第4話:ボスとの会敵、エレクとして。


 ルーカスが荷物を整理している間、俺も準備を整えていた。後を付けてもバレない様に気配遮断系のアイテムを買い込んだ。一縷の望みを掛けてスケベな本が無いかも、執事に聞いてみたが。


「何をおっしゃいますか。そんな物がある訳ありますまい」


 ネットで簡単に入手できる環境に慣れ過ぎていたが、アレはテクノロジーの賜物であったらしい。やはり、当初の計画通り。こっそりと後を付いて行くしか選択肢は無さそうだった。


「行ってらっしゃいませ。ルーカス様!」

「あぁ。行って来る!」


 門番だけでなく商人達にも見守られ、再びルーカスはダンジョンへと潜って行く。彼らが去るのを待ってから、俺も突入した。

 購入したアイテムを使用してルーカスを見失わない様に追いかける。幸い、入り口付近は1本道だったので迷うことも無かった。


「ハァッ!!」


 少し開けた場所に出た。そこでは、ルーカスが大量の魔物を相手に臆することなく立ち回っていた。スライム程度では戦いの輪に入ることも適わず、ゴブリンやコボルトは幾ら応援を呼んでも切り捨てられるだけだった。

 購入したアイテムの中にあった望遠鏡を取り出してルーカスを覗き込むと、彼のステータスが表示された。


【名前】:ルーカス

【年齢】:20

【職業】:勇者

【レベル】:7

【体力】:35

【魔力】:20

【攻撃力】:35

【防御力】:35

【俊敏性】:35

【固有スキル】:成長+


「マジかよ」


 同じなのは年齢だけ。分かっていたことだが、どのステータスも高水準だった。少なくとも、この階層で苦戦する敵は存在しないだろう。だが、ボスに挑むには少しばかり足りない様にも感じた。

 雑魚敵を殲滅すると周囲には素材や金貨がドロップしていた。その中で価値の高い物だけ拾うと後は全部放置して、先に進んでいく。


「(お、役得だな)」


 持ち主が居ないなら俺が拾っても良いだろうと魔が差した瞬間、脇を擦り抜けて行く者達が居た。貧弱な装備で身を固めたで乞食の様な連中だった。


「へ、へへへ。流石ルーカス様だな、こんなはした金には見向きもしねぇなんて」

「このまま付いて行こうぜ」


 まるで使命も決意も感じない薄汚れた連中が後を付けて行くのを見て、俺はチャンスだと思った。連中の後を付いて行けば、俺の気配にも気づかれ難くなるのではないかと。

 しかし、こんなイベントはゲームにはなかったはずだ。疑問に思いながら後を付けて行くと、直ぐに理由が判明した。


「見ろよ。アイツ、宝箱も放置してやがる!」


 もはや敬称を付けることも忘れて、浅ましくドロップ品を拾い集めている連中の目に入って来たのは仰々しく設置された宝箱だった。

 どうして開けられていないのか? という不自然さもあったが、アイテムを拾い続けていた彼らには既に自制心と言う物が存在していなかった。彼らが宝箱を開ける前に、俺はフロアを通過した。


「うわ! 何だこりゃ!?」


 俺が通り過ぎた後、フロアは紫色のガスに満たされていた。分かりやすい位にトラップだったが、知識さえあれば引っ掛からずに済む。

 視線の先にいるルーカスは気にした風もなく只管に進んでいく。だが、何処か焦っている様にも見えた。


「(期限を気にしているんだろうか?)」


 ダンジョンの攻略には期限が設けられていた。一定の期間で、特定の階層まで攻略しないと名声と言うポイントが下がり、これが0になると街に居られなくなると言う物だ。

 と言っても、ダンジョンの攻略が開始されてから日は経っていないし、期限を気にするのは早すぎる気もする。理由を気にしながらも、俺はルーカスの後を付けて階層を下って行く。


「グゴッゴオ。ブギィ!」

「グルルァオ!」


 徘徊する魔物はゴブリンやコボルトからオークやウェアウルフへと変わっていた。多少の苦戦はしながらもルーカスは進んでいく、ドロップするアイテムは高額な物へと変わって行く。


「(やっぱり、コイツって勇者なんだな)」


 決してサポートするつもりは無かったが、改めて出し抜く相手の強大さを思い知ると身震いした。そして、俺の記憶の中にある特定の階層へと辿り着いた。

 しばらく、一本道が続いたさき。広大なフロアの中央には、これ以上の進撃を阻むようにして巨大なイノシシが陣取っていた。


「ひっ……いや……」


その隣には、一糸纏わぬ少女が怯えた顔をしていた。イノシシは嬲る様に肢体を舐め回し、あるいは潰さない様に伸し掛かったりしていた。この行いに堪らず、ルーカスが飛び出していた。


「卑しい魔物め! その娘を放せ!!」

「ブァオオオオオオ!!」


 耳を劈かんばかりの咆哮が響き渡る。フロアボスとの交戦に入ったが、俺の視線は少女に釘付けだった。

 イノシシの唾液に濡れてテラテラと光る肢体が艶めかしい。目尻に浮かべた涙に、強烈に嗜虐癖を刺激された。先に試した天雅(スライムオナホ)とは比べ物にならない程の興奮と変化が発生していた。震える声で言う。


「ステータス、オープン」


【名前】:エレク

【年齢】:20

【職業】:侯爵家嫡男

【レベル】:2

【体力】:10(+30)

【魔力】:00(+30)

【攻撃力】:05(+30)

【防御力】:12(+30)

【俊敏性】:03(+30)


 現時点で、俺はルーカスを上回るだけのバフが掛かっている。変化はソレだけには留まらない。俺の中にドス黒い感情が沸き上がっているのが分かる。


「ヤりたい」


 股間を通して、エレクと言う人物の性根が蘇った様だった。滾る欲望をぶちまけたい。この手であの柔肌を引き裂きたい。

 だが、残った理性が強烈に否定する。そんな悍ましい欲望に従えば、俺はあそこにいる図体のデカイ獣と何も変わらない畜生に成り下がると。


「(いや、だが俺はエレクだ。そんな、畜生だろう?)」


 浅ましいことに、俺は唾棄すべきエレクと言う男の性根に甘えようとしていた。こんな感情が一瞬でも過ったことを恥じる。

 バッグから取り出した短剣で自らの太ももを刺した。驚くべきことに、刃は表皮を薄く切り裂いただけだった。だが、その時に発生した痛みは幾らかの冷静さを取り戻させてくれた。


「(いや、ルーカスとボスが共倒れになる可能性だってあるかもしれないんだ。もう少し、収まってからでも)」


 だが、戦いはイノシシの方が優勢だった。やはり、レベル的にも早すぎるのではないかと言う懸念は的中していたのだ。ならば、お互いが消耗するまで待機しようかとも考えたが、既に理性は限界に達していた。


【体力】:10(+50)

【魔力】:00(+50)

【攻撃力】:05(+50)

【防御力】:12(+50)

【俊敏性】:03(+50)


「ウォオオオオオオ!!」


 先のイノシシの咆哮にも劣らぬほどに声を張り上げて、俺は邪魔なバッグをフロアの入り口付近に捨てて、巨体を揺らしながら乗り込んだ。


~~

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