2日目

久田、純也で布団を片付ける。

健一郎はストレッチ。

女性陣、歯磨き。

井ノ上が玄関を確かめるとゴミはもう無い。

そして、朝食のサンドウィッチと飲み物が置いてある。


井ノ上

「……気付かなかった。」


各々朝食を食べ終えて、ミッション探し再開。

隈なく探すが、なかなか見付からない。

純也、トイレットペーパーの袋の中に埋もれていた青い防犯ブザーのような物を見付ける。


純也 「何かあった!」


皆が集まる。


佐倉

「これキッズ携帯ですね!小学生の時、持ってました。」

健一郎

「へぇ〜。こんなの持たされるんや。」

純也

「僕の頃は考えられない。」

井ノ上

「どうやって使うの?」

佐倉

「基本的に登録された番号だけ掛けられる電話です。メールもおんなじ感じ。」


佐倉、キッズ携帯を操作する。

すると、一件だけ登録された電話番号が出てくる。

佐倉、思い切ってスピーカーで掛けてみる。


謎の声

「皆さん、こんにちは。お元気デスか?」


沈黙。


謎の声

「ノリが悪いなぁ。まぁ良いです。本題と行きましょう。」


緊張感が走る。



謎の声

「ミッション。

この役貰ってどうだった?

初めて語ろう、本音トーク!

これから、皆さんには真実を語って頂きます。

お題は、さっき言った通り。私判断で一等賞を決めます。」



暫くの沈黙。

先陣を切って、純也が話し出す。

純也の役は、直ぐ死ぬ老人。


純也 

「僕は単純に嬉しかったです。ただ、本命は健一郎君の役でした。」

井ノ上

「一生懸命頑張るのみです。」

健一郎

「俺は、役が貰えれば何でも。」

佐倉

「私はウキウキしてます!」

久田 

「……もうちょっと出番が欲しかったかな。」

ゆうき

「与えられた役を演じ切るだけです。」


井ノ上の役は、二番手で悪役。

健一郎は重要なコメディリリーフ。

佐倉はヒロインの友達役。

久田は直ぐやられるナンパ男役。

ゆうきの役は、序盤に登場する先生A。


謎の声

「今回の一等賞は……。

一番素直だった健一郎君!おめでとう。

さぁどうする?」


健一郎

「純也さん解放で。」


健一郎、即答。

純也、硬い表情。


健一郎

「だって、猫ちゃん、心配でしょ?

仕事もあるだろうし。早く帰ってあげなきゃ。」

純也 

「……確かにそうだね。」


扉が開く音。

黙って仮面二人組に付いて行く純也。

ゆうき、キッズ携帯の時計を確かめる。

時計は深夜0時。

念の為に外を見るが、当然まだ明るい。

キッズ携帯をポケットに入れておく。


久田 

「即答だったな。」

健一郎

「だって、視線がキツいんだもん。」

井ノ上

「純也さん、相当懸けてたみたいだからな。」

ゆうき

「そんなもんよ、この世界。」

佐倉

「……厳しいですね。」

井ノ上

「ところで皆さん、もし十万円手に入れたら何するんですか?」

ゆうき

「えっ?」

佐倉

「私は推し活ですっ!」

久田 

「俺は機材買うかな。」

健一郎

「生活費に回す。」

井ノ上

「俺もかな。」

ゆうき

「大事に備えて貯金するわ。」

健一郎

「……ぼちぼち探しますか。」


各々、探し始める。

ゆうき、飾り棚にある黄色い箱に違和感を感じる。

何気なく取り、中身を確認すると音声翻訳機とメモが入っている。


ゆうき

「あった!」


ゆうき、皆が集まったのを見計らってメモを読む。



ゆうき

「ミッション。 

正しく発音言えるかな?英語でGO!

グローバルな視点を持ってこその俳優。英語の発音の違いが分かってこそだよね。

そこで皆さんには、初めての海外案件に備えて発音レベルを競ってもらいます。

ルールは簡単。

絵から二つの似た発音の単語を拾って、音声翻訳機に認識してもらえれば勝ち。

別紙の絵を見てね。」



ゆうきが読んだメモとは別で、紙がもう一枚入っている。

そこには、赤い旗を持ったジャンヌダルクの絵。


井ノ上

「……謎解き?」

健一郎

「この絵から連想する単語を言えば良いって事やろ。」

佐倉

「うーん。」

ゆうき

「取り敢えず、言ってみる?」

健一郎

「どーぞ。」

井ノ上

「ここはレディーファーストで。」

ゆうき

「……じゃあ、佐倉さん行く?」

佐倉

「ここは先輩が……。」


久田、そんな皆を横目に音声翻訳機を取る。


久田 

「red led」

翻訳機

「赤 導いた」


ゆうきのポケットから着信音が鳴る。

皆、驚く。

ゆうき、渋々ポケットからキッズ携帯を出す。

スピーカーにして皆の真ん中に置く。


ゆうき

「もしもし。」

謎の声

「久田君、お見事!日々の勉強の成果だね!」

久田 

「まぁ、これくらいはねっ。ありがとうございます。」


久田、照れ笑い。嬉しそう。


謎の声

「解放権を獲得したけど、どうする?」


久田、ゆうきのズボンを見ながら


久田 

「ゆうきさんで。」

謎の声

「じゃあ、ゆうきさんで決まり……」

ゆうき

「ちょっと待って!ここで私にしたら、久田君も道連れにするよ。」

久田 

「へ?」

ゆうき

「私、まだ解放権使ってないから。」

久田 

「……。」

井ノ上

「どうする?久田君。」


久田、井ノ上と健一郎に手を差し出す。


健一郎

「まぁ、そうなるわな。」

井ノ上

「だよねぇ。」

久田 

「二人で決めて頂ければっ。」

健一郎

「せこー。」

井ノ上

「どうする?」

健一郎

「うーん。」

井ノ上

「そー言えば、佐倉さん、もう少しでタイムリミットだよね?」

佐倉

「えっ?まぁ、そうですけど……。」

健一郎

「佐倉さんは?」

久田 

「俺はどちらでも。」

佐倉

「私は嫌です!」

健一郎

「何で?」

佐倉

「楽しいから!」


井ノ上と健一郎、佐倉の真っ直ぐな瞳に押される。


井ノ上

「ならさ、本当の事話して決めてもらわない?」

健一郎

「どゆこと?」

井ノ上

「生活費に回すなんて絶対嘘でしょ。」

健一郎

「……。」

井ノ上

「俺は本当の所、新作のゲームが欲しい。」

久田

「なるほど。」

健一郎

「……。」

久田 

「俺がゆうきさんを選んだ理由は、こっそりキッズ携帯を持ってたから。」

ゆうき

「……それは」

久田 

「それに、このゲームの主犯を知ってそうだから。」

ゆうき

「予想ってだけだよ。」

健一郎

「……俺は、グローブを新調したい。」

久田 

「……。」

佐倉

「どうするんですか?」

久田 

「決められないから、ジャンケンして。」

井ノ上

「性格悪すぎひん?」

久田 

「こうなったら賞金ゲットしたいんで。」

健一郎

「分かった。俺、降りるよ。」

井ノ上

「え?何で?」

健一郎

「こんな事に労力使うより、舞台に集中したいから。」

井ノ上

「それは、俺だってそうだよ。」

佐倉

「じゃあ、久田さんとゆうきさんの権利使って、お二人を解放するのはどうでしょう?」

ゆうき

「使わないよ、私。」

久田 

「……。」

謎の声

「久田さん、どうしますか?」

久田 

「じゃあ、解放されます。」

ゆうき

「えっ?」

久田 

「だって、解放されるのが目的ですもん。」

健一郎

「何だよ、それ。」

久田 

「ここ稽古場だし、台本も持ってるんだから集中出来るでしょ。

俺は風呂に入りたくなった。」

井ノ上

「……。」

久田 

「それじゃ。」


久田、仮面の二人組と出て行く。

健一郎、一緒に出ようとするが押し返される。

扉が閉まる音。 


健一郎

「腹立つなぁ!」


健一郎、扉を叩く。


井ノ上

「……落ち着こうよ。冷静になろ?」

健一郎

「腹立たないの?」

井ノ上

「……まぁ、気持ちは分からなくもないから。」

健一郎

「……。」

佐倉

「あの、読み合わせしません?台本。」

井ノ上

「そうしよう。ね?」


佐倉、井ノ上、健一郎、三人で読み合わせを始める。

ゆうき、一人黙々とミッションを探す。

外はすっかり暗くなっている。

内線電話が鳴る。

井ノ上が出る。


井ノ上

「あっ!そうでした!忘れてました!」


井ノ上、受話器を胸に当てて皆の方を向く。


井ノ上

「朝以降、何も食べてないですよ!何か食べましょう。」


皆、そう言えばと注文する。


井ノ上

「後、佐倉さんに代わります。」


佐倉、恐る恐る電話に出る。

暫く話して、電話を切る。


佐倉

「急ですが、私、帰宅命令が出ました。母が迎えに来てくれたようです。

最後まで居られなかったのは残念ですが、ここまで生き残れて楽しかったです!

これから宜しくお願いします!」


佐倉、一礼すると扉から外に出る。

他の三人、そんな佐倉をボーッと見つめている。

健一郎、我に返る。


健一郎

「さっき、しれっと出れば良かった。」

井ノ上

「何か変な気分だよなぁ〜。残りたいような残りたくないような……。」

ゆうき

「取り敢えず、食べたら寝よう。」


手早く夕食を終わらせ、各々で協力して寝床を作る。

昨日とは打って変わってスカスカの稽古場。

三人共、どっと疲れて眠りこける。







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