二章 三話
それから
出会った時のこと、二人で戦に出、偵察をしたこと、意外と楽しかった。思い出の中の俺たちも今の俺たちも。
「…な、なあ!」
しばらく沈黙が流れる。
彼は先日わずかな手勢で織田の
「実は俺にもう一度出撃命令が下った」
先ほどと打って変わり今度は彼が声を落とし喋る。
こんな飯田の声、初めて聞いた。行きたくないんだろうな。他人行儀で聞き流している。
しかし命令には逆らえない。主人の命令に従うのが
「俺は武士らしく死にたい」
再び沈黙が流れる。
生暖かい風が二人の間を駆ける。綺麗な桃色と橙色の空が群青色にかき消されてゆく。
飯田はこう続けたかったのかもしれない。
助けてくれ、と。
二人は群青色が染み渡る空を見上げる。今夜隣にいる奴が死ぬかもしれない。気づかれないように彼の横顔をみる。目が合うのを恐れてろくに見ることもできずに視線を再び空に移す。
まだ言葉はない。むしろこの景色に言葉はいらないような気がした。
「もし、俺が死んだらこいつをみて俺を思い出してほしい」
なにか含みがありそうで受け取りたくはなかった。が、まっすぐな目を見ては受け取りたくなくても受け取らざるを得なかった。こんな赤く派手な刀は奴にこそ映える。
中断していた仕込みを再開する。黙々と準備を進めてきたはずだったが「いた…」左小指を少し切ってしまった。頭の中でずっと何かがぐるぐるしている。
ある程度仕込みが終えると城外へ向けて歩き出した。腰には今の服装には不自然で似合わないほど派手な太刀を
首から下げている
少し心を痛めながらも東の門へ到着した。ここら辺はもう真っ暗だ。松明のある門の付近と門の両脇にそびえる
「何奴!?」
松永の兵だ。二人いる左の兵は顔を強ばらせながら刀を俺に突きつけ、右の兵は腰を落とし柄に手をかけている。戦の最中だから警戒するのも当然だ。役目を全うしてくれている。まだ梯子に捕まったままだったので一旦そいつらを無視し登り切る。登っている最中に二人は俺の段々露わになっていく全身を見ると強張った顔がまたさらに強張る。
「おい!貴様!」
まだ無視をする。二人の間を通り櫓に建て付けてある松明の近くへ寄る。左の兵を見ると汗をかいているのが反射で分かった。暑いからではない。近くの松明を右手で柱から抜き取り三人の顔が判るように照らす。そして左手で面頬を外す。
「あ、なんだ、
「いやー!もっと早く言ってくれればいいのに!いやー、びっくりしましたよー!」
「すまんな、急用で」
暗殺のことは言えない。けど、俺の用と言ったら大体暗殺だ。こいつらは察してくれたのか、
「あぁ…なるほど、わかりました」
と、櫓で一番眺めの良い場所を空けてくれた。
「ども…」
俺にも優しくしてくれる人がいたんだな。
目下には織田の大軍がひしめいている。その眺めは陸の星空といっても良いくらい綺麗でこころを奪われる魅力があった。
特に左の山が帯をはいているかのように横一列に並ぶ松明の光。おそらくそこが織田本陣。地図を広げ目の前の景色と地図を照らし合わせながら経路を計算する。
「えーっとですね、あの目の前の光が」
饒舌に喋ってた兵が指をさし教えてくれる。
「
「あー…すまないが松明の火が消えそうだ」
「あぁあ!すいません!すぐ別の松明持ってきます!」
大騒ぎしながら櫓を降りていく。やっと静かになった。残ったもう一人の方は少し離れたところで陸の星空を眺めている。
うるさくて中断してしまった計算を再開する。うん、これでいいんじゃないか。口には出さない。知らない人が近くにいるから。
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【丹羽】
【佐久間】
【筒井】
松永久秀と大和を奪い合いしてたライバル。この戦いで内心ニヤニヤしてそう
【羽柴】
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