03アルバート君観察日記その2

ある日、仕事中に部下の一人が自分のところにやってきて、

「あいつ、怪しいっす」

 と言ってきた。

「みんなアルバート君怪しいって分かってるじゃん。見た目も『マリオ』と『喪黒福造』の混合物だぞ」

「いや、見た目の話じゃないんですよ。あいつ、人がいなくなると両手を上げて腰フリダンス踊ってるんですよ。怪しくないっすか」

「そりゃあ、彼は南の国からやってきた陽気な外国人だ。腰くねくねさせてランバダくらい踊るだろう」

「とにかく一度あいつが踊ってるところ見てくださいよ」


「仕方ねえなあ」


 ということで、アルバートが部屋に一人になる時間帯を待ってみて隣の部屋から彼のようすをそっと覗いてみることにした。


 翌日、何気なくアルバートくんが仕事をしている部屋を覗くと、彼は一人だった。

 彼は辺りを見渡すとお尻のポケットからスマホを取り出して、音楽を流し始めた。


「おお!」


 彼は曲に合わせてアルバート君は両手を斜め前方に伸ばし、腰をクネクネさせながらステップを踏んでダンスを始めたのである。そしてダンスは激しさを増し、最後にはヒップホップダンスみたいな動きになっている。


「ね。踊ってるでしょ!」

「確かに。こっそりスマホで撮って、動画サイトで流してやろうか。人気出るぞ」

「やめてくださいよ。訴えられますよ」

「訴えるも何も、仕事中に変なダンス踊ってるのが悪い。ちょっとあいつに何踊ってるのか聞いてこい」


 部下がアルバートに聞いてみたところこんな感じの返事が来た。

 どうやら彼は毎週教会でゴスペルを歌いながらダンスをしているらしい。

 文字通り、「ゴスペルダンス」というやつだ。

 自分のゴスペルの知識は、映画『天使にラブソングを』位の知識しかないが、ゴスペルダンスでイエスに日々の感謝と平和の祈りを届けるのらしい。しかも今の時代は色んなスタイルのダンスを採用しているらしく、ベリーダンスのようなものからストリートダンスのような激しいものまでいろいろあるそうだ。

 アルバートくんは、小さいときから教会でゴスペルダンスを踊ることで本人なりに敬虔なクリスチャンとして生きてきたようだった。


「どうします?仕事中のダンスはやめさせますかね?」

「いや。そのままでいい。彼がダンスする時間は、いわばイエス様と交信している時間。仕事よりも大事な神聖なる時間だ。彼が仕事をさぼらず真っ当な人生を歩んでいくのには必要な時間なのだ。」

「そうなんですか!」


 そうなんですか!な訳なかろう。

 面白そうだから放置しておくのだ。


 しばらくすると、時々オフィスの偉い人から、

「あの外国人技術者はなぜ仕事中に踊っているの?」

と問い合わせが来るようになった。結構周りに見られているらしい。

 いちいち説明するのが面倒になってきたので、

「昔、交差点でダンス踊りながら交通整理していたお巡りさんがいたでしょ。あれみたいなもんですよ。彼はユニークなんです。」

と言って無理やり納得させることにしている。


当の本人は、相変わらず毎日イエスのために感謝のダンスを踊り続けている。その一方で、お仕事の方で数々のミスをやらかし、その尻拭いをさせられている自分には一切感謝はない。いい加減ムカついてきたので、そろそろ僕はダンスが終わったアルバートに、

「イエスはお前に何といった?腰ばかり振ってサボってないでさっさと働けこの野郎って言ってただろう」

と言ってやろうかと思っている。

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