ぬいぐるみ作りました!

木曜日御前

本編

 

 仲良くしてくれる人募集!

 創作で異世界ファンタジー恋愛もの

 書いてます(●´ω`●)

 うちの子もよろしくね

 #仲良くしてくれる人いいね

 #仲良くしてくれる人のぬいぐるみ作ります

 #創作小説垢と繋がりたい

 #読み専

 

 彼女は始めばかりのSNSアカウントにそう投稿した。ハッシュタグと文面と共に添えられた画像には、手作りと思われるブタのぬいぐるみ。よく見れば、彼女のアカウント画像もブタのイラストだ。

 

 暫くして、そのいいねは5人ほどまで伸びていった。と言っても、ハッシュタグがあまり使用されてないせぃ、そこまで伸びなかったのだ。

 

 それでも、彼女は嬉しかった。自分と繋がってくれる人が、世界にこんなにいるとは思わなかったからだ。

 その5人をフォローし、彼女は宣言通り、あっという間に5体のぬいぐるみを作った。5人のアイコンを模した可愛くて面白い小さなぬいぐるみだった。全部作ったあと、自分のアカウントにぬいぐるみの集合画像を貼った。

 

 フォローされた人達は、その写真を見て、反応はそれぞれ。フォローバックした人も、コメントを返した人も、いいねも、引用して紹介してくれた人もいた。

 

 彼女はその反応にまた嬉しくて、この人たちがもっと喜ぶことをしたくなった。なので、彼女はその5人の作品を読むことにした。

 

 彼女は、まず最初にいいねしてくれた人の話を読んだ。その人は妹モノの異世界ハーレムを書いていた。その人のアイコンは作者が一番好きなスライムの妹のイラストだった。

 彼女は読んだ上で、彼の作品の感想を書きました。

 

『妹達が皆優しくて、羨ましい世界でした。主人公はこんな妹達大切にしてあげてほしい』

 

 そして、彼女は作ったスライム妹のぬいぐるみを手に取り、壁に投げつけた。

 

「あんな! 都合いい妹なんかいねぇよ! 妹なんて私から全て奪っていくやつはなんだ! しかも、主人公も、複数の未成年に欲情するなんてキメェもん読ますなよ!」

 

 叫びながら、彼女は何度も何度も人形を壁に叩きつける。それは人形の糸が解れるまで続けられた。

 

 彼女はまた翌日、次にいいねしてくれた人の話へと向かう。その人は男女の社内恋愛ものを書いていた。アイコンは紺色スーツだったので、彼女は紺色スーツのぬいぐるみを作った。

 彼女はまた読んだ上で、感想を書いた。

 

『社長である男主人公さんとヒロインさんの、社長室とはいえ真夜中のオフィスで……なんてとても大胆ですね』

 

 そして、彼女はスーツのぬいぐるみを鋏で真っ二つにした。

 

「私情挟むゴミカスカップル、会社で盛るなよクソ」

 

 彼女はそれだけ言って、ぽーいと真っ二つにしたぬいぐるみを床に捨てた。

 

 そして、何もなかったように一日ごとにそれぞれの作品を読んでいく。

 

『創作論すごいですね、やっぱやる気と好きって気持ちが大事なんですね。他人と比べてもどうにもならないですもんね』

「SNSでずっと自分上げ他人下げばっかしてるじゃねぇか。自分の言動省みろよ。創作語ってる場合じゃねぇだろ」

 

 赤いペンギンのぬいぐるみは、火で燃やされた。

 

『重火器の話がたくさんで、そんな武器があるのかと勉強になりました』

「ヘリの名前、正式名称とか略称で書かれて意味わかるわけないだろ! シンプルになんだか書けよ! 文字でつらつら書かれてもわかるわけ無いだろ!」

 

 ヘリコプターのぬいぐるみは、針山代わりにたくさんのまち針に埋まった。

 

 最後の5人目を読もうとした。しかし、それよりも先に、彼女の感想にそれぞれから返信があったという通知が届く。皆、一様に「ありがとうございます」とお礼を言うものだから、彼女も「感想」を書いてよかったなと、思った。

 

 そうして、彼女は5人目のお話を読んだ。

 

 それは、ホラーもので「その人を模した人形に酷いことをしたら、模された人間も同じ目に合う」というものだった。あまりにも身の毛のよだつ内容で、彼女は冷や汗を書きながらその一文一文を読んでいく。

 そして、最後彼女はいつものように感想を書いた。

 

『「とてもリアリティがある作品でした。ぬいぐるみって怖いですね。本当に」』



 

 彼女はスマートフォンからSNSを確認した。

 一人目の人は、最近階段から落ちて全身打撲で入院。

 二人目の人は、脳出血で左半身麻痺になったらさい。

 三人目の人は、家が火事で燃えたらしい。

 四人目の人は、元彼女に刺されて入院中。

 

 彼女は黒猫のぬいぐるみを、持ったまま自分の部屋を出て、扉の前のゴミ箱の蓋を開けた。

 そこには、彼女が今まで作ったたくさんのぬいぐるみが溢れかえっていた。

 

「全く、どこで私のこと、知ったんだこの人。パパもママもクズも、友達たちも、みんなこの中なのに」

 

 彼女はぬいぐるみをゴミ箱に捨てる。私のことを知ってる人は少ない方がいい。

 

「バイバイ」

 

 

 その日、5人目の人が不慮の事故で亡くなったらしい。

 伝聞なのは、そのSNSで友人という方が代わりに報告していたからだ。

 

 彼女はそれにいいねだけを押して、また投稿した。

 

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