二章 二話
その日のうちに俺は松永家に与えられた自分の屋敷に戻った。久秀に言われた任務を遂行するための準備をするからだ。屋敷といっても他の家臣のように広くはなくとてもこじんまりとしている。俺を慕う家臣も俺と愛しあう妻も家族もいない。二十代にもなってまだ嫁も子供もいない。周りからどう思われてるのかは大体察しがつく。が、俺の仕事、暗殺者としては独り身の方がなにかと都合が良かった。任務より大事なものが一つ減る。寂しさも不安もないまま身体中に武器を仕込んだ。両手首に二又の小刀"
着々と準備を進めていると屋敷に人が近づいてくる。気配を察知し刀に手をやる。が、ただの杞憂だった。作業に戻ろうとすると、
「おや?まだいらしたのですか?もうすっかり信長を殺しにいっているものと」
いつもの鼻につく物言いをする。
「流石、耳が早いですな、
わざと飯田殿を強調していった。
「おいおい!他人行儀すぎるだろ!」
親しい奴に敬語を使われるのが嫌いらしい。
「お前が鼻もちならない言い方をするからだろ」
「なんだよ、そんなキレてんのかよ。悪かったって」
そう言いながら
まあ、実際そんなキレてるわけじゃない。
お前と同じ態度を取っただけだ。そう言いかけたがギリギリで止めた。言いすぎる。
そんな気を使った葛藤を尻目に飯田はズカズカと縁側に座り粽を食べ始めた。多分言ったとしても怒ったりはしないだろう。彼の無頓着な性格に癪だが感謝をする。自分の隣に座れとペチペチと縁側を叩いている。
俺も作業を止め、飯田の隣に座り粽を受け取り笹を剥いた。あれ俺、犬みたいじゃね?
真っ白な粽を口に頬張り味のしない味を噛み締める。
急に飯田の言葉が喉につっかかる。
——「信長を殺しに行っているものと」——
「なぜ、俺が信長を殺しに行くことをお前が知ってんの?」
ガダガタッ
「ゴホッゴホッ」
鼻もちならない態度に気を取られすぎて気づくのに時間がかかった。久秀に言われた時は二人きりだったはず。問いただすように声を落とした。俺が苛立ってるのも意に介せず
「ん?あぁ。お前だけ天守から出てくんのが遅かったからなんかそういうこと話してんのかなーって」
両頬に粽をパンパンに蓄え喋りづらそうに喋る。もしやこいつは松永の情報を流しているかもと疑った。しかし、これ以上追求するのはやめた。多分、怖かったからだと思う。友を疑って関係を壊すのが。
————————————————————
【
松永家家臣。なんか全然検索しても出てこない。信貴山城の戦いの開戦時に織田勢を寡勢で蹴散らしたとしか出てこないからこの物語に最適な人。彼がこんなに日の目を浴びるのもここだけでは?でも、親戚とかは色々出てくる。筒井家家臣時代もあったらしい?
描いてる時は「いいだ」と描いてました…
【焙烙玉】
壺の中に火薬を詰めた、いわゆる手榴弾
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます