第9話 ティナの魔法、アルブスへの説教。
「アル君! 何してんの!? 早く立ってよ!」
「こ、腰が抜けて立てないんだよ……!」
アルブスはティナへ逆切れをしていた。
この状況で、その態度。
もうアルブスに任せておくことはできん!
「助っ人冒険者規約第三条補足! もしもパーティーリーダーが、一時的に戦闘不能に陥った場合は、助っ人冒険者は独自の判断でメンバーを守るための行動が許可される!」
俺は規約を叫びながら、骨大剣を手にして、デスドラゴンへ突っ込んだ。
「GA!!」
そしてアルブスの前で、デスドラゴンの大顎を受け止める。
「お、お兄さん!?」
こいつは……想定以上に力が強い!
「しかしなにするものぞぉー!!」
「GAAAA!!!!」
大剣を一気に押し込こんだ。
予想外の力にデスドラゴンは怯んで、大きく後ろへ下がってゆく。
「す、すっごい力……お兄さん、本当は何者なの!?」
「俺は勇者……ゆ、勇気だけが取り柄のしがない冒険者だ! ははは!」
うっかり”勇者ノワール”と名乗ってしまうところだった。
一応、混乱を避けるため、俺は元勇者であるということはひた隠しにしている。
さて、気を取り直して、周囲の状況を確認してみる。
「あわ、あわわ……な、なんでデスドラゴンがこんなところに……?」
アルブスは腰が抜けたまま役立たずか。
しかしティナをはじめ、ロック&ガッツ兄弟は健在。
もしかしたら後でクレームをもらって、リゼさんを困らせてしまうかもしれないが……今は仕方がない!
「ティナ、ロック、ガッツ! 今から俺の指揮下へ入れ!」
「「「りょ、了解ッ!!!」」」
三人は少々戸惑いつつも、応答してくれた。
とはいえ、今の俺たちの能力ではデスドラゴンと対峙するのは無謀というもの。
ならば効果は低いかもしれないが、あれを使ってみるか!
俺は体の内側で魔力を練り上げる。
全身から金色の輝きが溢れ出た。
「おおおおおーーー!!! 受け取れぇー!!」
叫びと共に溢れ出た輝きがティナ、ロック、ガッツの三人へ降り注ぐ。
「にいちゃん、これは!?」
「おおー! 力が溢れ出てくるっ!」
「不思議……お兄さんを、ノルンさんをすごく身近に感じる……! これって!?」
「バフスキル:英雄の覇気、というものだ! これを浴びた全ての者を強化する便利なものだ!」
このスキルはリディア様から伝承されたものだ。
勇者ではない俺がどの程度増せるのかはわからない。
更にスキル自体が"光"といった形で可視化されてしまっている。
知性のある魔族ならば、バフを見破られてしまうことだろう。
やはり、今の俺はこの程度なのだと痛感した。
「GAAAA!!!!」
デスドラゴンの野生が、俺たちを危険と判断したらしい。
顎を大きく開き、太い2本の足で大地を蹴って、猛然とこちらへ突進を仕掛けてくる。
「「させるかぁーっ! ビムシールドっ!」」
すると、真っ先にロック&ガッツ兄弟が飛び出した。
輝きが勢いを増し、2人が展開した魔法障壁"ビムシールド"がデスドラゴンの突進を辛くも受け止める。
「もう少し、大人しくしていて貰おうかぁー!!」
「GAッ!?」
ロック&ガッツ兄弟の背後から飛び上がった俺は、デスドラゴンの頭部へ骨大剣の重い一撃を叩き込む。
デスドラゴンの巨体が揺らいだ。
「叩き込め、ティナ! 君の最大の一撃を! 隙は俺とロック&ガッツが作る!」
「ティナ頼んだぞ!」
「久々に派手なのぶちかましてくれぇ!」
「分かった! あたしのかっこいいところ、みんなに見せたげる!」
ティナは髪色と同じ銀の杖を、天高く突き出した。
「命を称えし聖なる光よ、今こそ我にその力を貸し与えん……!」
「ティナの詠唱が始まったぞ! 彼女を全力死守だ!」
俺はロック&ガッツ兄弟を率いて、デスドラゴンへ再度突撃を仕掛けた。
「ティナの!」
「邪魔はさせるかぁ!」
ロック&ガッツ兄弟はデスドラゴンの尻尾による薙ぎ払い攻撃を、その身一つで受け止めた。
英雄の覇気の効果は抜群らしい。
しかし次の瞬間にはもう、二人はデスドラゴンの圧力を持った咆哮によって吹き飛ばされてしまっていた。
「ふっ、敵の前で大口を開くとは愚かなり!」
デスドラゴンの真っ赤な口腔目掛けて、俺は思い切って骨大剣を投げつけた。
「GAAAA~!!」
大剣の切っ先が喉の奥に突き刺さり、デスドラゴンは口から血を流しながら地団太を踏んでいる。
「ーー汝は我が敵! 討つべき邪悪! 光に焼かれ滅せよ!」
ティナの掲げた銀の杖が、一際強い輝きを放った。
「お兄さん! 見てて! これがあたしの魔法の威力だよ! ホーリーエクスプロージョンっ!」
金色に輝くティナから、聖なる力の篭った輝きが放たれた。
「GAGA! GAAAA!!」
輝く光は幾重もの白い爆炎となって、黒いデスドラゴンを覆ってゆく。
全ての爆発が終わり、そこにたたずんでいたのは満身創痍の黒き竜。
しかし残念ながら、まだ完全討伐には至っていないらしい。
「悪いな。これで終いだ」
俺は再度召喚した骨大剣を手に、満身創痍のデスドラゴンへ突っ込んでゆく。
そして首元を鈍重な大剣で鋭く切りつけた。
「GAーーッ!!!」
ティナの魔法のおかげで硬い鱗はすっかり爆破され、防御力は皆無。
故に切れ味が心もとない骨大剣であっても、奴の急所である、首の動脈を切り裂くことができた。
デスドラゴンの巨体がゆっくりと地面へ倒れてゆく。
そしてピクリとも動かなくなるのだった。
「に、にいちゃん、これって……」
「まさか俺たちが……」
「あのデスドラゴンを倒しちゃった!? 嘘でしょ!?」
ロック&ガッツ、そしてティナの三人は噂の危険種を討伐できたことに大興奮な様子だった。
「まだ終わりではないぞ。討伐は後処理が終わって、無事ギルドに帰るまでだ! 各員、解体開始!」
「「「了解ッ!!!」」」
三人はかなりのハイテンションで、デスドラゴンの解体へ向かってゆく。
ふと、嫌な予感がしてリーダーであるアルブスの方を見てみた。
俺の方をなんだかとても鋭い視線を睨んでいる。
やはり出過ぎた真似をしてしまったか……
「お兄さん!」
と、脇へひょっこり現れたのはティナだった。
「じ、実は私、恐竜の解体って初めてなんだ。だから……教えて?」
「う、むぅ……」
アルブスが益々鋭い視線で睨んでいる。
ここは断るべきか……
「お兄さん、早くっ! こんな役立たずのことなんて気にしなくていいからっ!」
「お、おい!」
ティナは俺のことをグイグイ引っ張り出す。
どうにも抗えないのは、ティナから本気で学びたいという姿勢が感じられたからだ。
積極的に学びを乞うものに対して、分け隔てなく対応する。
リディア様もそうであったのだから、弟子である俺もそうすべき。
ならば、師の教えを体現するのならば、もう一つやるべきことがある。
「ティナ、きちんと解体は教えるので、その前に良いか?」
「え? あ、うん」
ティナは素直に俺のことを離してくれた。
その足でひどく不機嫌そうなアルブスのところへ向かってゆく。
「おいアルブス、いつまで不貞腐れているつもりだ」
「うっせ、黙ってろ……」
「だからお前はダメなのだぁ!!」
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