」


 なんでだ? 

 体が動かない。全く動かない。

 俺は必死で視線を横にずらす。目を動かすだけで激痛が走る。

「ぐぐっ……あぐっ」

「長老、勇者様が」

「お前たち、魔法を緩めるな!」

(は?)

「この能力値ではすぐにこの世界を征服し、支配しようとするだろう。勇者を葬れ!」

(何、いってんだよ! くそっ! 動け!動け!)

勇者再抽選リセットマラソンだ」

 俺は強い衝撃と共にその短すぎる勇者人生を終えた。





 

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